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「ジーコ備忘録」mobile

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 ジーコが日本代表監督へ就任し、初試合は'02年10月16日、ジャマイカ戦に決まった。初陣を目前に控えた同7日に、ジーコは先発メンバーについて言及した。
 02年W杯日韓大会を見て、“ある思い”を抱いていたジーコが考えた中盤の4人とは?



 ジャマイカ戦は9日後のことだった。だが、私は「あす試合があるなら」と断って、先発メンバーを口にした。楢﨑正剛、名良橋、秋田、松田直樹、服部年宏、小野、稲本、中田英、中村、鈴木、高原直泰という11人で、4‐4‐2で戦うつもりだった。
 世間が注目したのは中盤の構成だった。私は稲本と小野をボランチで、中田英と中村をトップ下で使うと公言し、「ポジションに縛らず、自由にプレーさせる」と強調した。'02年ワールドカップでは中村が落選し、小野は左アウトサイドで使われていた。「何ともったいないことを」と私は思い続けていた。この才能豊かな4人の創造力を組み合わせれば、魅力的なサッカーができると信じていた。4人にはなるべくいっしょにプレーしてもらい、発想をぶつけ合ってほしかった。
 マスコミやサッカーファンはこの中盤の構成を大歓迎し、「黄金の4人」と呼んだ。'82年スペイン・ワールドカップで私がソクラテス、ファルカン、トニーニョ・セレーゾと組んだブラジル代表のカルテットを連想したらしい。
 実を言うと、私はこのブラジルの4人が世界のサッカーファンを魅了した、ダイレクトパスによる競演を日本の選手に真似してほしくなかった。あの時代は、中盤に広いスペースがあった。いまのようにコンパクトになっていない。プレスが掛かっていないから、あれだけきれいにダイレクトパスがつながったのだ。いま、あの真似をしても、うまくいかない。
 それはともかく、中田英、中村、稲本、小野の中盤がファンに期待されるのはうれしかった。ジャマイカ戦の入場券はあっという間に完売したらしい。私もこの4人が息を合わせたら、どんなサッカーができるのだろうかと期待を膨らませた。日本の実力をもっと世界に向けてアピールしたかった。
  
いよいよ私の監督デビュー戦のときがきた。10月16日、国立競技場は5万5437人の観衆で埋まった。観衆の熱狂は予想以上だった。大歓声が選手の背中を押した。サポーターが熱狂してくれるのは、何よりうれしいことだった。私は期待の大きさを感じ取り、胸の高鳴りを覚えた。
 試合前のミーティングで、立ち上がりはアグレッシブにと再確認していた。序盤の15分ほどまでは、高い位置からのプレッシングでボールを奪いに行く。相手ゴールに近い位置で奪取して、すみやかに速攻に移す。勢いをぶつけて優位に立ちたかった。
 選手たちは指示どおり、動いてくれた。中盤のプレッシングが効いている。7分、中田英、高原、稲本らが連動して相手を囲い込み、小野がボールを奪取。そこから素早く中田英がさばき、高原が持ち出し、右に展開。走り込んでいた小野が左足で、新生日本の第1号ゴールをゲットした。守備から攻撃への組織的な連動が美しかった。スタートを飾る最高のゴールだった。
 しかし、その後はチャンスをつくりながらも、追加点を奪えずに終わった。
 序盤から飛ばしたつけがまわってきたのか、徐々に運動量が落ち、攻撃にずれが出始めた。守備にも齟齬(そご)が生じて、80分にあっさり同点ゴールを許した。私の初陣は結局、1‐1の引き分けだった。スタートを白星で飾れなかったのは残念だった。だが、わずかな練習しか積めていない状況で、目指している攻撃的なサッカーを披露できた。その点にはある程度、満足した。
 中盤の4人については、練習、試合で絡ませて、目をつぶっていてもだれがどこにいるのか分かるくらいまで理解し合い、連係を高めてほしかった。私はこの4人が日本の道を切り開き、ドイツ・ワールドカップで攻撃の核となると信じていた。
 しかし、思惑どおりには事は運ばなかった。4人がそれぞれ故障を負って戦線からしばらく離脱した。所属クラブで出番に恵まれず、ゲーム勘を鈍らせたこともある。振り返ってみると、ドイツ・ワールドカップまでの4年間に4人が顔をそろえたことは驚くほど少なかった。
 中田英、中村、稲本、小野がそろって先発したのはわずか5試合。そして、ドイツ・ワールドカップでは同時にプレーするときが一度も訪れなかった。4人が好調を維持し、ワールドカップで力を発揮できなかったのは残念だった。


 ‘03年は日本代表にとって激動の一年となった。テロやSARSなどの外的要因で、試合が延期、中止されるなどのアクシデントが続いたからだ。しかし、そんななかでもジーコ・ジャパンは長い時間を過ごすうちに相互理解を深め、ジーコの思想も浸透していった。この年、ジーコのどのような思想が浸透し、どのようなチーム作りがなされたのか?
 詳細は新刊『ジーコ備忘録』に掲載。


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※本連載は『ジーコ備忘録』のダイジェスト版です。詳しい内容は本書をご覧ください。毎週土曜日更新予定'

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