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Jを目指せ! by 木次成夫

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267回 JFL後期5節 町田ゼルビア対松本山雅
by 木次成夫

町田ゼルビアにとって、今季ホーム初の「Jリーグ準加盟」対決。相手はJFLトップの観客動員力を誇る松本山雅。町田市と松本市が比較的近いこと、そして、雨天にならなかったことも幸いしてか、観客数8113人(公式発表)。ゼルビア主催の公式戦史上最多を記録しました。

例えば、5年前の2006年を振り返ると、夢のようです。当時、ゼルビアは関東2部で山雅は北信越1部。接点は『Jリーグを目指す』という目標だけ。それが今や、『Jリーグ目前』のライバルとして、多くの観客が集うようになったのですから――。

長野県育ち東京在住の学生や社会人が山雅の応援をリードしたことも印象的でした。昨年までは、やろうと思ってもできなかったこと。改めて、地方と都会、そして地方出身者と故郷の接点という観点で、全国リーグの魅力を実感しました。

見方を変えると、五輪を招致する前に、首都として世界に誇れる地域密着スポーツ文化を作ることも重要ではないか? 例えば、ロンドンと比べれば、東京は“はるかに”サッカー後進地域。例えば、ゼルビアのような『地域クラブ』が都内に増えても、然るべきだと思います。  

●7月30日 JFL後期5節
町田ゼルビア 3-1 松本山雅

[得点経過]
48分 1-0(得点:ゼルビアFWディミッチ=30歳、今季加入)
*左サイドでパスを受けた勝又慶典がドリブルで切れ込んでシュート→GKが弾いたものの、こぼれ球をディミッチが押し込む

76分 2-0(得点:ゼルビアFW勝又慶典=25歳=加入4年目、前・桐蔭横浜大学)
*左サイドでパスを受けたディミッチがドリブルで内に切れ込み→パスを受けた勝又がダイレクト・シュート

90分 3-0(得点:山雅FW木島良輔=32歳=今季加入、前ゼルビア、元・熊本など)
*GK→FW塩沢勝吾→木島。ゼルビア選手の隙を狙った、スピーディかつシンプルな流れ

90+3分 3-1(得点:ゼルビアFW勝又慶典)
*ゼルビアGKのパントキック→山雅MF須藤右介がヘディング→こぼれたボールを勝又が左サイドで奪って、ドリブル→シュート

[試合総括]
ゼルビアの快勝であり、FW勝又慶典の凄さを見せつけた試合でした。前期12節(5月22日)、山雅ホームの対戦はゼルビアが0-2で敗れたものの、その試合、勝又は出場停止。ゼルビアは持ち前のパス・サッカーを展開したものの、内への切れ込みがイマイチでした。しかし、今回は3得点とも左サイドから崩した上に、すべて勝又がらみ――。

「左サイドからの方が、(自分の)プレーの幅が広がるんです」(勝又)。

対する山雅は攻守のバランスが良くなく、連動感のないサッカーに終始。前回のゼルビア戦では勝因のひとつになった『組織的に“寄せる”守備』も機能しませんでした。右SB阿部琢久哉いわく、「(なぜ出来なかったかは、ビデオを)見直さないと、わかりません」。

マークをしている状況でシュートを打たれるなど、阿部個人のコンディションが万全ではなかったのかもしれませんが、同じような形で何度も崩されたのは、チーム全体の問題です。

≪シュート本数≫
ゼルビア=22本(前半=10本、後半=12本)
山雅=14本(前半=4本、後半=10本)。

MF松田直樹とMF弦巻健人が累積警告で出場停止、SB鐡戸裕史が負傷で欠場するなど山雅は厳しい状況でした。とはいえ、それを言い訳には出来ないでしょう。大々的な補強の成果を見せつけて然るべき試合だったのですから――。

[対象的なチーム作り]
後期5節を終えてゼルビアは4位(勝ち点26)、山雅は9位(同24)。成績に大差はありません。ただ、アマチュア出身選手が多いゼルビアが、Jリーグ経験者が主流の山雅を『サッカーの質』で圧倒したことは、試合結果以上に印象的でした。例えば、勝敗を大きく左右したMF陣を比較すると――、

≪ゼルビア≫
右MF鈴木崇文(23歳=加入2年目、前・東京学芸大学)
ボランチ柳崎祥兵(27歳=加入5年目、前・駒澤大学)
ボランチ小川巧(24歳=加入2年目、前・帝京大学)
左MF酒井良(33歳=加入6年目、前・草津)

≪山雅≫
右MF:久富賢(20歳=加入1年目、前・横浜FC)
ボランチ:渡辺匠(31歳=加入1年目、前・熊本)
ボランチ:須藤右介(25歳=加入2年目、前・横浜FC)
左MF:木村勝太(22歳=加入3年目、前・甲府)

ゼルビア選手が溌剌とボールを回していたのに比べると、山雅選手は孤軍奮闘気味。つまり、コンビネーションの熟成に大きな差がありました。山雅の前Jリーガーが“ふがいない”というよりは、彼らの良さが出るチームに熟していない。もちろん、またシーズン中盤ゆえ、最終的には間に合うかもしれませんが……。

[チームメイトはクラスメイト]
今季のゼルビアは、地域リーグ所属当時からの主力が3人、絶対に欠かせない戦力として活躍しています。酒井、柳崎、そして主将のDF津田和樹(29歳、前・甲府←清水←国学院久我山)です。この試合は、左SBでプレー。「やっぱり(最近起用されることが多かった右SBよりも)慣れ親しんだ左SBの方が良いですね」(津田)。

津田は甲府の戦力外になった後、東京学芸大学に進学し、同大学サッカー部に所属せずに、ゼルビアでプレー。現在は大学院でMBA取得を目指しているそうです。

ちなみにMF鈴木崇文とは大学時代の同級生。「(鈴木はサッカー部なので)サッカーを一緒にしたことはなかったですが、同じクラスでした。どこにも行くところがなかったから、うち(ゼルビア)はどうかと、声は掛けました」(津田)。

地元出身の津田が誘ったクラスメイトは、期待の成長株――。ゼルビアならではの『地域力』と言えるでしょう。今後、東京都内の『地域クラブ』として、どこまで成長するか? それは東京VやFC東京とは違った魅力。楽しみは尽きません。

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