beacon

「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第76回:昨日の敵は、今日の友(アルビレックス新潟シンガポール)

このエントリーをはてなブックマークに追加

高校時代はら千葉のライバル、現在はアルビレックス新潟シンガポールでともにプレーする3人。左から星野秀平森永卓室伏航

“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

 5年前の夏、あなたは何をしていただろうか。三重県で開催されていたインターハイが終わって1週間が経つが、私は、5年前もインターハイの取材をしていた。2013年の決勝戦は、市立船橋高4-2流通経済大柏高という千葉県勢対決だった。勝った市立船橋は、主将の磐瀬剛(現京都)が累積警告で欠場したが、中盤に柴戸海(現浦和)、前線に石田雅俊(現沼津)、守護神に2年生GK志村滉(現磐田)がいた。対する流経大柏は、サイドMFに青木亮太、秋山陽介(ともに現名古屋)、ボランチに小泉慶(現柏)、前線にジャーメイン良(現仙台)、立花歩夢(現横浜FC)を擁し、控えには2年生の小川諒也(現FC東京)がいる豪華なメンツだった。

 そして現在、決勝戦に出ていた3人が海の向こうへ渡り、アルビレックス新潟シンガポールでチームメートとしてプロ生活を送っている。主将の室伏航(市立船橋高、順天堂大出身)、副主将の森永卓、得点王争いトップの星野秀平(ともに流経大柏高、流経大出身)だ。3人は攻撃の主軸として活躍し、第18節終了時に優勝を決めた。

 ただし、気を緩められない。シンガポールリーグは今季から規定を変更。チームは23歳以下の選手で構成せねばならず、大卒選手は1年しか在籍できなくなった。来年プレーするチームを得るために、勝つのはもちろん、個人の結果も重要だと口を揃える。サッカーをツールにして海外生活を続けていきたいという室伏は、英語を勉強中。森永も海外志向が強く、サッカーだけにこだわらず、まだ見ぬ世界に飛び込んで挑戦したいという。星野には、他の東南アジアのクラブから声がかかっているようだ。シンガポールという新天地に刺激を受けながら、次のステップを探っている3人にライバル時代を振り返ってもらった。

「インターハイは、立花が得点王になったけど、オレたちは1試合少なかった。同じ試合数ならマサ(石田)が取っていたはずだなんて、当時は話していたよ」(室伏)

「インターハイで勝っていれば、多分、選手権の予選でも勝てた。高校時代は、市船に負けていなければ……という思いしかない」(森永)

 かつて夢をかけて戦った日々は、良い思い出だ。同じ県で日本一を争った2チームの対決は、まさに大一番。「あんな気持ちには、もうなれない」(星野)というほどのエネルギーをぶつけた試合だった。

 昨日の敵は、今日の友。それぞれが次の人生の道を切り拓くために力を合わせ、シーズン無敗の達成と大量得点を狙い続ける。

■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」

▼関連リンク
スポーツライター平野貴也の『千字一景』-by-平野貴也

TOP