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ピッチに恋して by 松原渓

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J1第30節・川崎対鹿島
by 松原渓

J1第30節
川崎フロンターレ×鹿島アントラーズ…19,693人

優勝争いも大詰め。
毎週末、どのスタジアム(試合)に行くか悩みは尽きません。先週、等々力ではフロンターレ(4位)×アントラーズ(2位)の上位対決があり、味の素スタジアムではヴェルディ×ジェフのJ2昇格争い天王山、日産スタジアムではACL圏内を目指すマリノス×残留争いのFC東京の一戦。
中でも、等々力の一戦には何かが起こりそうな雰囲気がありました。

思い出すのは、09年7月のナビスコカップ準々決勝第2戦。第1戦を0-1で落としていたフロンターレが、絶体絶命の後半44分からジュニーニョ選手の劇的弾で振り出しに戻し、延長の末に勝ち越した奇跡の逆転劇。
また、同年9月のリーグ戦で、豪雨の影響で後半29分に中断となり、Jリーグ初の途中再開試合になった一戦。この、サッカーの神様の悪戯とも思えるような2試合が強烈に印象に残っていたからです。
そして、王者アントラーズが苦手意識を隠せない唯一の弱点が、等々力で行われるフロンターレ戦だったんです。
昨年の対戦は1分2敗、今シーズンのナビスコカップも等々力で行われた第2戦で逆転を許し、ベスト8で敗退。アントラーズがこの等々力を「鬼門」とする理由には、芝の長さ(カシマスタジアムの25~30ミリに対し、等々力は13ミリと短いためボールが走りやすい)もあるようです。

いずれにしても、この一戦で、逆転優勝を目指すアントラーズが苦手意識を見せてきた「等々力」を克服することが、今シーズンの優勝争いに望みをつなぐために超えなければならないハードルであることは明らかでした。

試合は序盤からホームのフロンターレがボールを支配し、アントラーズは慎重な立ち上がり。
そんな中、先制点を生みだす起点となったのは、今シーズンから正式にプロとしてフロンターレに加入した23歳の若きドリブラー、楠神順平選手。右サイドでマッチアップしたジウトン選手が飛び込んできたところを上手く交わしてフリーで持ちあがり、GKとDFの一瞬のギャップを突く絶妙のクロス。このスペースに飛び込んだ矢島選手がインサイドで合わせたボールはバーに弾かれたものの、詰めていたヴィトール・ジュニオール選手が落ち着いて決め1-0。

しかしここから、アントラーズのエースが本領発揮。アントラーズは興梠慎三選手が出場停止となったため1トップのマルキーニョス選手にマークが集中しましたが、状況適応能力もマルキーニョス選手のすごいところですね。豊富な運動量とポストプレーで味方を生かしつつ、空中で反転ボレーシュートを放ち会場を沸かせるなど、シュートとアシストを見事に使い分け、フロンターレDF陣を翻弄。イライラしたDF陣はファウルで止めざるを得なくなり、38分には絶妙の位置でFKを獲得すると、野沢拓也選手の蹴ったボールをファーで構えていた中田浩二選手が押し込んで1-1。
後半、フロンターレは前半接触プレーで負傷したGK相澤選手に変えて杉本力裕選手を投入。しかし、62分に突如として起こったミスからの失点は、野沢選手を狙った小笠原選手のロングパスに対し、杉本選手と森勇介選手がお見合いしてしまった連係ミスから生まれたものでした。フィールドの選手と違い、GKは滅多に途中交代がないため、「試合に馴染む」感覚を掴むのはより難しいのでしょうけど……試合巧者のアントラーズに追加点を与えたリスクは大きすぎました。リードした状況で残り時間を逆算した試合運びこそ、王者が最も得意とするところ。残り30分、フロンターレは怒涛の勢いで攻めましたが及ばず、1-2で鹿島が勝利。逆転優勝に望みをつなぎました。
ついに、鹿島が等々力で勝利!後から知ったのですが、なんと等々力での勝利は10年ぶりだったそうです。2点目はラッキーな形だったとはいえ、この勝利が与えた自信は大きいのではないでしょうか。

一方のフロンターレはこの敗戦で優勝の望みはなくなってしまいましたが、ACL圏内の3位に狙いを定めました。3位G大阪から7位のマリノスまでが5差にひしめく混戦を制するのはどのチームか。
「強い者が勝つのではなく、勝った者が強いのだ」
とは元ドイツ代表のフランツ・ベッケンバウアー氏が1974年 W杯西ドイツ大会優勝時に言った言葉ですが、今シーズンのリーグ戦を戦い終えた時、この接戦の中でタイトルを手にしたチームこそが、王者の称号と共に、強者のメンタリティーなど目に見えない多くのものを手にしていることでしょう。

※本コラムは毎週月曜+αの更新予定です。このコラムの感想をこちらまでお寄せください。

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