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7年続けたGKからの華麗なる転身。帝京DF荻野海生はコンバートから半年で名門のディフェンスリーダーに

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CBへ転向してまだ半年。帝京高のディフェンスリーダー、DF荻野海生

[6.12 インターハイ東京都予選準々決勝 帝京高 2-0 大成高]

 2番のユニフォームを纏い、守備陣を堂々と束ねる姿を見ている限り、その事実に気付く人はまずいないと言っていいだろう。「自分はキーパーの中では身長があまり高くない方でしたし、足もサッカー部の中では速い方だったので、『フィールドをやってみたら、この先の可能性が広がるんじゃないか』と言われて、去年の冬、選手権が終わったぐらいからセンターバックをやり始めました」。ゴールキーパーからの華麗なる転身。名門帝京高のディフェンスリーダー、DF荻野海生(3年=西東京市田無第二中出身)はまだチャレンジし始めて半年の、“駆け出しセンターバック”である。

 右SB島貫琢土(2年)、CB藤本優翔(2年)、U-16日本代表候補の左SB入江羚介(2年)と2年生が並ぶ最終ラインで、唯一の3年生となるCBの荻野は、風格すら漂わせながら相手の攻撃を1つずつ潰していく。周囲へのコーチングも、大声で、的確。「3年生ということで、自分が一番リーダーシップを取って、声掛けを積極的にやっていこうと考えていました」と自ら口にしたように、一目でディフェンスリーダーだとわかる雰囲気が頼もしい。

 CBでコンビを組んだ藤本との連携も十分。「アイツにアタックさせて、自分はカバーでと、仕事をハッキリさせました」(荻野)。ディフェンスラインの裏へ意識的にボールを落としてくる大成の攻撃にも、持ち前のスピードを生かして難なく対応。彼らが風下の前半を含め、崩れずに粘り強く対応し続けたことが、2-0の勝利に繋がったことは言うまでもない。

 試合後。荻野に話を聞くべく、日比威監督にそのことを伝えると、「アイツ、この前までゴールキーパーだったヤツですよ」とニヤリ。確かに昨年のプリンスリーグ関東、アウェイの前橋育英高戦にGKとして出場していたことを思い出す。ただ、それも言われてみて気付くレベル。とても半年前までゴールマウスに立っていたとは思えない、フィールドプレイヤーへの順応ぶりだ。

「小学5年生からキーパーを始めて、そこからずっとやっていたんですけど、自分的にも結構悩んでいて、『何か変わったことをやりたいな』とは思っていたので、センターバックをやってみろと言われた時は、素直に受け止めました。最初は驚いたんですけど、徐々に慣れてきましたね」。

 転向当初は「トラップをミスした時に、手が出ちゃいそうになりましたけど(笑)」とのことだが、元々持っていたジャンプ力やスピードは間違いなくセンターバック向き。山下高明GKコーチも「アイツの身体能力を考えれば、キーパー以上に生きるポジションですよね」と笑顔で語っていた。

 メンタル的には、ゴールキーパーよりプラスな部分もあるという。「キーパーは1つのミスで失点することもあるんですけど、センターバックは味方がカバーしてくれたり、自分が失点を守ったりということで、結構気楽にやれている部分はあります。夏は走るのがキツくて、『キーパーやりたいな』とも思うんですけど(笑)、もう走りの部分でも練習から周りに負けないようにというの意識しています」。

 自分がまだ“駆け出し”のセンターバックだという自覚も、もちろん持ち合わせている。「自分がもうここでセンターバックで出られる時間は1年もないので、100パーセントで練習に取り組むということと、自主練でパスの精度とかトラップの精度を上げていくことは意識しています。ただ、帝京は名門ということもあって、1個下の代も上手くて、自分の代もかなり良い選手がいるんですけど、その中でも試合に出られているというのは、この先の自信にも繋がると思うので、良い経験になっていると思います」。謙虚さと自信が同居する、このメンタリティもディフェンダーにマッチしている。

 念願の全国出場までは、あと1勝。その覚悟が力強く零れ出る。「試合に出ていない3年生の悔しさも背負って、一戦一戦負けないようにと戦っていますし、今日の反省と、良い点をしっかり考えて、この1週間でしっかりまた作り直して、来週の土曜日にまた頑張りたいと思います」。

 自分を認めてくれた指揮官のコンバートが正解だったと証明するために、“駆け出しセンターバック”の荻野は、ディフェンスリーダーとしての全国切符獲得を自身に誓っている。

(取材・文 土屋雅史)
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