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ヤング魂 by 長谷川望

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[特別編]手倉森誠監督(U-22日本代表)前篇「海外から学べること、指導で大切なこと」
by 長谷川望

 2016年リオデジャネイロ五輪開幕まで1年を切った。日本は来年1月にカタールで開催されるアジア最終予選で、3位以内に与えられる五輪出場権をかけて戦う。本戦への出場が期待されるU-22日本代表を率いているのが手倉森誠監督だ。現在、A代表コーチ、J3のU-22選抜コーチも兼任している。

 今回は日本を代表する育成のプロに、普段あまり語られることのないジュニア、ジュニアユース年代の育成について聞くことが出来た。海外から学べることや指導で大切なことを、自身の体験談も交えて語っていただいた!!

サッカーの本能
 海外クラブサッカースクールの日本進出、ジュニア、ジュニアユース年代の国際大会の増加など育成環境はグローバル化へと進化している。このような「経験」という面で恵まれた環境になり、どんなことを学べるようになったのか。また、日本の子供たちにとって必要なのものとは?

「まず日本人は勤勉で、理解力は世界でもトップクラスだと思います。ただ、勝負というものに対しての『本質』、自分はサッカーに対しての『本能』と言っていますが、そこを養うことが海外の方が長けているのでしょうね。プロを意識した指導という意味でメンタル強化がすごく進んでいると思いますよ。私が91年にブラジルに留学したときも、紅白戦でもすごく激しくて、3タッチとかドリブルしていたら、まずチャージされます。『ボールを長く持っていたらやられる』ということを教わりました。ですので、1タッチ、2タッチでプレーすることを選んで、スペースがあるときにドリブルするように言われました。日本はフェアプレーが文化の国で、それは日本の良い所です。しかし世界を知るために、『世界はこんなことをする』ということを情報として与えて良いと思います」

 以前、日本でジュニアユースの国際大会があったときに、アルゼンチンのチームが負けたときは、泣いて崩れ落ちるくらい悔しがっていたというエピソードが印象的だった。日本でも海外チームとの対戦ができるようになった現代では、他国の「勝負」の意識を学べるのだろう。

早いプレーをするには!?
 サッカーの技術が優れている日本。しかし世界を相手に戦うときに、フィジカル面で不利な場合が多い。そして、ジュニアを教えている外国人指導者から日本のサッカーの印象を聞くと、必ずと言っていいほど「判断のスピードを上げるべき」という意見を多く耳にする。今後はこのような意見からも、日本人のフィジカル面の問題を補うためにも、育成年代から「早いプレー」が求められるようになっている。どのような指導が「早いプレー」に繋がるのだろうか。
 
「考えさせるようにしなければいけないと思います。選手たちが自分たちからゲームを行う習慣がつくメソッドを取り入れなければいけないですよね。監督や指導者が手取り足取り教えていたら、絶対上手くいかないです。私は指導者になって、指導に関する色々な情報が入ってきても、それが全て選手にとって良いようになるとは思わないので、まずは教え過ぎずプレーさせるようにしています。それで上手くいかないときに、『何でだろう』と分析します。技術やポジショニングなどが身に付いて初めて判断が早くなります。その判断の先にはちゃんとした身体が出来ていないといけない。ジュニア、ジュニアユースの年代は、判断を早くプレーすると身体が出来上がってくるもの。早くプレーするということを、早く走ることだと子供は考えがちだけど、決してそうではありません。『今の2タッチじゃなくて1タッチでやれるよ』『今ドリブルしたところは2タッチで出来るよ』とか、その後に『基本的にパスを出したら、動きなさい』と、動く習慣が出来て足腰が鍛え上げられます」

プロを目指したルーツ
 さまざまなことが目に出来る現代では、将来の夢を描きやすくなった。手倉森監督自身はいつごろから将来を見据えてサッカーに取り組んでいたのだろうか。

「サントスFCが青森県に年に一回来て、サッカー教室を開いてくれたんですよ。それで小学6年生のときに、双子の弟(手倉森浩 JFA復興支援特任コーチ)がサントスFCにスカウトされて、中学3年生のときまで見に来てくれていました。そのときに、日本にまだプロがなかった時代に『将来プロになりたい』と描くことが出来ました。今、プロの指導者になっているのはそういうバックグラウンドがあったからです」

小学生のときに学んだこと
「遠征に行って静岡県や関東の強いチームと戦っていましたが、小学生ながらにしてサッカーどころとの違いを感じましたね。当時の監督に『サッカーって足を使うスポーツだけど、身体の使い方が上手かった』と言ったのを今でも覚えています」

 手倉森監督が小学生のときに所属していた「五戸すずかけ」は、全日本少年サッカー大会で4位という功績を生み、東北勢では未だにこの記録を上回っていない。誰もが歩む育成時代、今では日本を代表する指導者の道を歩んでいる。取材を通して、育成時代の経験や海外での経験が財産となり、現在の監督のなかでも活きているのだと感じた。

(9月8日公開の中篇につづく)


◆著者プロフィール◆長谷川望(はせがわ・のぞみ)
1987年生まれ。福島県出身。ロンドン五輪で女子レスリング金メダリスト伊調馨を取材。2020年東京五輪を見据え、サッカーを中心にスポーツの育成年代を精力的に取材している。フジテレビ『とくダネ!』、TBS元旦スポーツ祭り『2013年にかけるアスリートたち』、WOWOW『金曜カーソル』などテレビ番組でも活躍中。
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