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「ジーコ備忘録」mobile

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 ジーコが務めた代表監督としての4年間の集大成といえる、'06年W杯ドイツ大会。その大会で日本は、1分2敗の勝ち点1、得点2、失点7、得失点差-5でグループリーグ最下位という結果に終わってしまった。その4年間のはじまりはそもそもなんだったのか?
 本書は、第4章からジーコ日本代表監督就任前の02年W杯日韓大会にさかのぼる。同大会でフィリップ・トルシエ監督が率いる日本代表は、見事グループリーグ突破するも、決勝トーナメントで敗れてしまう。その結果に対し、ジーコが感じたことは──。



 もっとできるはずなのに、というのが私の率直な感想だった。'02年ワールドカップ日韓大会に開催国として出場した日本は6月18日、トルコとの決勝トーナメント1回戦を0‐1で落とし、敗退した。もちろん、2度目の出場でベスト16入りという結果は素晴らしい。地元開催とはいえ、そう簡単にできることではない。若い選手たちの奮戦は見事だった。
 しかし、その一方で私の胸には、「もったいないことをした。もっと上を目指せたはずなのに」という思いがわだかまっていた。この大会の日本はホスト国であるゆえに、ベスト16入りというノルマを課せられていた。選手たちもフィリップ・トルシエ監督も日本サッカー協会関係者も相当のプレッシャーを感じていたと思う。
 そういう重圧が掛かるなかでベルギーと引き分け、ロシア、チュニジアを連破し、グループリーグH組を1位で突破した。選手も監督も喜びに満ちあふれ、肩の荷がおり、重圧から解放されたことだろう。だから、チュニジア戦後、トルシエ監督は思わず口走ってしまったのだろう。
「我々は使命を果たした。1位通過はなかなかの偉業だと思う。ここから先はすべてボーナスだ。これまでは精神的に非常につらかったが、この先は楽な気持ちで戦える」
 気持ちは分かる。だが、この発言は残念だった。少なからず失望した。一つの目標を達成したら、そこで満足して足を止めるのではなく、さらにハードルを高くして、強い気持ちを持って上を目指すべきだろう。「ここから先はボーナス」という中途半端な考え方では、勝ち進めない。さらに上を狙う野望を持たなければならなかった。
 私はテレビのコメンテーターとして、日韓ワールドカップの日本の戦いをすべて、じかに見ている。
 グループリーグの3試合を無敗で切り抜け、勝ち点7、得点5、失点2でのトップ通過は見事だった。ここまで充実した戦いをしていただけに、続く決勝トーナメント1回戦のトルコ戦が悔やまれる。
 ここでトルシエ監督が2トップを入れ替えたのには驚いた。「いいときには何も変えるな」というのが、勝負の世界の原則である。変化を付けるのは流れが悪くなったときであり、問題がなくチームがうまくいっているときに何かを変える必要はない。
 しかし、トルコ戦の前日の記者会見でトルシエ監督は「チームが絶好調のときこそ、新しいダイナミズムを入れなくてはならない」と語ったらしい。敗戦後には「相手は日本を研究してくるだろうから、変化を付けて驚かそうと思った」と説明している。
 トルコ戦で起用した2トップは西澤明訓と三都主。チャンスをうまく築いていた柳沢とベルギー戦でゴールを挙げた鈴木はベンチに置いた。西澤はこの大会初出場。初先発の三都主はそこまで左MFとして使ってきた選手なのだから、まさに奇策だった。常識からは外れている。
 だから負けたというわけではない。だが、慣れないメンバー構成にしたことで、チームがリズムを崩した面はある。少なくとも奇策は成功していなかった。
 結果は、この大会で3位と躍進するトルコの完勝だった。
 私はその夜のテレビ番組で、トルコ戦の戦いぶりについて不満を隠さなかった。怒りをぶちまけた。私はトルシエ監督の戦術やシステムに反論したかっただけではない。その問題は二の次だった。
 私は選手のメンタル面をもっと改善していかなければいけないと感じていた。高い志を胸に、次々と高い目標を掲げ、強い気持ちで戦いを挑んでいくメンタリティが必要だと感じた。監督が何と言おうが、自分の思ったことを自信を持って出していくメンタリティがまだ欠けていると思ったのだ。
 私は選手たちに「この程度で満足していてはいけない。お前たちはもっとできるぞ」と叫びたかった。あの敗戦で、もやもやとしたものを感じたのは、私だけではないはずだ。

 '02年6月30日、W杯はブラジルの優勝で幕を閉じた―─。
 そしてジーコは、次期代表監督就任要請を受け、快諾した。それは、日本サッカー界のために役立ちたいという思いからだった。その自信もあった。
 ジーコは日本人選手が、自分の考えで行動を起すことが苦手だと感じ、選手のメンタル面の改革が必要だと考えた。そこで「自由」にプレーをさせるという方針を打ち出すが、「自由」という言葉の捉え方が、日本とジーコとの間には大きな差があった。それが結果的にW杯ドイツ大会へとつながるわけだが、その「大きな差」とは何だったのか?

 詳細は新刊『ジーコ備忘録』に掲載。


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※本連載は『ジーコ備忘録』のダイジェスト版です。詳しい内容は本書をご覧ください。毎週土曜日更新予定'

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