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直伝 澤穂希 in USA

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「ていねいさ」を身につける練習

こんにちは、澤穂希です。日本は夏まっさかりでしょうか?私は7月に7試合もあり、うち5試合がアウェーというハードなスケジュールでした。遠征に次ぐ遠征で飛行機に乗りまくり、しかもアメリカ代表選手が代表の合宿でチームを離れていたこともあり、苦しい闘いの月でした。

さて、前回お話した、私が日本の武器と考えている「ていねいさ」いついての話の続きです。具体的にどう「ていねいさ」を身につけるのか。ここでなでしこ(ジャパン)での練習法を紹介したいと思います。
といっても、トライアングル(三角形)になってパスを回す、というオーソドックスなものです。サッカーをしている人なら誰でもやったことがあるでしょう。ただひとつ、意識してほしいことがあります。それは「パスをもらう前に周りを見る」ということ。

例えばトライアングルになって右回りにパスを回していくとします。つまり、自分より右にパスを出すことになりますね。この時、なでしこでは「右にパスを出す場合も、左にパスを出せるように見てポジショニングしろ」と言われます。

右にパスを出すだけであれば、まず来たボールを自分の右側にトラップする、そして相手の右足をめがけてパスを出すと全体のパス回しがスムーズになります。これが「ていねいさ」の第一段階。さらに続けていくと、トラップ時にあらかじめ身体を右方向に向けるようになるかもしれません。

ただこれが「左にパスを出せるように見て」となると話が変わります。つまり来たボールの方向にパスを戻すことを想定しつつ、右にパスを出す。するとトラップの位置も変わってきます。
例えば両足で正確に蹴れる選手なら、まず左右の相手の位置を確認して、来たボールを自分の目の前(中央)にトラップするように位置取りするようになります。そうすれば、右に蹴る場合は左足で、左に蹴る場合は右足で、と両方にパスを出せる状態が作れます。これが右足だけで蹴りたい選手であれば、右に蹴る場合はアウトサイドで、左に蹴る場合はインサイドでパスできる位置にトラップするように動きます。

これが「ていねいさ」の第2段階。……だいぶ細かな話になりましたけど、わかりますか?
これをさらに進めると、今度はパスする相手が、両足で蹴れる選手か、右足だけで蹴りたい選手か、などというタイプに応じてパスコースを変えるようになります。「ていねいさ」にもいくつものレベルがあるんですね。
トライアングルでのパス回しは基本的な練習メニューですが、意識ひとつでとても高度な練習にもなりえます。もしこれを読んで興味を持った方がいたらトライしてみてください。“次を考えてボールを止める”“相手の気持ちを汲んで蹴る”かつ“周りを見る”という3つの要素が入ると、結構難しいですよ!?

なでしこでは、このトライアングルでのパス回しに、みんなこだわりを持って臨んでいます。そして右回りだったのが突然、本当に左回りに変わったりすることもあるので、気が抜けません(笑)。
ワシントンではこのようなこだわりを持ってる選手は少ないかもしれません。やろうとしている選手はいますが、なでしこと比べるとまだ意識に差があるかと。みなさんもぜひ、この「ていねいさ」という世界に通じる武器を身につけていただきたいと思います!

▼関連リンク
澤選手自身が女子サッカーのすべてを説き明かした自著『直伝 澤穂希』

※本コラムは隔週更新予定です。このコラムの感想や澤選手への質問はこちらまでお寄せください。

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