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No Referee,No Football

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オフサイド判定のミス、副審の視野
[J1第18節 仙台vsG大阪]

 ベガルタ仙台ガンバ大阪の試合で後半14分に仙台の菅井直樹選手が決めたゴールは、本来、オフサイドの反則で、得点を認められるべきでなかった。

 カウンターから赤嶺真吾選手が左サイドをドリブルで持ち上がり、ペナルティ―エリア内中央の太田吉彰選手に横パス。前に行き過ぎたのか、太田選手は後方のフェルナンジーニョ選手に戻し、フェルナンジーニョ選手が右足ダイレクトで低いシュートを打った。

 シュートはスライディングでブロックに入ったG大阪の安田理大選手の体に当たってフワリと浮いたあと、クロスバーに跳ね返る。これをゴール前に詰めていた菅井選手が右足ボレーで押し込んだのだが、フェルナンジーニョ選手がシュートを打ったとき、菅井選手と赤嶺選手はオフサイドポジションにいた。

 オフサイドポジションとは、味方選手がパス、またはシュートなどボールに触れた瞬間、相手ハーフ内で、ボールおよび後方から2人目の守備側選手(たいていの場合、1人はGK)よりゴールラインに近い位置のことである。

 そして、オフサイドポジションにいる選手が、パスされたボールにプレー(触れる)した場合、または相手選手に触れたり、視野を妨げたり、惑わしたりして干渉した場合、あるいはオフサイドの位置にいることによって早くボールに近づくことができたなどの利益を得た場合、オフサイドの反則を犯したことになる。

 この場面では、フェルナンジーニョ選手がシュートした瞬間、菅井選手の前にはG大阪の藤ヶ谷陽介選手しかいなかった。フェルナンジーニョ選手のシュートから菅井選手がボールに触れるまでは一連のプレーで、菅井選手はその位置にいたことで利益を得ている。

 「利益を得る」とは、味方選手のパスやシュートのあと、すぐにはボールにプレーしなくても、相手選手に当たったり、クロスバーやゴールポストに当たって跳ね返ったり、あるいはGKがセーブして前にこぼしたりしたボールに対し、オフサイドポジションにいたことで他の選手よりも早くプレーできた場合も含まれる。

 ただし、これは一連のプレーである必要がある。例えば、シュートしたボールを守備側選手が一度トラップした場合などは、その後、その守備側選手が味方にパスしたボールに対し、オフサイドポジションにいた選手がプレーしても、すでに次のプレーに移っており、オフサイドにはならない。

 菅井選手が得点したシーンでは、フェルナンジーニョ選手のシュートは守備側選手(安田選手)とクロスバーに当たっているが、シュートされたボールは次のプレーに移っておらず、菅井選手はオフサイドの反則を犯していたことになるのだ。

 戸田東吾副審はフェルナンジーニョ選手がシュートを打つと、すぐにゴールライン方向にダッシュし、クロスバーに当たったボールをしっかりゴールライン近くのほぼ真横の位置から見ている。オフサイドラインをしっかりとキープし、シュートへの反応も良かった。この動き方なら、仮にボールがクロスバーを叩いて、直下のゴールライン近くに落ちたとしても、ボールがゴールラインを割っていたかどうか、正しく判定できていただろう。

 しかし、シュートが安田選手に当たったところに目を一度置き、その後ボールがクロスバーを叩いたため、視野に入れていたはずの菅井選手が意識の外に出てしまった。ボールがクロスバーに当たって跳ね返ったとき、オフサイドかどうか分からない菅井選手をあらためて確認。菅井選手がオフサイドだったという感覚はどこかに飛んでいってしまっていたのではないだろうか。

 南アフリカW杯決勝トーナメント1回戦のアルゼンチン対メキシコ戦で起きたオフサイドの判定ミスも、テベスとメキシコGKの接触の監視に気を取られすぎて、その後、メッシがループシュートを打った瞬間のテベスのポジションを確認できなかったと聞く。

 ひとつのことをしっかり見極めるのは大事だが、そのプレーの監視に集中しすぎて、次のプレーを見落としてしまうのはよくあることでもある。我々は「視野に入っているのに見えない」ということをよく言うが、“ブラックホール”をなくし、こうしたミスを減らすためには、広い視野でプレー全体を何となく見ることも大切なのかもしれない。

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