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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第67回:“草刈り場”の苦しみ(那覇西高)

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インターハイ全国準Vの歴史も持つ那覇西高。「沖縄に残ってもやれるぞ」というところを示す

“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

 2月中旬、宮崎県で九州高校新人サッカー大会を取材した。決勝戦は、大津高(熊本)2-1東福岡高(福岡)。ともに今季の高校トップレベルで今後が楽しみなチームだった。一方、沖縄県勢の苦戦ぶりは心配だった。県大会1位の那覇西高が3試合で勝ち点1、同2位の那覇高は3連敗で全試合5点以上失う大敗。どちらも振るわなかった。那覇西の10番を背負った許田楓太(2年)は「県内なら、自分たちのプレーが悪くても勝てるけど、全然違うと感じた。那覇高も結果が良くなかったみたいだし」と驚いていた。九州大会が各県よりハイレベルなのは他チームも同じだが、差がひと際大きいようだ。

 背景には、有力選手の県外大量流出がある。近年、他県のユース・高校チームで沖縄県出身選手を見かけることが多い。那覇西の平安山良太監督は「中学生で力のある30~40人が県外に出るので、県トレセンはU-15とU-16で顔ぶれが全部違うし、地区トレセンレベルの子も声をかけられて出て行く」と話し、いかに多くの選手が流出しているかを教えてくれた。選手獲得に乗り出すのは、全国区の強豪だけでない。許田が中学時代に所属していたWウイング沖縄だけでも10人以上がスカウトされ、県内に残った主力は2人だけ。許田自身も他県の4強、8強クラスから声がかかったという。

 沖縄県には、サッカー部を強化する私立校がないため、人材の流出が多く、流入は少ない。公立校は、教師の異動が約5年サイクルと他県よりも早い。平安山監督は「那覇西は体育科があって、サッカーが指定競技なので専門の指導者でつなげているけど、他校では(専門外の先生になるかも)分からない」と、中学年代の選手が進路に悩む環境であることを明かした。人材流出による県外との格差に向き合い続けなければならない苦しさの中で、現場は言い訳を取り払って戦わなければならない。許田は「沖縄に残ってもやれるぞというところを見せたい気持ちはある。県内では個で戦ってしまっているので、もっと組織力を高めたい」と県外勢への再挑戦を誓った。

 厳しい戦いだが、不可能ではない。2016年度の全国高校選手権では、那覇西のGK與那覇龍大が高精度パントキックで新潟明訓高(新潟)の戦術プランを崩す堂々たる戦いを見せた。GKコーチがいない中、独学で磨いた武器は、全国で威力を発揮した。今年のチームもまた、県外レベルに揉まれながら成長を目指す。道は険しくとも――島人は戦い続ける。

■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」

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