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「ジーコ備忘録」mobile

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 アジアカップは8ヵ国がノックアウト方式で頂点を目指す決勝トーナメントに突入した。
 '04年7月31日、日本は準々決勝でヨルダンと対戦する。試合は1-1のまま延長戦でも決着がつかず、PK戦に突入。
 両チーム3人が終了した時点で、日本は2人外し、ヨルダンは全員が決め、1-3というピンチに立たされる。
 だが、そこからGK川口は神懸かったセーブを連続で見せ、日本が4-3の勝利をつかんだ。日ごろ「自分たちの力を信じなさい」と言ってきたジーコですら、窮地に追い込まれながらも、勝利を信じて最後まで戦い抜いた選手たちに驚かされた。
 そして日本は準決勝に駒を進めた―。


 準決勝で戦う相手はバーレーンだった。
 04年8月3日、済南の競技場でも日本に対するブーイングは起きた。だが、若干、音量が落ちている。重慶ほどの息苦しさは感じなかった。先発メンバーはこの試合でもいじらなかった。右膝を痛めている玉田には前日の練習を途中で切り上げさせていた。無理なら本山を起用しようと考えながら、試合当日の朝まで様子を見たが、結局、プレーできるということになった。
 この日も日本は先に失点を喫した。どうも試合の入り方が悪い。軽く試合を始めてしまっている。この大会で先制を許したのは、タイ戦、ヨルダン戦に続き3度目だった。先制したのは初戦のオマーン戦だけだ。開始わずか6分、相手への寄せが甘く、A・フバイルに右から狙いすましたシュートを流し込まれた。
 しかも、40分に遠藤がサルミーンをひじ打ちしたと取られ、退場処分を受けた。点を取りに行かなくてはならない状況で、日本は数的不利に追い込まれた。
 私はすぐに手を打った。追う展開であるため、FWは減らしたくない。中盤の圧力も落としたくない。44分、CB田中誠を削り、中田浩をボランチに投入する決断をした。システムは3‐5‐2から4‐2‐1‐2に変えたことになる。MFより前は、ボランチに福西と中田浩、トップ下に中村、2トップに玉田と鈴木という顔ぶれだ。
 さらに後半の開始から福西に代えて小笠原を送り込んだ。ボランチを中田浩のみとし、トップ下に中村と小笠原を並べることで、システムを4‐1‐2‐2に変え、ゴールに近い位置に厚みを持たせた。ハーフタイムには選手たちに「退場になったのは遠藤のせいではない。ここからは100パーセントではなく120パーセントの力を出してくれ」と厳しい要求をしていた。
 2度のシステム変更で中盤のボールの奪取力、攻撃力が高まった。日本がにわかに優位に立った。48分、中村の高いCKを途中出場の中田浩がヘディングでとらえ、同点のゴールとした。中田浩は派手ではないが、忠実に役割をこなす。55分には、その中田浩が大きく左に展開すると、玉田が勝負を挑み、GKの肩口を抜く豪快な勝ち越しゴールを決めた。遠藤の退場というアクシデントで急きょ、出した中田浩がわずかな時間で1ゴール1アシストを記録するのだから、勝負事は分からないものだ。
 しかし、そこからがいただけなかった。71分、守備から攻撃に切り替えるところでパスミスが出て、切り返され、A・フバイルに同点ゴールを喫した。85分にもカウンターを食らい、ナセルに勝ち越し点を許した。
 日本はヨルダン戦に続き、またしても崖っぷちに立たされた。試合終了寸前のことだった。玉田が右外でボールを奪取。鈴木を経由して左から三都主がクロス。上がっていた中澤が頭を何とか合わせると、劇的な同点ゴールが生まれた。
 このチームは追い込まれると信じられない力を出す。自力で窮地を脱する力がある。
 この激戦を締めくくったのは玉田の鮮烈なゴールだ。延長前半の3分、中澤が抜かれるが、カバーした宮本がカットすると、玉田にカウンターのスイッチとなる縦パスを送った。ハーフライン付近で受けた玉田は背後に相手が2人いるのを察知し、トラップせずボールを流して前を向き、スピード勝負を挑んだ。
 アブドル・アジズをはね返し、ババを振り切って、まっすぐゴールに向かい、落ち着いてゴールに流し込んだ。右膝を痛め、出場が危ぶまれていた玉田が2得点するのだから、面白いものだ。4‐3という派手なスコアで日本は決勝に駒を進めた。40分に遠藤が退場してから80分もの長い時間、10人で戦い白星をもぎ取った選手たちの執念を私は褒め称えた。何が起きても動じず、冷静に戦い抜く選手たちに勇気付けられた。

<写真>決勝点を決めた玉田


 バーレーンを破り、ついに日本は決勝までたどり着いた。
 '04年8月7日、アジア王者をかけた中国との戦いで日本は3-1で完勝し、2大会連続3度目の優勝を成し遂げる。
 本来、主軸となる欧州組の選手を多数、欠く中で、酷暑や執拗なブーイングに負けず、見事な反発力で勝利をもぎ取り続けた。チームが一丸となり修羅場をくぐり抜けたとジーコは感じた。
 しかし、W杯を終えたいま、だからこそ理解できないことがあるとジーコは述懐するのである。

 詳細は新刊『ジーコ備忘録』に掲載。

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※本連載は『ジーコ備忘録』のダイジェスト版です。詳しい内容は本書をご覧ください。毎週土曜日更新予定'

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