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レッズの真相「ビッグクラブ2」

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 あくまでも自然体だった。周囲が浮き足立つなかでも動じず、浦和の選手はいつもどおりの所作を貫き通した。それがアジア・チャンピオンズリーグ決勝という大舞台で見せた彼らの「力」だった。

 決戦前日。大挙報道陣が詰め掛け、異様な雰囲気となっていた大原のクラブハウスで、坪井慶介はこう言った。
「これまで積み重ねてきたものがありますからね。雰囲気は良いです。普段と変わらないのは、ウチの選手のそれぞれのキャラクターがいいからじゃないですか? 年長者の岡野(雅行)さんを筆頭にね(笑)」
 坪井だけでなく、他の選手も一様に平常心を醸し出す。アジア王者へリーチ。このシチュエーションに飲まれていたのは選手ではなく周囲だった。喧騒渦巻くクラブハウスで、選手は逆に雰囲気を楽しむように穏やかな表情を浮かべていた。

 試合当日。埼玉スタジアム。冷静沈着な選手の背中を後押ししたのはスタンドを埋めた大サポーターだった。彼らの“気”は確実に選手へ届き、選手は冷静さに加え、絶対に勝つべしという気概を備えた。鈴木啓太が試合後に言った。
「このサポーターのためにも、絶対に勝ちたいと思っていた」
 今季のACLでアジア地域を転戦した浦和。そこには、どんなに遠き地でも、必ず頼れるサポーターの存在があった。現地の人々は浦和のサッカーを論じる前に、必ずレッズサポーターに驚愕を覚えた。イラン・イスファハンで出会った方はこう話していた。
「Jリーグの試合はこっちでも見れるんだ。だから浦和の知名度は高いよ。ところで、“あの”サポーターは今回、イスファハンに何百人来るんだい?」
 この日の決勝の舞台に集ったサポーター、およそ6万人。彼らは“浦和の勝ちを見に”来るのではなく、“浦和を勝たせる”ために来た。
 試合前、敵将のルカ・ボナチッチ監督はこう言って平常心を装った。
「私たちは10万人のアザディ・スタジアム(イラン・エステグラルのホーム)で試合をしたこともあるから、埼玉スタジアムでの試合でも問題はない」
 そんな彼らは、赤く染まったスタジアムで何を思ったか。永井雄一郎のゴールで先制を許し、阿部勇樹のヘディングで追加点を許したセパハンは次第に理性を失い苛立ち、最後は諦めのポーズを取ったではないか。
「初めてここでやる選手は、いろいろなことを感じるんじゃないですか」
 鈴木の言葉が重く響く。それもこれも、サポーターが生み出した舞台のおかげだ。
 ACL初出場初優勝を果たした浦和。それは選手、スタッフ、フロントの尽力はもちろん、サポーターの支えがあってこそである。サポーターは2004年シーズンにJリーグ・ステージ優勝を果たした時からアジアに標的を定め、飽くなき執念でタイトルに固執してきた。その思いがスタジアムに集結することで、日本サッカー界だけでなく世間一般にもACLの存在が認知され、民放テレビがゴールデンタイムに急遽生放送を決めるなど、その勢いは沸点に達した。
 願わくば、先鞭をつけた浦和に追走し、伍するクラブの現れんことを。競争なくして発展なし。浦和だけが強者たりうるのは健全ではない。ガンバ大阪、川崎フロンターレ、鹿島アントラーズ、清水エスパルス……。Jリーグの猛者たちの反撃に期待する。城南一和、シドニーFC、山東魯能……。今季、浦和との勝負付けがついていないクラブが、アジアには存在する。
 先頭に立った浦和は、これからも茨の道を歩み、“求道”を極めんとするだろう。

<写真説明>ACLでみごと優勝を遂げた浦和レッズを鼓舞したサポーターたち

※本企画は毎週水曜更新予定です。今回ACL決勝戦後の執筆のため更新が深夜となりました。感想をこちらまでお寄せください。

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