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大分は“首位いじめ”に成功。ハーフタイムの田坂監督の“激怒”で発奮

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[10.26 J2第7節 F東京1-2大分 国立]

 大分トリニータが“首位いじめ”に成功した。前半22分にオウンゴールで先制を許したが、前半ロスタイムにFW前田俊介が技ありの左足ボレーを決めて同点に持ち込むと、後半ロスタイムも最後の最後となった49分、MF長谷川博一が日本代表GK権田修一の股間を射抜く劇的ゴールを決めて白星をつかんだ。

「森島がすごく落ち着いてキープしてくれて、自分が上がる時間を作ってくれた。いいパスが来たので、押し込むだけでした。攻守の切り替えの多い試合だったけど、みんなさぼらずにやったからこういう結果が生まれたと思う。走ることは大分トリニータの武器にしている部分で、それが出たから勝てたと思う」

 長谷川が納得の表情を浮かべた。押し込まれる展開が続いた中、スピードと献身的な運動量が持ち味のアタッカーは後半8分から出場。左サイドに入って守備からの速い攻撃を狙った。走り続けた結果、後半のロスタイムに右サイドから仕掛けたFW森島康仁のパスを受けて劇弾を決めた。これは今季初ゴール。「結果が出て良かった」と喜んだ。

 前半ロスタイムのFW前田俊介のビューティフルボレーと合わせ、2得点ともロスタイム弾だった。2得点ともロスタイム弾というのは、今季初めてのことだ。前節まで順位は12位で、優勝争いからも大きく外れている大分だけに、その勝利への執念はどこから来たのか。そこには2つの“物語”があった。

 1-1の同点弾を決めた前田は、9月3日の富山戦で2度の警告を受けて退場した際、主審の顔をつかむなど異議行為に及んで6試合の出場停止処分を受けた。19日の愛媛戦で復帰したばかりだが、チームに迷惑をかけた分、フル回転が期待されていた。本人も当然、そのつもりでいる。復帰からこの日が3試合目で、相手は古巣。復帰後すぐに先発で使ってくれた田坂和昭監督をはじめ、支えてくれた人に“首位撃破”で恩返ししたい思いがあった。

 前田は「ゴールは、パスが来たら、打てれば打とうと思っていた。入って良かったです。たまたまですけどね。こういう相手に勝てたのは、チームが成長していることだと思う」と振り返りつつ、自身のことについては「休んでいる間、反省しながらやつていた。その間も練習はしっかりやっていたので、コンディションに問題はないです。いろいろな人に支えられたことはよく分かっている。それをいつも忘れずにやっていきたいと思っている」と今後もプレーで恩返しすることを明かした。

 もう一つは田坂監督の“一喝”だった。試合前から指揮官は、首位が相手のうえ、この日の試合会場がサッカーの聖地・国立ということを踏まえ、選手を鼓舞していた。長谷川によると、試合前のミーティングで「監督から言われたのは、J2でこんなにいいスタジアム、国立でできるというのはあまり経験できないこと。それにF東京は実力も高くて首位にいるチーム。楽しんでやってい来いと言われた」という。

 そんな中、大分は前半はシュート3本。ロスタイムに前田のゴールで追いついたとはいえ、どこが受け身の姿勢があった。そこで、ハーフタイムに雷が落ちた。主将の宮沢正史によると「監督はめちゃ怒っていた」という。選手を前に「腰が引けてるぞ! もっといけるだろう! 思い切ってプレーしろ!」と怒りをあらわにして鼓舞した。これで選手たちは戦う気持ちを呼び覚ました。指揮官のゲキが最後まであきらめずに、逆転勝利をつかむ“源”になった。数字を見ても、後半はF東京を2本上回る9本のシュートを放っている。

「順位が何位だからとかで、モチベーションが下がることはないです。田坂監督がやりたいサッカーというのを実践しようと、選手は強い気持ちを持っている。とにかく勝つことが大前提。どこのチームも勝つことを目標にやっている。今日勝ったからといって気を抜かず、1戦1戦、目標を持って戦いたい」と長谷川。今後は千葉や札幌といったJ1昇格を争うチームとの対戦を残すが、これからも“上位いじめ”を続けるつもりだ。

(取材・文 近藤安弘)

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