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関東最後の全国切符は甲府U-18の手に!10人目までもつれ込むPK戦の末に三菱養和SCユースを撃破!

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ヴァンフォーレ甲府U-18は激闘をPK戦で制して全国切符!

[6.11 日本クラブユース選手権関東予選3代表決定戦3回戦 甲府U-18 1-1 PK7-6 三菱養和SCユース 駒沢補助競技場]

 残された全国への切符は、もうわずかに1つしか残っていない。楽しい時間も、苦しい時間もともにしてきたこの仲間と、夏の群馬でさらなる冒険へと挑むために両雄が対峙した激闘は、とにかく勝利だけを求める執念がピッチ上のあらゆるところでぶつかり合っていた。

「拮抗した、どっちが勝ってもおかしくないような試合でしたね。もう最後は彼らが本当に全国に出たいという想いの強さが出ましたし、『ここに来られていない仲間のことも思ってやろうよ』という気持ちも彼らの中にあったので、そういうこともエネルギーになったのかなと思います」(ヴァンフォーレ甲府U-18・内田一夫監督)。

 最後は10人ずつが蹴り合ったPK戦で決着。11日、第47回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会関東予選3代表決定戦3回戦が開催され、ヴァンフォーレ甲府U-18(山梨)と三菱養和SCユース(東京)が対峙した一戦は、1-1でもつれ込んだPK戦で、GK高橋黎光(3年)が驚異の3本ストップを披露した甲府U-18が勝利。関東第11代表の権利を獲得し、全国大会出場を力強く手繰り寄せた。

 3代表決定戦3回戦に進出するまで、今大会の両チームは2度の負けを経験している。とりわけこの前日は勝てば全国出場という一戦に敗れ、日を置かずに最後の1試合へ向かってきたのだ。

 栃木SCユースに1-5というショッキングなスコアで屈した甲府U-18は、それでも「逆に吹っ切れたというか、昨日の時点で『今日のことは忘れて切り替えよう。明日で決めよう』とチーム全体でまとまったので、良い感じの雰囲気はありました」とMF新堀翼(3年)も口にしたように、きっちりメンタルを切り替えてきたという。それはジェフユナイテッド千葉U-18に0-2で敗れた三菱養和ユースも同様。双方が高いモチベーションでこの日のピッチに向かう。

 まずは甲府U-18が積極的に立ち上がる。前半5分にはMF望月隼汰(2年)の左CKから、最後はDF佐藤柚太(3年)が枠へ収めたミドルは三菱養和ユースGK町田成(3年)にキャッチされるも好トライ。以降も「攻撃では自分たちがやろうとしていたことを結構出せていたところもありましたね」と話した中盤アンカーの新堀がボールを引き出しつつ、右のMF大倉彪真(2年)、左のMF保坂知希(2年)の両ウイングが仕掛けて前進する狙いを遂行する。

 一方の三菱養和ユースは20分過ぎから、こちらも中盤アンカーに入ったMF山田頼(3年)を中心にビルドアップが安定。丁寧にボールを動かしながら、馬力のあるFW竹岡創(3年)とFW平石登衣(3年)の両アタッカーを生かす攻撃に迫力が出てくると、27分には決定機。左サイドを運んだMF今井颯大(1年)のクロスに、平石が合わせたヘディングは枠を捉えるも、ここは高橋がファインセーブで回避。前半はスコアレスで45分間が推移する。

 先に歓喜の瞬間を迎えたのは三菱養和ユースだった。後半9分。左サイドをドリブルで進んだFW小宮績己(3年)が竹岡とのワンツーでエリア内へ侵入すると、右へこぼれたボールをDF後閑己槙(2年)がフィニッシュ。軌道は左スミのゴールネットへ突き刺さる。あっという間にチームメイトの輪の中に飲み込まれた殊勲の19番は、何度もエンブレムにキスしながら応援席を煽る。1-0。スコアが動く。



 それでも甲府U-18は、折れない。失点から3分後の12分。投入されたばかりで新堀からキャプテンマークを引き継いだMF中村瑠志(3年)が左へ展開。保坂がダイレクトで完璧なクロスを送り届けると、走り込んだ望月のダイレクトボレーが右のポストを叩いて、ゴールへ転がり込む。「あのままズルズル行かなかったのは良かったですし、どうしても勝ちたいという気持ちがああいう形に繋がったのかなと思います」とは内田監督。1-1。あっという間に試合は振り出しに引き戻された。

 一気に突き放したい甲府U-18が攻める。15分には佐藤のパスに抜け出したFW高橋利帆(3年)がループを狙うも、三菱養和ユースも飛び出した町田が体に当て、DF横川結(3年)が何とかクリア。35分にもDF馬場哲史(3年)が左クロスを上げ、望月の丁寧な落としからMF横森日々生(2年)が狙ったミドルは左ポストをかすめて枠外へ。三菱養和ユースも38分にチャンスを創出。DF小林伊冴(3年)の左クロスに、突っ込んだFW平野真央(2年)のヘディングは枠の上へ。90分間では決着付かず。大会規定により、全国切符の行方はPK戦の結果に委ねられることになる。

