イニエスタが南アで見せた友情
[7月11日27時@ヨハネスブルク]
延長後半11分、初優勝を手繰り寄せるファインゴールを決めたイニエスタは、すぐさまユニホームを脱ぎ、スペインサポーターのいる方向へ一目散に走って行きました。
アンダーシャツには「DANI JARQUE SIEMPRE CON NOSOTROS」と書かれていました。
その意味は「ダニ・ハルケ、僕らはいつもともにいる」。昨年8月8日に26歳の若さで急逝した天国の親友へ送るメッセージでした。
イニエスタとハルケは、U-17を皮切りに、U-21までスペインの年代代表でともにプレーし、02年にはUー19欧州選手権で優勝しています。
「ワールドカップで優勝するなんて信じられない。言葉が出ない。この優勝はハルケに捧げる」
イニエスタは穏やかな笑みを浮かべていました。
オランダとの決勝戦は、激しい試合でした。華麗なパスワークをしようにも、相手のチャージが余りに激しく、攻撃が分断されました。
そんな中、イニエスタは、前半11分と延長前半9分に自らのシュートコースがありながらもパスを選択し、半ばチャンスを失っていました。最後の最後にやっと決めることができたのは、親友の“後押し”があったからかもしれません。
6月11日に開幕したワールドカップが、幕を閉じました。この1カ月間、日本と世界のsamuraiを追う一方で、アフリカ開催の意義とは何だろうとゆっくり考えてきました。
はっきりした答えが分からぬまま迎えた決勝で、ようやく見えたことがありました。イニエスタが見せた友情を、オランダがピッチに花道を作ってスペインの初優勝を祝福する姿を、サッカーシティの8万4490人の入場者はいずれもスタンディングオベーションで称えていたからです。
人間として大切なことは世界中どこへ行っても同じ。南アフリカの人々がそれを気づかせてくれたことに感謝します。
「This time for AFRICA!」
(文・矢内由美子)