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No Referee,No Football

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警告の「人違い」、副審の重要性
[J1第11節 山形vsF東京]

 Jリーグは10日、FC東京徳永悠平選手に対する警告を鈴木達也選手に付け替えることを発表した。9日のモンテディオ山形対F東京。後半36分に出された徳永選手への警告は「人違い」であり、本来は鈴木選手に出されなければならないものだった。

 山形の田代有三選手が右サイドのタッチライン際をドリブルで持ち上がった場面。徳永選手が並走しながら追うと、田代選手はプレッシャーをよけるように反転した。ここで、徳永選手はボール際から離れ、代わって後方から鈴木選手が田代選手に追いつき、プレッシャーをかけると、田代選手を押し倒した。

 これはファウルだったが、ボールが山形の山田拓巳選手につながったため、野田祐樹主審はアドバンテージを適用した。すると、今度は山田選手に対し鈴木選手が後方からスライディングタックル。ボールへのチャレンジではあったが、ボールと一緒に後方から山田選手の足にヒットしており、野田主審はファウルを取って、プレーを止めた。

 そして、野田主審は徳永選手に警告を提示した。アドバンテージを適用した田代選手に対するファウルが、無謀な力で後方から押し倒したもので警告に値すると判断したのだが、実際にファウルを犯した鈴木選手ではなく、間違えて徳永選手に示してしまったのだ。

 確かに田代選手にプレッシャーをかける選手は徳永選手から鈴木選手に入れ替わっていた。とはいうものの、両チームの選手が入り乱れるような混戦でもなく、この場面で徳永選手と鈴木選手以外にプレーに関与したF東京の選手はいなかった。決して難しい判断ではない。

 警告に値するファウルがあってもアドバンテージを適用するときは、プレーを追いながら、例えば「●番、警告!」と声に出すと良い。選手本人に伝えると同時に、自分自身にも言い聞かせることになる。この場面はプレーが続いたのは20秒ほどだったが、1分以上プレーが切れないこともある。だれに警告を出すのか、万が一にも忘れることがないようにするためにも重要なことだ。

 下村昌昭副審も、しっかりと状況を把握し、主審が間違えていることを伝えるべきだった。ファウルはバックスタンド側のタッチライン際で起きており、下村副審からもよく見えていたはずだ。プレー間近で2人の審判が見ていたにもかかわらず、こうした簡単なミスが起きてしまったことは非常に残念である。

 野田主審、下村副審には審判委員会として、このミスを十分に分析するとともに再発しないように研修をしてもらうことになる。ファウルか、ファウルではないかという判断は審判の裁量だが、警告の対象となる選手を間違えるというのは明らかな手続き上のミスで、裁量の範囲外であるのは言わずもがなだ。

 ところで、主審と副審の関係という点では、8日の浦和レッズ横浜F・マリノスの試合でも残念なシーンがあった。後半ロスタイム、2-3と1点ビハインドの浦和がセンターラインを越えて攻撃に移ろうかという場面で、唐突にプレーが止まった。

 浦和のゴールキックから再開されたプレーだったのだが、一瞬、ボールが2つピッチ内に入っている時間があったためだった。いったんゴールラインを割ったボールを中村俊輔選手が再びピッチ内に戻し、すぐに平川忠亮選手に手渡して、平川選手がピッチ外へ投げ出したのだが、このとき、すでにゴールキーパーの山岸範宏選手がボールボーイからボールを受け取って、素早くリスタートさせていたのだ。

 山岸選手からつないでいったボールはあっという間に前方へ展開されていた。たとえ浦和のゴール前に別のボールが残っていたとしても、何の影響もない。しかも、山岸選手が蹴った直後に、平川選手がもう1つのボールをピッチ外へ出しており、2つのボールがピッチ内に入っていた時間は1秒か2秒だったと思う。このままプレーを流していても、何の問題もない場面だった。

 ところが、抱山公彦副審はボールがセンターラインを越えてきても旗を振り続け、高山啓義主審にアピールしていた。高山主審は最初、右腕を上げて抱山副審に旗を下ろすよう合図していたのだが、あまりにもずっと旗を上げているため、何か別の問題があったのかと思った。そして、笛を吹いてプレーを止め、抱山副審のところに聞きに行った。

 抱山副審はボールが2つ入っていたことを伝えたのだろう。高山主審は思わず苦笑いしていた。「それだけだったのか…」と思ったに違いない。当然、高山主審もボールがピッチ内に2つあったことには気づいていた。その上で、プレーに影響がないとしてプレーを流そうとした判断は正しかったと思う。もちろん、抱山副審の判断も、競技規則に従えば、何も間違っていない。しかし、プレーの状況や試合展開などを考えた場合、コモンセンスに欠ける判断だったのは否めない。この試合の高山主審、良いレフェリングを行っていたのに、ちょっと残念だった。

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