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No Referee,No Football

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ボールがゴールラインを割ったかどうかの判断
[J1第24節 F東京vs大宮 広島vs鹿島]

 J1第24節では、奇しくも2つの試合でシュートがゴールラインを割ったかどうかの重要な判定があった。

 ひとつはFC東京大宮アルディージャの試合の後半24分に起きた。大宮の李天秀選手が右サイドの深い位置までドリブルで持ち込み、マイナスに折り返すと、ラファエル選手がペナルティーエリアに少し入った位置から右足ボレーで合わせ、シュートはクロスバーの下を叩いて真下に落ちた。ゴール内でワンバウンドしたボールが跳ね返ってピッチ内に戻り、GKの権田修一選手がキャッチ。映像を見る限り、ボールはゴールラインを約1個分、割っていたが、名木利幸副審はゴールインしていないと判断し、飯田淳平主審もゴールを認めなかった。そして、権田選手は名木副審に目を向け、左手を上げてノーゴール判定を確認し、ボールを前方にフィードした。

 名木副審はしっかりボールとゴールラインの位置関係を把握しなければならなかった。クロスを上げた李選手にはDFのマークが付いており、名木副審もゴールラインまで数mの位置からプレーを監視していた。クロスバーに当たったボールがラインを越えたところも視野には入っていたはずだが、“見て”いなかった。

 ラファエル選手がシュートを打った瞬間、ゴール前にいた大宮の選手にオフサイドの反則がないかどうかに注意がいっていたのかもしれない。もしシュートがGKやクロスバーに当たって跳ね返ってきた場合、オフサイドポジションにいる選手が押し込めば、当然、オフサイドとなる。しかし、この場面では明らかにオフサイドポジションにいる選手はいなかった。ラファエル選手がシュートを打ったとき、オフサイドポジションに選手がいるか、いないかを瞬時に判断。その状況を頭の中のカメラに取り込んだあと、すぐに切り替えてゴールラインの状況に集中すべきだった。副審としてオフサイドラインの監視は当然だが、意識のすべてをそこにとらわれてはならない。また、“記憶視力”を十分に働かせる必要がある。

 同じ日に行われたサンフレッチェ広島鹿島アントラーズの試合は、後半のアディショナルタイムに鹿島が大迫勇也選手のゴールで1-1の同点に追い付いた。この得点にもゴールラインぎりぎりの判断が求められた。GKの西川周作選手は、ペナルティーエリア外から打った大迫選手のミドルシュートを右手で止めたが、完全でなく、ボールは転々とゴールに向かい、そのままゴールラインをわずかに越えた。西川選手は急いでボールをかき出してキャッチしたが、ボール全体がゴールの中に入っていたのは明らかだった。

 西川選手は“助け”を求めるように中原美智雄副審の方を見たが、判定は非情だった。この日の西川選手のゴールセービングは非常に素晴らしかっただけに、最後の失点がとても悔やまれたのではないだろうか。

 中原副審の見極めは、しっかりしていた。そして、ボールがゴールインしていたことを正しく家本政明主審に伝え、得点が認められた。大迫選手がシュートを打ったとき、中原副審はオフサイドラインを監視するため、ゴールラインから離れていたが、シュートの瞬間、すぐさまゴールライン方向にダッシュ。ボールがラインを越えたかどうかを確認していた。オフサイドの判断からゴールインの判断へ、すぐに頭を切り替え、体も反応させた中原副審の対応は完璧だった。

 同じ日に同じようなシーンが2つあり、そのうちのひとつはゴールが認められ、もうひとつは認められなかった。審判は間違いのないように最大限の努力をしなければならないのは言わずもがなだが、こうしたゴールラインをめぐるミスが起きる可能性は常に付きまとう。

 現在のレフェリングの基本として、例えばFK時は主審がキックと壁に入っている選手の違反を見極め、副審はゴール前のオフサイドラインの延長線上に立ち、オフサイドを監視することになっている。つまり、結果的にゴールラインはだれも見ていないことになる。確率論だが、何か起こる確率が最も低いのがゴールラインをめぐる判定だと考えられているからだ。

 Jリーグでも、FK時は副審がゴールライン上に立ち、主審がオフサイドラインを監視している時代もあった。当時は壁に入る選手がファウルを犯す確率は低く、それよりもオフサイドラインとゴールラインのジャッジが重要だと考えられていたからだ。しかし、今では9.15m離れてなければならない壁の選手が前に出てボールとの距離を縮めたり、キックに対してジャンプする際にハンドを犯したりしないかを見ることがより大事になり、ゴールラインを“捨て”ざるを得なくなった。

 主審と副審の2人で3つのポイントを見なければならない以上、無理があることを承知の上でサッカーという競技は行われている。そこで間違いが起こる可能性があることもサッカーの一部だ。しかし、南アフリカW杯のイングランド対ドイツ戦でランパード選手のゴールが認められなかったという大きなミスが起きたこともあり、ゴールラインの判定を的確に行う方策が大きな課題となった。競技規則を定める国際サッカー評議会(IFAB)は、7月の会議では議題にもあがらなかったゴールライン・テクノロジーについて、追加副審(6人制審判)も含め、10月の会議で議論することになったと聞く。

 現代サッカーは選手のスピードもさることながら、ボールのスピードも上がった。そうなると、現在の主審と副審2人の3人で審判をするというシステムには限界があり、ゴールライン・テクノロジーや追加副審の議論は必至だ。

 こうしたシステムの改革が審判のミスを減らすことにつながるのは間違いない。しかし、まずは人間である審判がしっかりと走り、見るべきところを見るように注意を持っていくことが最も大事なのではないだろうか。これは決められたことしかできないテクノロジー(機械)とは違い、人間だからこそできることでもある。少なくとも、それができていれば、たとえテクノロジーの導入がなくても、ラファエル選手のゴールもランパード選手のゴールも認めることはできたのではないか。

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