"開幕前哨戦"はメキシコの圧勝?
[6月11日午前0時@ヨハネスブルク]
いよいよ11日、W杯南アフリカ大会が開幕する。ヨハネスブルクのサッカーシティで現地時間午後2時から開会式が行われ、午後4時(日本時間午後11時)、南アフリカ対メキシコの開幕戦がキックオフ。31日間に及ぶ大会の火ぶたが切って落とされる。
開幕前日となったこの日、ヨハネスブルク郊外のサントン地区にある大型ショッピングモール「ネルソン・マンデラ・スクエア」ではメキシコのサポーターが早くも大騒ぎだった。12日に同じくヨハネスブルクのエリスパークで試合を行うアルゼンチンのサポーターも加わり、地元の南アフリカの人たちを圧倒するほど。“開幕前哨戦”はメキシコの圧勝でした。
ついにW杯が開幕するんだな…。そんな感慨を抱く一方で、やはり普通のW杯とは異質な部分も感じています。
メキシコ人が大騒ぎしていたと言っても、それはごく一部の場所。「ネルソン・マンデラ・スクエア」内にはネルソン・マンデラの銅像が立つ広場があり、サポーターが集まって盛り上がっていたのは、その一角だけ。一歩、そこから外に出れば、大通りにも人気はなく、W杯開幕が翌日に迫っているとはとても思えない雰囲気でした。
「世界一危険な都市」とされるヨハネスブルク。治安の問題はサポーターにも暗い影を落としている。みんなで集まって盛り上がり、W杯を純粋に楽しむことができるのは、本当に限られた場所しかない。ヨハネスブルクの中で比較的治安が良いとされるサントン地区の、さらにその中でも安全と思われる高級ショッピングセンター内のひと区画だけなのです。
サントン地区では前日9日、南アフリカ代表チームのパレードが行われ、大盛り上がりだったのは前日のコラムでも書きました。しかし、その後、サッカーシティでADカードを受け取り、サントン地区のホテルに戻った午後10時過ぎにはまったく人通りがなく、昼間と同じ街とは思えない光景でした。
メディアバスを降りてホテルの入り口をくぐるとき、ふと後ろを振り返ると、道路を挟んだ向こう側の歩道には暗闇の中で光る黒人の白い目…。ただの通行人だったのかもしれません。ただ、こちらをじっと見つめる視線に、一瞬背筋が凍る思いをしたのも事実です。
お祭り騒ぎだった昼間のサントン地区でも、通りをひとつ曲がるだけでガラッと雰囲気が変わることがあります。舗装されていない道路脇の壁にもたれかかる人たち、道端に座り込む人たち…。
もちろん、普段触れ合う南アフリカの人たちはみんな親切で、笑顔がまぶしい素晴らしい人たちばかりです。ただ、日ごろ接することのない人たちに対しては、ごく一部とは分かっていても、やはり恐怖心を拭えません。
南アフリカの“光と影”。ひとつの街にいても、昼と夜で、あるいはちょっと道を隔てただけで、そのコントラストを感じざるを得ないのです。
(文 西山紘平)