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No Referee,No Football

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サッカーのスピード感を損なう遅延行為
[J1第21節 C大阪vs大宮]

 セレッソ大阪大宮アルディージャの試合は後半3分に大宮の藤本主税選手が1試合2枚の警告で退場となった。1枚目が示されたのは前半のアディショナルタイム中。C大阪のゴール方向に流れたルーズボールを追いかける藤本選手に対し、C大阪の丸橋祐介選手が背中を向けてブロックし、GKの松井謙弥選手がペナルティーエリア内で前に出てボールを抑えようとした。

 藤本選手はスライディングタックルでボールに先に触れようとしたが、後方から丸橋選手の左足を両足で挟む形となった。藤本選手のタックルは“危ない”ものであったが、足の裏によるスライディングタックルで相手を傷つけるというものではなく、ボールへのチャレンジの意図もあったことから、岡部拓人主審は後方からの無謀なプレーでイエローカードを提示した。

 そして後半3分、C大阪の松井選手からのロングキックを藤本選手がセンターライン付近で触れたが、うまくコントロールできず、ボールはこぼれる。ルーズボールに反応したC大阪の家長昭博選手がボールキープしようとしたときに村上和弘選手がやや後方からスライディングタックル。これが家長選手の足にヒットし、岡部主審は笛を吹いた。イエローカードも考えられる強さだ。

 村上選手のファウルで、C大阪のフリーキック。すると、何を思ったのか、藤本選手は目の前にこぼれてきたボールを大きく蹴ってしまった。岡部主審は躊躇することなく、遅延行為で藤本選手に2枚目のイエローカード、続けてレッドカードを示した。笛が聞こえない状況でもなく、家長選手へのチャレンジは明らかにファウルだから、藤本選手がボールを蹴る理由は見えない。

 競技規則では「プレーの再開を遅らせる」反則を犯した場合、遅延行為により警告が示されると明記されている。もっとも、この場面ではC大阪が素早くフリーキックを行い、プレーを再開させようとしていたわけではない。C大阪は前半23分に先制点を決め、1-0とリードしていた。ファウルがあった地点もセンターラインの少し手前。藤本選手に相手のフリーキックを遅らせようという意図は、さほど見えない。“警告は厳しい!”。そうも感じられた。一方、笛が鳴ったあとにあれだけ大きく蹴ってしまえば、イエローカードも致し方ないとも思う。

 ハーフタイムを挟んでいるものの、プレー時間でほんの3~4分前に警告をもらっていた。藤本選手は次に警告を受ければ退場となることを知っていたはずだ。また、笛が鳴ったあとに大きくボールを蹴れば、警告が出る可能性があるということも分かっている。すでに警告を受けている以上は、ファウルかファウルでないか、イエローカードかイエローカードでないかという“グレー”な部分では十分に注意し、慎重にプレーしてほしかった。

 イングランドサッカー協会との審判交流プログラムで、7~8月にイングランドの主審2人がJリーグでも笛を吹いたが、7月27日の清水対C大阪の試合では、スチュアート・アトウェル主審が、清水が1-0とリードしている前半36分に遅延行為でC大阪のGKキム・ジンヒョン選手を警告するシーンがあった。

 イングランドではピッチとスタンドの距離が近く、アウトオブプレーになってもすぐにボールが戻ってくるため、プレーが素早く再開され、試合が迅速に進む。それに慣れているイングランドの主審からすると、Jリーグでは、たとえ選手に遅らせようという意図がなくても、ゲームの進め方が遅いと感じられたようだ。警告の前に何度か注意しているにしても、負けているチームのGKに対し、それも前半のうちに遅延行為で警告するのには違和感があったという意見を多くもらった。逆に“日本のGKは全体的にリスタートが遅い。いつもいらいらしていた。日本サッカーのスピードアップを考えると、妥当だった”という考えも寄せられた。

 勝っている、負けているという問題ではない。時間稼ぎのため、あるいは相手の攻撃を遅らせるための遅延行為は警告の対象となるが、それに加え、試合全体の流れを遅らせ、サッカーの魅力であるスピーディーさを失わせることも反スポーツ的である。スピード感を損なわせ、ゲームの面白さ、試合の興味をそぐような行為を排除して、より高いレベルのサッカーを目指したいものである。

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