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No Referee,No Football

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試合後のブーイングを招いたPKをめぐる2つの判定
[ゼロックススーパー杯]

 2012年シーズンの幕開けを告げる富士ゼロックススーパー杯。柏レイソルFC東京が激突した。そして、そこにはPKをめぐる2つの重要な判定があった。

 一つ目は前半42分、柏のFK後のシーン。レアンドロ・ドミンゲス選手がゴール前に上げたボールをジョルジ・ワグネル選手がヘディングシュートで合わせると、ポストに当たった跳ね返りを徳永悠平選手がクリア。ペナルティーエリア内に大きく浮き上がったボールに対し、柏の北嶋秀朗選手が落下地点で上空を見上げてボールを待っていると、後方から森重真人選手に押し倒された。

 西村雄一主審は笛を吹き、柏にPKを与えた。ただ立っていた北嶋選手の背中を森重選手は肩で思い切り当たりに行っている。北嶋選手の倒れ方も大げさには見えず、突然後ろからドンと当たられている。ボールとは無関係に強く背中を押しており、ファウルは妥当な判定だ。

 2つ目の場面は後半5分。F東京は長谷川アーリアジャスール選手がスペースに出したパスに谷澤達也選手がペナルティーエリア内で抜け出し、柏GKの菅野孝憲選手がゴールを空けて前に飛び出すと、酒井宏樹選手もスライディングタックル。谷澤選手は酒井選手の足ともつれるようにして転倒した。PKかという場面だったが、西村主審はシミュレーションとして、谷澤選手を警告。柏のFKでゲームは再開となった。

 映像を見ると、谷澤選手は左足でボールを押し出し、酒井選手、菅野選手をかわそうかというところで、右足を外側に出して酒井選手の右足にぶつけ、その接触を利用して前に倒れ込んでいるのが分かる。自分で接触をつくり、左足で踏ん張ることもできる体勢ながら左足を伸ばして両足をそろえるように倒れるという明らかなシミュレーションで、西村主審はよくしっかりと見極めたと思う。

 酒井選手はスライディングタックルでクリアしようとしたが、ボールに触れることはできていない。とはいえ、谷澤選手の足を引っかけようという意図も見えない。もちろん、谷澤選手が右足を出さずに、酒井選手が伸ばした足に谷澤選手が引っかかって倒れたのであればPKだが、右足を出して自分から接触をつくろうとしなければ、谷澤選手は倒れることなくプレーを続けられたはず。最初の左足のボールタッチでボールが流れ、シュートを打つには角度がなくなると考えたのか、こうした審判をだましてファウルをもらおうとするプレーは許されない。

 毎年、Jリーグが始まる前に、そのシーズンで特に気をつけたいルールのポイントをJリーグのスタンダードとして映像にまとめ、各クラブに回って、全選手に説明している。もちろん、Jリーグ、JFL担当審判員や審判指導者にも説明している。

 シミュレーションも本年(2012年)のスタンダードのポイントの一つ。説明会で使用する映像では2つのシーンを使っているが、そのうちの一つに谷澤選手が登場する。ペナルティーエリア内で左足を相手に当て、ファウルされたように見せかけて倒れている。左右の違いはあるが、今回と同じようなシミュレーションだ。“癖”になってしまっているだろうか。

 試合後の表彰式では、審判団に対し、F東京のサポーターから激しいブーイングが飛んでいた。判定自体はいずれも正しかったが、2つともF東京にとっては不利となる判定で、試合の結果もF東京の負け。西村主審も「ブーイングはしょうがない」と話していたが、この2つの場面以外でも、試合全体を通し、そのレフェリングは2012年のJリーグのスタンダードをしっかりと示していたと思う。

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