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藤枝順心、十文字との接戦を制し歴代最多6度目の日本一!!

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後半23分、藤枝順心FW正野瑠菜(3年)はフリーでボールを受け、GKを冷静にかわして決勝ゴールを決める。(写真協力=高校サッカー年鑑)

[1.8 全国高校女子選手権決勝 藤枝順心 1-0 十文字 ノエスタ神戸]

 第31回全日本高等学校女子サッカー選手権大会決勝は、藤枝順心高(東海1/静岡)が十文字高(関東1/東京)を1-0でくだし、2大会ぶり、そして史上最多6度目となる優勝を飾った。6大会ぶり2度目の優勝を目指した十文字だったが、惜しくも頂点には届かなかった。

 ともにハードワークを怠らず、攻守の切り替えも早く、高い集中力が90分にわたって持続した好ゲームだった。

 ハイプレスをしかけ、奪ったらショートカウンター、もしくはサイドから得点機を窺う。前半から十文字の形が見える。キャプテンであるMF野口初奈(3年)を今大会初戦のケガで欠き、さらに副キャプテンや中心選手もケガで欠く中、押し込む時間は短くなかった。

 ゲームキャプテンを務めたDF杉山遥菜(3年)は、「藤枝順心は個の技術が特に優れていると思ったので、まずは守備から入って抑えようとしていた。実際にそれがハマった部分と、テクニックや判断スピードの速さにはがされた部分あった」と振り返る。

 たしかに藤枝順心は、持ち前であるテクニック、ハイプレスが健在。しかしサイドを幅広く使うというより縦に速い攻撃を意識したようなプレーが目立つ。ダイナミックな反面、時としてやや雑にも見えるプレーには意図があった。中村翔監督が、「インターハイが終わってから、ペナルティエリア幅で攻め切るボールを奪った後の攻め、カウンター攻撃を意識しながら取り組んできた」と明かす。

 互いに持ち味が出たといっていい前半は五分の展開。後半、藤枝順心は、「苦しい時間帯もあったが、前線の濱野がよくボールをキープできていたし、プレッシングの起点になっていた。山田もボールをよく狙えていて、試合を通して相手が嫌がっている、焦りが見えていたので流れを変えずに行った方が得点が狙えるのではないか、とスタッフ間で話してスターティングメンバ―のままやりきる選択をした」と中村監督が言うように、交代こそないものの、システムを変更して臨む。その中でポイントとなったのが、FW山田歩美(3年)が左サイドの前目へ位置したことかもしれない。

 後半23分、その山田が高い位置でボールを奪うとフリーのFW正野瑠菜(3年)へ。「歩美がボールを奪った時、自分にあまりマークがついていなくて内側に走りこんだらいけると思った。実際にいいパスが来て、トラップしたらGKがいたので左にズラしたらゴールが見えた」(正野)と冷静にゴールへ流し込む。90分の中で生まれたわずか一瞬の隙。これが勝負の分かれ目になった。

 十文字の石山隆之監督は「リトリートからカウンター。そしてボール握って前からストーミングでいく自分たちのスタイルを正々堂々とぶつけたゲーム。ただ、点が取れなかった。でも、上手い下手だけではなくなにか足りなかったものがあるんだと思う」と振り返る。全国決勝の舞台で、けが人も続出する中で、それでもチームの力が通用する手応えは十分に感じていただろう。それでも勝利の女神に見放されたことに「ちょっと残酷だなと」という言葉を出さずにはいられなかった。

 十文字は昨年夏の総体も準優勝、また、昨年新設され、9月に行われたJFA U-18女子サッカーファイナルズ2022も準優勝。そして今回の選手権も準優勝。しかも決勝のスコアはすべて1点差の惜敗。素晴らしい実績であると同時に悔しすぎる現実でもある。「あと、なにが足りないのか」。ある意味輝かしく、ある意味残酷に突き付けられたこの問いの答えは今後のチームが出す時が必ずやってくる。

 そして藤枝順心は、遂に選手権大会で過去最多となる6度目の優勝を勝ち取った。しかし、昨夏の総体では初戦敗退という憂き目に遭っている。前述したように、これまでと攻撃の形を変えたのはこの悔しい結果があったからだ。ディフェンス面でも「ハイプレスは徹底してやり続ける中で、攻守の切り替えの局面をいくつかの状況に整理して細かく設定した。それで失点を減らして攻撃を高めていくトレーニングに取り組んできた」(中村監督)という。まさに逆境からつかんだ頂点といえる。

 一方で、藤枝順心は今大会も活躍し、昨年10月に行われたFIFA U-17女子ワールドカップ インド2022のメンバーに入ったFW久保田真生(2年)、FW高岡澪(2年)など今後も引き続き楽しみな選手が控える。

 献身的なハードワーク、そして和の精神。全国高校女子選手権に出場してくるチームには、もはやこれらが通常装備として備わっていると見えるくらい、レベルが高まってきている。高校女子サッカーのレベルアップが、ひいては日本の女子サッカーのレベルを引き上げていく。その中心に今回6度目の頂点に立った藤枝順心という存在があることは間違いない。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 伊藤亮)
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