『11メートルの果たし合い』は両守護神が魅せる。先攻・甲府U-18の1人目は町田が完璧なセーブ。後攻・三菱養和ユースの1人目も「自分の得意な方に飛んだら、上手く当たってくれた感じでした」という高橋が完璧なセーブ。さらに高橋は相手の2人目も、読みこそ外れたものの残った足でストップしてしまう。

 町田も2人目、3人目とゴールは許したものの、ボールには触ってプレッシャーを掛けると、甲府U-18の4人目が蹴ったキックは枠外へ。双方の5人目は成功し、PK戦はサドンデス突入。勝負はまだまだ終わらない。

 甲府U-18の7人目。完全に読み切った町田は自身の左に飛んで、ボールを丁寧に掻き出す。決めれば勝利の三菱養和ユース7人目。「7人目で止められたのも後輩でしたし、先輩として止めなきゃなと思っていました」という高橋は、右手1本でビッグセーブ。響いた守護神の咆哮。甲府U-18が死地から甦る。

 運命の10人目。甲府U-18のキックは成功したが、三菱養和ユースのキッカーが蹴ったボールは枠を外れ、激闘に終止符が打たれる。「相手が外した瞬間にみんなが走ってくる景色は最高でした。もうアレはヤバかったですね」と涙を見せた高橋の執念実る。「PK戦は技術もあるんですけど、『自分たちが勝ちたい』という気持ちが僕らにも伝わってきましたし、そういう形で送り出したので、彼らの気持ちがキックに現れたのかなと思います」と内田監督も笑顔で語った甲府U-18が激闘を制し、2年ぶりとなる夏の全国出場を全員の力で勝ち獲ってみせた。

 試合後。歓喜に沸く選手たちの横で、内田監督が苦笑交じりに語っていた言葉が印象深い。「ウチの場合は『子どもが徐々に大人のサッカーに挑んでいる』というか、本当は凄く幼い子たちなんですけど、サッカーを通じて大人になろうとしていると。だから厳しいことも言いますけど、それを理解してなんとか頑張ろうとして、それで調子に乗るとまた怒られてという、そういう繰り返しですね(笑)。その繰り返しで成長していくのかなと思っています」。

 昨シーズンのチームは小学生の頃にダノンネーションズカップで日本一に輝き、世界大会でも準優勝を経験した“黄金世代”と呼ばれた学年。常に比較されてきたことへの想いを、春先に中村はこう語っていた。「1つ上の代は個人もチームも本当に強くて、もうずっと比べられてきましたけど、僕らはずっと弱かったんです。本当に追い付きたくても追い越せない壁でしたから、ヴァンフォーレ最後の年ぐらいは、あのチームを超えていきたいと思います」。

 とはいえ、今年の甲府U-18も非常に元気なパワーを纏っている。「普段から結構喋る人も多くて、面白い人もいっぱいいて、チーム全体も明るい雰囲気でやっています」(新堀)「今年のチームは1人1人情熱を持った人が多くて、だいぶみんな個性があるんですけど、それがまとまったら強いと思っていたので、今日はまとまれたと思います」(佐藤)「みんな気持ちが1つになるとこうやって強くなれるんですよね」(高橋)。選手たちにもどうやらその自覚はあるようだ。

 新堀に今シーズンの目標を尋ねると、「シーズンが始まる前の目標としてプレミア昇格と全国1位というのを立てたんです」とニコリ。これに対して指揮官は「調子に乗りやすいんですよね。だから、『客観的に自己評価できる選手になろうね』ということは、彼らにはいつも伝えています」と言いながらも、全国大会に向けての展望をこう語ってくれた。

「彼らは優勝するって言っているんですけど、そんな簡単に優勝はできないじゃないですか(笑)。でも、『じゃあ、言った分だけ努力しよう』と。『今度は自分たちの発言を現実のものにするために、発言に対して責任を持とうよ』と。もちろん彼らを追い込むわけではないですけど、ここからは『自分たちで言い出したことだから頑張ろうね』という“キャッチボール”になると思います」。

 調子に乗って、怒られて。頑張って、結果を出して、また調子に乗って、怒られて。それでも目指すのは全国1位。どうせやるのなら、それぐらい理想は高くたっていい。エネルギーにあふれた選手たちと、それを温かく見つめる経験豊かな指揮官と。黄金世代の“次の世代”が期す大逆襲。甲府U-18は明確にその頂を狙って、真夏の群馬へと全力で殴り込む。



(取材・文 土屋雅史)

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