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Jを目指せ! by 木次成夫

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263回 JFL後期1節「信州ダービー」
by 木次成夫

「ダービー」と称される試合は日本各地に多々ありますが、長野パルセイロと松本山雅の『信州ダービー』には独特の魅力があります。長野市と松本市の歴史的対抗意識。「Jリーグを目指すクラブ」同士が、地域リーグ所属時代から熾烈な昇格レースを繰り広げてきた経緯。「ダービー」に相応しい、拮抗した試合展開の連続。増え続けるファン(サポーター)……。

 今季前期の山雅ホームはパルセイロが華麗に先制したものの、山雅が2-1で逆転勝ち(第254回コラム)。そして、パルセイロ・ホームの今回は……。もはや、「劇的でなければ信州ダービーではない」と評しても、過言ではありません。

●7月3日 JFL後期1節
長野パルセイロ 1-1 松本山雅

[得点経過]
13分 1-0(長野:FW宇野沢祐次、28歳、元・柏など)
*右サイドから向慎一がファーサイドへクロス→藤田信がヘディングで折り返し→宇野沢がダイビング・ヘッド。

89分 1-1(山雅:FW塩沢勝吾、28歳=今季加入、前・佐川印刷←水戸)
*松田直樹が中盤から縦パス→弦巻健人が飯田真輝とのワンツーでゴールライン付近まで切れ込み、右サイドからファーサイドへクロス→塩沢がヘディング。

[試合総括]  
 パルセイロが絶妙な形で先制した上に、前半41分には山雅の木島良輔(30歳=今季加入、前・町田ゼルビア)が、『乱暴』(公式記録)によりレッドカード(退場)。しかし、その後パルセイロは数的有利な状況を活かしきれず。気温33度(公式記録)という暑さも影響したのでしょうが、選手の運動量は徐々に落ち、緩いプレスと不用意なポジショニングを狙われて、失点。『09年以降、山雅に勝っていない歴史』がトラウマになっているとしか思えない結末でした。

 シュート本数はパルセイロ=16本(前半=5本、後半=11本)、山雅=10本(前半=6本、後半=4本)。山雅がチャンスを逃さなかったのに対して、パルセイロは持ち味のパスワークで崩す前にシュートを打ち急いでしまったことも、引き分けの要因です。

[パルセイロ薩川監督の落胆]
 試合後、薩川了洋監督は、まるで完敗したかのように落胆していました。

「うちの選手は甘い」
「仲良しクラブから抜け切れていない」
「ディフェンスで声を出して指示する選手がいない。自分に自信がないということ」
「(塩沢の得点は)○○君(目前の地元新聞記者)でも入るよ」

 現役時代は闘将タイプのCBだったゆえに、人一倍、不甲斐なさを感じたのでしょう。
 とはいえ、来季のJリーグ参入を目指して大補強した山雅に比べれば、昇格1年目のパルセイロは格下。そこで、「勝利に近い引き分けでは?」という趣旨の質問をすると、「勝たなければ意味がない」と言いつつ、「今日のような試合を1-0で勝てるようになれば、トップも狙えると思っている。年末までには“パルセイロは凄い”と思ってもらえるようなチームにしたい」、とも――。

 後期1節を終えて、パルセイロは9位(勝ち点18)で、山雅は8位(同19)。首位SAGAWA SHIGA(同22)から10位のV・ファーレン長崎(同18)まで『勝ち点差4以内』という混戦模様です。今後、何が起きても不思議ではりません。パルセイロが強豪に勝つことが、山雅への『援護射撃』になり、山雅がJリーグ参入を果たすというシュールな結末を含めて――。

[地元出身のプライド]
 この試合で印象的だったことのひとつは、山雅の長野県出身コンビ、今井昌太(26歳=加入5年目、前びわこ成蹊スポーツ大学、木曽生まれ)と塩沢(上田市生まれ)の健闘でした。共に後半交代出場ながら、今井は持ち味のスピードを活かして決定的シーンを演出し、塩沢は得意のヘディングで得点。「ダービー」への熱い思いと、サブに甘んじている危機感の表れでしょうか。いずれにせよ、大補強の成果が出たとは言い難いチームにあって、地元出身選手のクリーンかつ溌剌としたプレーは、県内PRという観点でも効果絶大だったと思います。

 その一方で、パルセイロ所属で唯一の長野県出身、野澤健一(27歳=加入3年目、前・佐川印刷、松本市出身)はベンチ入りしたものの、出番なし。気迫溢れるプレーが持ち味ゆえ、賭ける価値はあると期待していただけに残念でした。

[ローカル・ダービーの意義]
 両チームが地域リーグにしていた当時、「2チームがJリーグを目指すのは無理。スポンサー収入という観点でも一本化すべき」という見方がありました。県サッカー協会首脳が「先にJFL昇格を果たした方を支援する」と発言したこともありました。

 しかし、山雅に1年遅れてパルセイロがJFL昇格を果たした今季は明らかに相乗効果が出ています。この試合の観客数はパルセイロ史上最多の3,849人(公式発表)。競技場の収容能力が「現実的には4,000人が限界」(パルセイロ関係者)ということを考慮すれば、上々の結果です。山雅サイドの前売り券は800枚。中にはパルセイロ・サイドのチケットを買った山雅ファンもいたようですが、一見して4分の3はパルセイロ・ファン。ユニフォームあるいはクラブカラーの衣服着用率とタオルマフラ―保持率は、一見して史上最高。オレンジ色(パルセイロ)と緑色(山雅)に分かれたスタンドは、まさに絶景でした。

 ちなみに、同一県内に本拠を置く複数の『Jリーグを目指す』クラブ・チームがJFLに所属しているのは、長野県だけです。県内メディアの報道(この日のダービーは日記者会見場にTVカメラ8台)、グッズやスタメシなどの充実ぶりは、地域リーグ時代と比較になりません。

 地元出身選手も所属している地元クラブのために、地元で金を使って、地元で楽しむ――。
夢のある『地産地消』だと思います。

[写真]パルセイロFW宇野沢祐次の先制ゴール

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