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ピッチに恋して by 松原渓

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あけましておめでとうございます☆
by 松原渓

元旦は、年始恒例の女子選手権決勝&天皇杯に行ってきました。
好きなサッカーで年明けを迎えられる幸せを今年も実感しましたよ♪

さて、天皇杯についてはリアルタイムで観戦&チェックしていた方も多いと思いますので、ここではその前に行われた女子の決勝に触れたいと思います。

日本最大のサッカーのオープントーナメントである天皇杯、の女子版である全日本女子選手権が始まったのは、1980年から。
1921年に始まった天皇杯に比べると歴史は浅いですが、1989年のLリーグ発足を後押しし、そしてなでしこリーグの発展と共に続いてきた由緒ある大会です。

今年は、過去10回の優勝を誇るベレーザが常盤木学園に敗れる大波乱があり、その常盤木を準決勝で5-0の大差で破ったINACと、対するは、リーグでベレーザと勝ち星を二分しながら、さいたまレイナス時代から一度も優勝がない浦和レッズレディース。どちらも、悲願の初優勝をかけた決勝戦となりました。

リーグでの成績を考慮すれば、INACが挑戦者としてレッズレディースに挑む、という図式でしたが、実際に試合が始まってみると、全く逆の展開に。INACは準決勝後半で見せた(5得点)攻撃力を証明するかのように、前半から11人が連動したパスサッカーでレッズレディースを圧倒。
7分に川澄奈穂美選手がFKにヘディングで合わせてあっさりと先制ゴールを奪い、一方的な展開を予感させます。

しかし、レッズレディースも粘り強いディフェンスでカウンターからチャンスを作り、徐々に本領発揮。31分には北本綾子選手が仕掛けて2人を抜き、フリーで走り込んだ荒川恵理子選手に、エンジェルパス!
しかし、荒川選手のシュートはGK正面に飛んでしまい、決定的なチャンスを逃してしまいます。

前半はINACが1点リードで後半へ。後半はINACに攻め疲れが見える一方、レッズレディースが主導権を握る場面も増え、23分には堂園彩乃選手がドリブルからの個人技で同点に。
その後は両チームとも追加点を奪えず、試合は延長なしのPK戦に突入。
浦和は3人が外し、INACは5人目の川澄選手がしっかりと決め、見事初優勝の栄冠に輝きました。

改めて試合を振り返ってみると、INACは前回の記事でも書いた前線の4人の個性が目立ちました。まず、3トップの圧倒的なパワー。米津美和選手の巧みなドリブルとターン、高瀬愛実選手のフィジカルを生かしたポストプレー、川澄奈穂美選手の視野の広いパスと、最後の一瞬で判断を変えても対応できるテクニック。そして、その3トップを生かす田中明日菜選手のゲームメイク能力の高さ。一方のレッズは、個人よりも組織力を武器として、昨年リーグ女王らしい隙のないサッカーを見せてくれましたが、やはりいくつかの決定的なチャンスを決められなかったのが響いていました。                       ただ全体的な印象としては、例年以上に、90分という男子と同じ時間の中で最後まで質の高い駆け引きを見せてくれたと思います。早くからスタジアムに来ていた大勢のアントラーズサポーター、エスパルスサポーターも含め、何か伝わるものがあったのではないかと期待しています。

敗れたレッズレディースは2年連続準優勝と、歯がゆい結果になってしまいましたが、国立競技場で普段の数倍の観衆の前でプレーできることは、選手にとってもサポーターにとってもかけがえのない経験になるでしょうし、夢の舞台でしょう。

あくまで個人的な見解ですが、今回のレベルの高い決勝戦に象徴されるように、08年の北京五輪以来、女子サッカー全体のレベルアップを実感しています。そして、そこには大きく2つの理由が浮かびます。
まず一つ目は、佐々木則夫監督(なでしこジャパン)が、代表に招集する選手を固定せず、チームとしての軸はしっかりと持ちながらも、若手からベテランまで、大会ごとにその時々で調子の良い選手を招集するようになったこと。
2000年代前半は、代表は特にベレーザの選手が多くを占め、国際経験豊富な選手が1チームに偏っていたことも、ベレーザの1強時代が続いた理由でしょう。しかし、北京五輪以降、各チームに代表選手が散らばるようになり、リーグの勢力図にも少しずつ変化が見え始めました。
各チームから国際大会に出場した代表選手がそれぞれのチームに経験を伝え、他の選手が私にもチャンスはあるんだ、と感じ競争意識が高まれば、レベルアップは時間の問題でしょう。

もうひとつは、昨年のU-17女子ワールドカップで準優勝の快挙を成し遂げたことに象徴される「若いの年代のレベルアップ」。一昨年は岩渕真奈選手(ベレーザ)や、熊谷紗希選手(レッズレディース)ら、U-20世代が注目されましたが、昨年、さらにその下の、高校生年代がワールドカップで準優勝という素晴らしい快挙を果たし、サッカー界に留まらず、日本中で大きな注目を集めました。この準優勝の立役者でもあり、準決勝で世紀の5人抜きを決めた横山久美選手(十文字)や、今大会でベレーザを苦しめた常盤木学園の仲田歩夢選手や京川舞選手らが、女子サッカーの認知を上げるとともに、トップリーグであるなでしこリーグの選手達にも良い刺激となっているのではないかと思います。

そして、今回のINACの優勝はPKにもつれ込みはしたものの、内容の伴った勝利であり、その理由として、星川監督の存在が大きな影響を与えたことは間違いありません。
一人の監督が、同じ大会で2連覇を果たしたのは初めて。
「2ヶ月でサッカーが変わったと言われるのは嬉しいけれど、僕が来て変わったのではなく、元々選手達が持っているポテンシャルを出せていなかった。」
また、韓国から2選手を獲得、さらなる補強の予定もあり、「国際色豊かなチームを指導するのは楽しみです」「(補強で)来年は数値的には今年よりも上。ウイイレ的にはね(笑)あとは僕がコントローラーを間違えなければ」とし、「女子サッカー界のスペシャルワンを目指します」(星川監督)と、モウリーニョ監督の言葉を借りて締めくくった星川監督。
強力な補強で来季はどんなサプライズを見せてくれるのでしょうか。

プロ契約選手は一握りで、選手が仕事とサッカーを両立させているチームが多い中、INACはプロ契約選手こそ少ないものの、全員が仕事はせずにサッカーに打ち込めるという恵まれた環境も、コンディションと責任感を保つことができる理由でしょう。

今後、INACというクラブを一つのモデルにして、各クラブのプレー環境の向上を願います。

そして、今年は女子サッカーはワールドカップという一大イベントがありますから、こちらも非常に楽しみです☆

※本コラムは毎週月曜+αの更新予定です。このコラムの感想をこちらまでお寄せください。

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