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レッズの真相「ビッグクラブ2」

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 やっぱり山田暢久は不機嫌だった。
「右サイドは嫌ですよ。面白くないもの。『真ん中』でプレーしたい」
 思えば山田は、同じことをもう何年も繰り返し言っている。その執念深さに最近は感心すら覚える。ある意味、彼は一途なのだ。
 山田がこだわる“真ん中”への希求も、最近は説得力がある。彼は昨季終盤、そのポジションでのプレーパフォーマンスで周囲を唸らせ、確固たる実績を築き上げたからだ。
「僕自身、去年のプレーには自信を持った。『これくらいできるんだ』と、自分でも驚いたくらい。だからこそ、今季は勝負の年だと思っていた。それなのに……」
 山田はホルガー・オジェック監督が説明責任を果たしていないと思っている。なぜトップ下でなく右サイドで起用するのか、その理由を指揮官は本人に明かさない。
「シーズン開幕直前のゼロックス(ゼロックス・スーパーカップ。浦和はガンバ大阪に0-4で完敗を喫した)まではトップ下を任されていた。でも、その後はね……。あのときのプレーが悪かったっていう見方もあるけど、それだったらこっちにも言い分がある。あのときはフィジカルメニューがキツくて、正直体力が限界に達していた。それにオーストリアのミニ大会(ブルズカップ)に参加したりして、ハードな日程を強いられていたじゃない。そんな状況で判断されても……。でも、あれ以来、僕はトップ下でプレーしていない」
 一見わがままな物言いに聞こえるが、そうではない。山田はそれなりの覚悟を持って、常に心情を吐露している。

 正直、今季の山田は精彩を欠いているように見える。右サイドでは主に守備に重点を置き、攻撃に参加する時間はごく僅かだ。しかし、それでも指揮官・オジェックはキャプテンに全幅の信頼を置き、リーグ戦、アジア・チャンピオンズリーグ(以下、ACL)では(出場停止の試合を除いて)、先日の第28節・大分戦で初めて不出場させた他は、すべての試合で先発させてきた。
「オジェックから信頼されているって? それ自体はありがたいことだけど……。いや、そうだね。それに皆は『手を抜いている』ってよく言うけど、自分ではそのつもりはない。最近、動きが良くなかったのは、本当に疲れていたからなんです」
 実は先日の9月中旬から10月初旬までの7連戦の間に、山田は体重が4キロも減った。今年32歳になるチーム最古参は、それでも気力を振り絞ってピッチに立ち続けていたのである。
「まあ、でも体重は高校時代の頃に戻ったわけだから、絞れたとも言えるんじゃないの。でも、プロになってから筋肉がついたから、純粋にそうとも言えないか(笑)」
 そう言って、山田はペロッと下を出した。辛さを表に出さない、彼らしい物言いだ。
「そろそろ歳を感じるかって? そりゃあね。実は数年前から感じているよ。焼肉屋なんかに行っても、最近はカルビみたいな脂っこいものは食べられなくなって、ホルモンとかの内臓系やハラミなんかの脂がついてないものに食指が動いちゃうもん。それにサッカーでも、最近は若い子が多くなったでしょ。だから対面に立たれるとシンドくて(笑)。この前の誰だっけ? ああ、そうそう。マリノスの左サイドの子(小宮山?)なんか、チョコマカして大変だったよ」
 冗談めかして弱音を吐く。しかし、これも山田の本心ではない。本当はこう考えている。
「やっぱり、相手にするなら手応えのある選手じゃないとね。力が出ないっていうか……。誰だったらいいかって? ギグス? C・ロナウド? この前のマンチェ(マンチェスター・U)戦は良かったでしょ」
 世界のビッグクラブに所属するスター選手じゃないとやる気が出ないという。彼らしい物言いだ。

 ときに腐したり、ときに落ち込んだり、ときに文句を言う。しかしキャプテンは、あくまでもこう言い切る。
「今のレッズは強いでしょ。そのなかで、僕も自分らしいプレーができたら……。その意味では今季は駄目。でもチーム的には上々。ああ、でも油断は禁物だよ。まだリーグもACLも終わってない。これから全部駄目になる可能性もあるんだから」
 自信家だが慎重派でもある。この多面性が山田の魅力でもある。

※本読み物は毎週水曜更新予定です

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