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ピッチに恋して by 松原渓

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全日本女子選手権準決勝
by 松原渓

全日本女子選手権第5日目、準決勝が26日、西が丘サッカー場で行われました。
優勝候補のベレーザが姿を消した今、どのチームが新王座に輝くか、女子サッカーファンなら非常に興味をそそられるところでしょう☆

準決勝のカードは以下の通り。
第一試合は、今大会の前回覇者で今シーズンのリーグ戦王者の日テレベレーザに延長・PK戦の末に大金星を挙げた常盤木学園高校(宮城)vsベレーザ前監督の星川敬監督率いるINAC神戸(神戸)。
第二試合は、前回大会は決勝で涙をのんだ浦和レッズレディース(埼玉)×アルビレックス新潟レディース(新潟)。
勝者同士が元旦の国立競技場で決勝を戦います。

今回は第一試合にスポットを当てます。
前節でベレーザを下した常盤木学園は、今大会史上最大の番狂わせを起こしたと言ってもいいでしょう。なでしこジャパンの選手も多く所属するベレーザの圧倒的な攻撃力を凌ぎきった守備が、同じくなでしこリーグで勢いのあるINACに通用するのか…というポイントに注目しつつ、個人的な願望としては、ジャイアントキリング(常盤木の勝利)が続くのを見たいけれど、なでしこリーグの意地も見せてほしい(INACの勝利)…と両チームに肩入れして観戦しました。

戦前の予想通り、ボールを一方的に回すINACに対し、常盤木学園は前線からコンパクトな陣形でゴール前を固め、ゾーンディフェンスでしっかりと対応。これまで格上を破って勝ち上がってきた常盤木の選手達のプレーはINACを相手にしても堂々たるもので、ディフェンダーは全く競り負けずに体を張り、逆にカウンターから先制点…!?というチャンスまで作り出します。運動量と無駄のないカバーで、1+1を2ではなく3にするような守備。そこに個々のがむしゃらさが加わり、前半の常盤木は見事にジャイアントキリングの雰囲気を漂わせました。
しかし、ここまではINACもスカウティング済みだったのです。「押し込みながら、引いた相手をどう崩すか」(星川監督/試合後)が、そもそもこの試合の狙いのひとつだったそうで、ハーフタイムに立て直しをはかります。すると後半開始間もなく、選手の奮起が実ります。
MFの田中明日菜選手を起点に3トップの川澄奈穂美選手、高瀬愛実選手、米津美和選手の4人にボールが入ると、個々の能力が高い上に息の合った連動で次々に決定的なチャンスが生まれ、4分、ゴール前の混戦から米津選手のゴールでついにINACが常盤木のカテナチオをこじ開けます。ここで、私の頭をよぎったのは、それまで緊張感を保っていた常盤木DF陣が一気に崩壊し…というシナリオでしたが、失点の後に常盤木が見せたのは、落胆でも諦めでもなく、点を取りに行く姿勢でした。どんな状況・相手にも逆転を信じるその姿勢には好感が持てました。しかも、後半はエース・京川舞選手を投入。ケガ明けで万全でないとはいえ、U-17の仲田歩夢選手とのホットラインは高校生とは思えない可能性を感じさせてくれました。

しかし、先制して焦る必要がなくなったINACは、前半のいくつかのミスが嘘のような息の合ったパスワークでカテナチオをいとも簡単に崩す場面が増え、66分の田中明日菜選手の追加点を皮切りに、74分、81分とゴールラッシュ。75分の米津美和選手の5点目でようやく落ち着きを見せましたが、さすがに常盤木学園の選手達も精神的、体力的にも疲れがどっときたのか、クリアするのが精いっぱいに。
試合はそのまま5-0で終了。前半0-0、後半5-0と、終わってみればINACの完勝となりました。
最後まで一矢報いようとシュートを打ち続けた常盤木の健闘ぶりは印象的でしたが、それ以上に、後半、特に2点目以降の、解き放たれたINACの攻撃力は強烈なインパクトを残しました。

チームに来て最初に変えたことは何ですか?という質問に「選手達に自信を植え付けたこと」と答えたINACの星川監督。
昨年までは、1トップの高瀬愛実選手の孤軍奮闘ぶりばかりが目立っていましたが、今では各選手が絶妙の距離感を持って、各自の持ち味を生かせるようになっており、常に高いラインで攻撃的なサッカーを展開。選手も楽しんでプレーしているのでしょう。
そのINACはシーズンの終わりに韓国女子代表からチ・ソヨン選手(19)、クオン・ウンソム選手(20)を獲得。チ・ソヨン選手は韓国女子代表29試合で18ゴールを決め、U-20女子ワールドカップ2010ドイツ大会でシルバーボール(最優秀選手賞第2位)と、シルバーシューズ(得点ランク2位)を受賞した逸材。
来シーズンは新たな補強でチーム内の競争も高まり、なでしこリーグの台風の目になることは間違いありません。

2試合目は、2007年以降アルビレックス新潟レディースに無敗の浦和レッズレディースが、危なげない試合展開で3-1と勝利。
新潟は、11月のアジア競技大会で代表に復帰し、金メダルに貢献したなでしこジャパンを代表するボランチの阪口夢穂選手がトップ下にポジションを取り、多彩なパスで攻撃を組み立てようと試みますが、レッズレディースのダイレクトを織り込んだショートパスサッカーに押し込まれる時間帯が次第に増え、3点目で万事休す。

決勝は、INAC神戸レオネッサ×浦和レッズレディースのカードになりました。

この日の西が丘のスタンドは豪華で、永里優季選手(ポツダム/ドイツ)、宇津木瑠美選手(モンペリエ/フランス)ほか、J2に昇格したガイナーレ鳥取の松田岳夫監督らも訪れていました。

元旦の恒例行事となった女子選手権決勝と、天皇杯決勝。
今年もサッカーで年を越したいと思います♪それでは皆様もよいお年を☆

※本コラムは毎週月曜+αの更新予定です。このコラムの感想をこちらまでお寄せください。

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