beacon

F東京の練習を視察するブリスベン・ロアーのヴィドシッチ監督「日本から学ぶことは多い」

このエントリーをはてなブックマークに追加

 セレッソ大阪との試合を翌日に控えたFC東京は、22日に小平練習場で前日練習を行った。その練習を食い入るように見つめる人物がいた。今シーズン、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)でF東京と対戦した、オーストラリアのブリスベン・ロアーを率いるクロアチア人のラド・ヴィドシッチ監督だ。

 現在、Aリーグはシーズンオフ。10月5日の開幕まで時間があるため、ヴィドシッチ監督は「日本のサッカー文化を学ぶために来日した」と言う。今シーズンのACLでF東京と2試合を戦い、その試合を機にヴィドシッチ監督は、F東京のポポヴィッチと連絡を取り合うようになったという。そして、練習を見学させてほしいと打診したところ、ポポヴィッチ監督が快諾し、水曜日から練習を視察していた。

 これまでオーストラリアは、フィジカルを前面に押し出すサッカーをしてきた。しかし、ブリスベン・ロアーはボールを徹底的につなぐパスサッカーを実践し、オーストラリア・サッカー界に旋風を巻き起こしている。結果を見ても、彼らは10-11シーズン(18勝11分1敗=リーグ戦1位)、11-12シーズン(14勝7分6敗=リーグ戦2位)のプレーオフを連覇し、Aリーグの頂点に立っている。もちろん、13年のACL出場権も獲得済みだ。

「オーストラリアは、日本、韓国、中国と戦う機会が多くなりました。私たちは、彼らがどういうサッカーをするのか、たくさんのことを学ぶ必要があります。日本のサッカーはアジアで最もテクニックの高いと思いますし、日本のサッカーを学ぶことがオーストラリアのためにもなると思っています。先日のW杯最終予選でも、日本はフットボールをプレーしていました。それに対してオーストラリアはよりダイレクトなフットボールをプレーしていました。日本と戦って、勝つために、最も良い方法は何か。それを探しに来ているのです」

 そもそもヴィドシッチ監督は、なぜオーストラリアにパスサッカーを導入したのか。

「それが、正しいフットボールだからですよ。まだヨチヨチ歩きの段階ですが、私は多くの人にサッカーを見てもらいたいし、スタジアムに多くのサポーターに集まってほしい。TV中継もしてほしい。それなのに、守備的なサッカーをしたらどう思われますか? 地元の人は見てくれても、サッカーが面白いと思わないでしょう。どうすれば楽しんでもらえるか。攻撃的に、3点、4点を挙げるチームにすることです。そのためにチャンスをたくさんつくる。そうすれば、お客さんも増えるでしょう。選手たちには、そういうサッカーをプレーするように、指導しなければいけません。1年を見たら失敗に終わっていることもあるかもしれませんが、10年単位で見れば8年は成功するでしょう。アーセナルが良い例です」

 とはいえ、幼少の頃からパスサッカーに馴染んでいれば、順応するのも難しくないだろう。だが、キック&ラッシュのようなスタイルが染み込んでいるオーストラリアの選手たちに、そういうサッカーを叩き込むのは、骨の折れる仕事ではないのだろうか。

「正しい指導ができれば、そんなに大変なことではありません。日本のチームと技術面で互角に戦えるためには、10年かかるかもしれません。しかし、途中で方向を変えてはいけません。進んでいる道が正しいと信じ、努力をしなければいけません。同時に選手たちにも信頼してもらい、付いてきてもらう必要があります。それができれば、大変なことではありませんよ」

 具体的に言えば、ブリスベン・ロアーは練習中から厳しく、ロングボールを禁じてきたという。ロングボールを蹴った選手には罰金を課すくらい徹底した。

「1年間それをやれば、試合でもロングボールを蹴る選手はいなくなりますよ」

 残念ながら、オーストラリアではブリスベン・ロアーのような戦い方は、主流になっていないと言う。

「『ブリスベン・ロアーを止めろ』というチームはいますが『ブリスベン・ロアーを倒そう』というチームは出てきていませんね。守って勝ち点を持って帰ろうとするチームが多いです。でも、私たちはACLのF東京戦でもやり方を変えませんでした。F東京を止めるのではなく、F東京を倒すつもりで戦いましたからね。止めようとすれば、1回は止めることができるかもしれませんが、それ以上は不可能です。私は3回も、4回もF東京に勝ちたい。そしてACLも勝ち取りたい。そのためには、今やっているサッカーを続けることです。より良いサッカーができるようになれば、自然と結果は出るもの。時間はかかるかもしれませんが、私たちの進んでいる道は、そういう道なのです」

 Aリーグに革命を起こしている指揮官は、将来的な日本人選手の獲得も考えていると明かす。そして、それは選手にとっても、クラブにとっても、大きなメリットになるはずだと言う。

「日本人、韓国人の若い選手は獲得したいですね。高額な日本人、韓国人選手の獲得は難しいでしょうがね。でも、若い選手を獲得すれば、彼らは私たちを助けてくれるでしょうし、逆に私たちが彼らの成長の助けになることもあるでしょう。プレーの面はもちろんですが、多くの文化も学べます。例えば語学。オーストラリアに来れば英語を話すことになるでしょう。英語を学ぶことができれば、いずれ欧州に行ったときに役立つはずです。イングランドだけでなく、オランダ、ベルギー、ドイツでも第2言語のように英語は使われていますからね」

 ちなみに、F東京の若手で良い選手はいたか?と最後に聞いてみた。選手名こそ挙げなかったが「もちろん」と、クロアチア人監督は大きく頷いた。

「うちはF東京に2-4で敗れたけど、そんなに悪いチームではないと思うから、選手の努力も必要だと思う。でも、日本人選手は確実にチームの力になってくれるはずだよ」

 F東京にとってクラブ史上初となるACLは、16強で幕を閉じた。しかし、そこでの戦いを機にできた繋がりは、大切にしていくべきものだろう。同時に、その輪をさらに広げていくためにも、再びACLの出場権を獲得しなければならない。

(取材・文 河合拓)

TOP