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「ジーコ備忘録」mobile

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 オーストラリア戦、クロアチア戦の2試合を終え、手にした勝ち点はわずか1と、日本は窮地に立たされた。グループリーグ最終戦となる6月22日のブラジル戦を前に、ジーコがチームを一丸にするため取った行動とは?


 6月20日午後6時から全体練習を行った。私は円陣を組んだ選手たちに、力を込めて説いた。伝えたかったことはクロアチア戦の前と変わらなかった。「髪の毛一本ほどの可能性しかないとしても、ゼロではないのだから、私はあきらめない。最低でも2点が必要なので、ゴールにボールを入れることに集中していこう。シュートの意識を高めていこう」
 ウオームアップのあと、いきなりシュート練習に入った。フォーメーション練習はしない。シンプルな練習を繰り返す。延々と続くシュート練習に記者団はただならぬものを感じていたはずだ。
 このときすでに、私は重大な決断をしていた。試合の2日前に紅白戦など実戦練習をこなすのがこのチームの慣例だったが、今回はあえて省くことにした。戦術練習は本番までまったくするつもりはなかった。それだけではない。先発メンバーは試合の当日まではっきりさせないことにした。報道陣にはもちろん、選手にも明かすつもりはなかった。白紙のまま準備を続けさせる。そう決意した。
 メンバーを隠すために、そういうことをするのではなかった。とにかく私は選手たちにひとつになってもらいたかった。一丸になってもらいたかった。試合に出る選手も、ベンチに座る選手も同じ気持ちでワールドカップを戦ってほしかった。試合に出ない者にも、チームのためにすべてを尽くすという気持ちを持たせたかった。
 戦術練習をするには、チームを先発組と控え組の2つに分けなくてはならない。いまの状況では、それは良くないと考えた。23人のすべての選手に「オレが出る」という気持ちになってもらいたかった。全選手に同じ気持ちになってもらいたかった。戦術的な問題よりも、心の問題の改善に力点を置いた。
 私は就任時からこれまで、すべてをオープンにしてきた。事前にメンバーもシステムも明らかにしてきた。このワールドカップでも、すべてを報道陣にもファンにも公開してきた。
 先発メンバーを事前に明らかにしないのは、これが初めてといってよかった。この日、メンバーが分からず困惑する記者団に、私は謝った。「こういうことは、これが最初で最後なので許してほしい」と。「メンバーはすでに私の頭の中にあるけれど、いまは言えない。試合当日になれば分かること。戦術練習をしなくても対応はできるはず。心配はない」と話した。
 もう一度、断っておくが、私は布陣や先発メンバーを隠すために、こういうことをしたわけではない。先発メンバーを示さないことで、チームを一丸にしようとしただけである。組織を束ねるには、こうするしかなかった。

 6月21日、ブラジル戦の試合会場となるヴェストファーレン・シュタディオンで公式練習を行った。ドルトムントはこれまでの酷暑から一転し、冷え込んでいた。風もあり、体が冷える。私は練習の前に「全員が試合に出るつもりで準備をしてほしい」と訴えた。
 ウオームアップのあと、ハーフコートのミニゲームに移った。試合を想定して、先発組と控え組に分けることは避けた。15分ハーフのミニゲームだけで練習は終えた。この3日間、実戦的なフォーメーション練習は一度も行わなかった。先発メンバーは試合当日まで、選手にも伝えるつもりはなかった。
 練習後の記者会見で希望を込めて私は話した。「ブラジルは手ごわいが、可能性がある限り、私は全力を尽くす。次のステージに進むためには何をしなければならないのか、選手と確認し合った。すでに頭は切り替わっている。何をしなければならないのか、選手たちはよく理解して試合に臨んでくれるはず」。とにかく頭を切り替えて目の前の敵に立ち向かう。それさえできれば、事態は好転するはずだった。
 悲観的になっても仕方がない。選手たちには、ワールドカップ予選やアジアカップで見せた粘り強さ、勝利への執念をもう一度、見せてもらいたかった。できるはずだと私は信じたかった。
 

 そして翌日、運命の日を迎えた日本は、クロアチア戦から4人を入れ替え、ブラジル戦に臨む。
 ジーコは日本の先発を考える一方で、ブラジルのメンバーを気にしていた。できれば、世界的に名のある選手たちとはいえ、ベテラン選手がならんだクロアチア、オーストラリア戦のメンバーと入れ替えて欲しくなかった。だが、ジーコの親友でもあるブラジル代表のパレイラ監督は、ジーコが避けてほしいと願っていたことを行った。それはジーコが考える現時点でのブラジル最強のメンバーだった・・・。

 試合直前までのジーコの心の動きは、新刊『ジーコ備忘録』に掲載。


ジーコ語録で当時のジーコのコメントを掲載してます。

※本連載は『ジーコ備忘録』のダイジェスト版です。詳しい内容は本書をご覧ください。毎週土曜日更新予定

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