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[EURO現地レポート]ホスト国の前に散ったドイツ、足りなかった最後の“ワンピース”

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 EURO2016もいよいよ決勝に進む2チームが決まった。地元のフランスと、FWクリスティアーノ・ロナウドを擁するポルトガル。意外なようで、順当な組み合わせのようにも思える。ポルトガルは決勝トーナメントに入ってから対戦相手に恵まれた感があり、フランスも準決勝のドイツ戦以外、それほど苦しい戦いはなかった。

 この1か月間、パリを含めた各地の盛り上がりには驚いた。地元で盛り上がるのは当たり前と思われるかもしれないが、リーグ1はブンデスリーガやプレミアリーグのようにスタンドが常に満員となるわけではない。開催国というだけでなく、現在のチームやメンバーに対する期待値も高かったのだろう。スタジアムの周辺や繁華街では、明け方近くまでフランス国歌の「ラ・マルセイエーズ」が聞こえてきた。

 余談ではあるが、試合後に観客がリズムに乗って頭上で手拍子を打つ「バイキングクラップ」と呼ばれるアイスランド代表の儀式も、さっそくフランスのサポーターが取り入れていた。シンプルで一体感を生みやすいので、日本でもこの夏のインターハイや甲子園で「バイキングクラップ」を使う学校が出てきても不思議ではなさそうだ。

 さて、敗れてはしまったが、ドイツについても書いておきたい。試合を見ながら思ったのは、このメンバーにバイエルンのFWロベルト・レバンドフスキが加われば最強だろうということ。FWマリオ・ゴメスの1トップでは力不足だったし、最後はそのゴメスも負傷でプレーできなかった。このチームの弱点は攻撃陣で、その攻撃陣がさらに手薄になったのがフランス戦だった。

 盤石と思われた守備陣ではDFジェローム・ボアテングがふくらはぎに故障を抱え、DFマッツ・フンメルスも負傷のため初戦の出場を回避した。中盤の分厚さが売りのドイツだが、最終ラインの質の高さがそれを支えている。フランス戦はフンメルスが出場停止で、MFサミ・ケディラも負傷欠場。試合中にはボアテングが負傷で途中交代してしまった。

 だが、ヨアヒム・レーブ監督も手をこまねいていたわけではない。大会序盤の2試合は右サイドバックにDFベネディクト・ヘーベデスを起用。だが、ヘーベデスの攻撃力に不満があったレーブ監督は、それを報道陣の前で口にし、グループリーグ第3戦ではDFヨシュア・キミッヒを右サイドバックで先発させた。これに満足した指揮官は記者会見で「キミッヒの右サイドバックはヘーベデスより良かった」と言うから、また驚かされた。このときヘーベデスも自身の『フェイスブック』を更新し、キミッヒの出来を称えていた。オープンであり、フェアであり、寛容だなと感じた。

 レーブ監督は単にヘーベデスにダメ出ししたわけではなく、グループリーグ第3戦の北アイルランド戦、決勝トーナメント1回戦のスロバキア戦では、後半25分過ぎにボアテングに代えてヘーベデスを投入した。序盤の2試合と違ってセンターバックでプレーさせたことで、その後の準々決勝イタリア戦、準決勝フランス戦につながった。フランス戦の2失点は不運な判定と個人の判断ミスで、フンメルスの代役を務めたヘーベデスが機能しなかったわけではない。

 とはいえ、大会序盤から最終ラインでやりくりが必要な大会だったのも確か。タイトルということを考えると、最終ラインに故障者を抱えながらでは厳しい戦いになることは最初から覚悟していたのかもしれない。レーブ監督はフランス戦後の会見で「うちのほうが良かった」と繰り返した。得点の部分以外では勝っていたと言い、「フランスはポルトガルに勝つだろうが、今日はうちのほうが良かった」とも言った。もはや負け惜しみにしか聞こえなかったが、大会前から課題は一貫して明確だった。

 最終ラインはやりくりしながらでも何とか通用する。中盤はスペインをしのぐ。しかし、前線は欧州や世界のトップを目指すには苦しい。“画竜点睛を欠く”というのは言い過ぎだが、センターフォワードという最後の“ワンピース”がそろえば、間違いなくドイツが世界最強だろう。だが、バイエルンというドイツ最高のクラブでエースストライカーを務めるレワンドフスキはドイツ人ではない。そう簡単にはいかないところがサッカーの面白さだなと、再確認させてくれた準決勝だった。

(取材・文 了戒美子)

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