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「無理、無駄」を省き、良さを出すために重要な基本と集中力。高校選抜は可能性秘めたGK3人がポジションを争う

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左から飯田雅浩(青森山田高)、松田亮(東福岡高)、八井田舜(岡山学芸館高)のGK衆、そして伊藤竜一GKコーチ(市立船橋高)

 4月に欧州遠征を行う日本高校選抜は現在、青森山田高(青森)の主将、守護神として選手権優勝を成し遂げているGK飯田雅浩(3年)と、全国的に無名の存在ながらも選考会を通して評価を高めてきたGK八井田舜(岡山学芸館高3年)、そして2年連続で日本高校選抜候補に選出された実力派GK松田亮(東福岡高3年)の3選手が守護神の座を争っている。

 彼らを指導するのは、市立船橋高(千葉)GKとして94年度の選手権制覇、指導者としても全日本大学選抜や母校・市立船橋を指導し、Jリーガーを育成してきた伊藤竜一GKコーチ(市立船橋高、ブリオベッカ浦安)だ。“素材系”と評されていた選手たちをこだわって指導し、プロの世界へ送り出している伊藤GKコーチは、今回選出されている3人のGK(いずれも大学へ進学)が将来、いずれもプロの世界へ駆け上がる可能性が「あります」と頷く。

 1月中旬の1次選考会、1月下旬の選考合宿、そして今月13日から行われている今回の埼玉合宿で、伊藤GKコーチが一貫して選手たちに伝えているのは基本の部分だ。「元々持っているものをより良く出すため、基本のところを徹底したい」と伊藤GKコーチ。シュートセーブに、クロスの対応、ビルドアップなどそれぞれ得意とするものを持っているが、基本を高めることでそれらをより有効活用することができる。

 いつ見て、何を考えるかなど「無理、無駄を省く作業」(伊藤GKコーチ)の連続。指導期間は選抜チームの限られた時間ではあるが、飯田は「プレーも考え方も基礎がしっかりできていないと応用も多分できないと思いますし、大きい枠組みを決められているのであとは自分で実践するだけ」と語り、松田も「キャッチングの手の形だったり、細かい部分から、基礎の部分を指導してもらっている。吸収できることをしっかり活かしたい」と口にしたように、選手たちは基本への意識を高めているようだ。また『スラムダンク勝利学』の著者・辻秀一氏の講義を聞いたという伊藤GKコーチは、選手が試合中に“切れた”時間を作らないように、選手たちが良い心理状態、良いパフォーマンスを続けられるように、集中力の部分にもこだわって求めている。

 3選手それぞれがGKとして独自の考え方を持っているが、彼らは技術面や心理面の指導に対して聞く耳を持ち、「素直に受け入れてやってくれている」(伊藤GKコーチ)という。前日の練習試合では浅い位置取りでのビルドアップについて指摘されていた松田が、15日の午前練習では深さを取って対応。合宿を通して、一般的に日本人GKが苦手とされるクロスに強く行く部分も選手たちは必死でものにしようとしている。

 そして基本。ビッグセーブの前にまずはしっかり準備できていたか、もっと良い位置に立つことができなかったか、もっと無理、無駄なく封じることができなかったか……。伊藤GKコーチは同世代の仙台・石野智顕GKコーチがくどく、くどく動きを求めてGKシュミット・ダニエルを日本代表GKに育てたように、可能な限り、くどく言い続けて選手たちの可能性を引き出したい考えだ。

 合宿に参加している3人から欧州遠征メンバーに残れるのは2人だけ。各試合でピッチに立てるのは1人になる。各選手ポテンシャル高く、競争はハイレベル。チームのキャプテンを務める飯田が「今年はJに行くGKもいないですし、みんな大学に進学する。誰が特別とか試合に出れる保証とかない。良いライバル関係」と語っていたが、トレーニング、試合でより可能性を示した選手が勝ち抜くことになりそうだ。

「盗むところしかない。僕に持っていないところを2人はいっぱい持っているので盗めるだけ盗んで頑張っていきたい」という八井田だけでなく、実績のある飯田、松田も他の2人の良いプレーを取り入れ、自分の進化に繋げようとしている。

 そして、競争を勝ち抜いて欧州でチャレンジしたいという気持ちをそれぞれが持っている。松田は「去年選ばれなかったということもありますし、欧州遠征のメンバー入りについても自分はモチベーションを持ってやれているので、絶対に入ってちょっとでも試合に出たら勝利に貢献できるようにしたい」と意気込み、八井田は「ここまで来たらやるしかないので、岡山の誇りを持ってメンバー入って頑張りたい」と力を込めた。

 基本、集中力を持続して「無理、無駄」なくプレーし、必要な場面で自分の強みを発揮して勝利へ導くこと。それは欧州で戦うチャンスを得た選手、得られなかった選手ともに今後持ち続けて行くものとなる。3選手は高校選抜で学んだことやこの競争を、大学を経てのプロ入りや大舞台での活躍へのきっかけにする。

(取材・文 吉田太郎)
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