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No Referee,No Football

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再び2つのPK、ショルダーチャージの判断
[アジア杯準決勝 日本vs韓国]

 アジア杯2011の準決勝は日本対韓国のライバル国対決となった。両チームともに南アフリカW杯でベスト16。見応えある試合は、延長を終えて2-2。勝利の女神はPK戦で日本に微笑んだ。

 この試合、4点のうち3点がセットプレーから生まれ、2点がPK絡みだった。グループリーグ第2戦のシリア戦と同じく、2つのPKの判定には疑問が残った。

 韓国の先制点となるPKの判定は前半22分。DFのファン・ジェウォン選手が韓国のハーフから前線にロングフィードしたボールは日本のペナルティーエリア内に入り、今野泰幸選手とパク・チソン選手の頭上を越した直後、両選手が接触して転倒した。

 この試合の審判団は、サウジアラビアのカリル・アル・ガムディ主審、イランのハッサン・カムラニファル副審とレザ・ソクハンダン副審。アル・ガムディ主審、カムラニファル副審は、昨年の南アフリカW杯でグループリーグのフランス対メキシコ戦、チリ対スイス戦を担当している。

 ロングボールはセンターサークルを少し出たところにいたアル・ガムディ主審のはるか頭上を越えた。通常であれば、左側に膨らんで走り、副審と挟む形で今野選手とパク・チソン選手を監視するのだが、遅れたと思ったのか、あるいは後方から2人のプレーを見たかったのか、アル・ガムディ主審は2人を真後ろから追って行った。

 テレビの映像はメインスタンド側からのもの。今野選手はパク・チソン選手に対してショルダーチャージで対応。パク・チソン選手がただ弱かったために転倒したように見えた。しかし、判定はファウル、PK。声は聞こえないが、今野選手だけでなく、キャプテンの長谷部誠選手、GKの川島永嗣選手も“ショルダーだからファウルででないだろう”とアピールしていたが、笛を吹いてエリア内に勢いよく走り込んだアル・ガムディ主審は受け入れない。

 アル・ガムディ主審の判定。理解はできるが、100%納得はできない。

 確かに今野選手、パク・チソン選手の両者にボールをプレーできるチャンスはない。そこに今野選手が当たりに行った。よく見ると“Shoulder to Shoulder(肩と肩)”ではない。当たられる前、パク・チソン選手は一度、今野選手をちらりと見るが、結果、無防備な体勢で当たられている。2人の接触を後方から見れば、今野選手が後ろから当たりに行ったように見えるに違いない。ファウルとされても仕方ない。

 しかし、仮にアル・ガムディ主審が我々と同じ方向(テレビ映像の角度)から見ていたら、どうだっただろう。ノーファウルにしていたのではないだろうか? 脳裏には、いまだ“Normal Football Contact(サッカーにある認められるべき接触プレー)”と映っている。

 そして、1-1で迎えた延長前半6分。軽くだが、前田遼一選手が抑えられた相手を振り切って左サイドをドリブル突破。アル・ガムディ主審はアドバンテージのシグナルを示す。ボールは中央にいた岡崎慎司選手を経由し、本田圭佑選手へ。本田選手は2タッチ後、韓国のペナルティーエリア内に走り込もうとする岡崎選手へスルーパスを出した。

 ファン・ジェウォン選手は岡崎選手の突破を恐れたか、あるいはボールをGKのチョン・ソンリョン選手、またはイ・ヨンピョ選手に取らせようとしたのか、右肩で岡崎選手の左胸あたりに斜め前方から当たりに行った。

 接触は、前半22分に今野選手が取られたファウルと同じようにShoulder(肩)によるもので、岡崎選手の胸あたりに当たりに行ったが、意図は止めに行っていると読める。ファウルの判定は正しい。

 アル・ガムディ主審は躊躇せずに笛を吹いたが、すぐにはFKのシグナルを示さない。一瞬、ペナルティーエリアのぎりぎり外だと判断したそぶりを見せるが、逡巡。そして、カムラニファル副審の方を見るや、歩いてペナルティーマークを示した。

 チャ・ドゥリ選手が抗議に来るが、アル・ガムディ主審は親指を立て、副審とPKであることを再確認。PKの判定に韓国のチョ・グァンレ監督は、それはないだろうと腕を振って否定する。“信じられない”という表情。もちろん判定は覆らない。

 本田選手がパスを出したとき、韓国の最終ラインはファン・ジェウォン選手。ここがオフサイドラインだから、カムラニファル副審はファウルを真横から見ているはずだ。しかし、岡崎が倒れ込んだ位置はエリア内だったものの、テレビ映像は、接触がペナルティーエリアラインのやや外側であることを明らかに示していた。PKではない。結果として、前半のPKは韓国に、このPKは日本に味方する判定となったが、2つの判定ともサッカーの一部であり、帳尻合わせではない。

 岡崎選手が獲得したPK。本田選手が蹴ったボールはGKのチョン・ソンリョン選手が弾いたものの、ゴール前に詰めた細貝萌選手が蹴り込んで、日本の得点となった。しかし、このPK、本来ならばやり直しだ。本田選手がボールを蹴る前に細貝選手はぎりぎりだが、エリア内に侵入し、さらにイ・ヨンピョ選手と前田選手も1~1.5mほどエリア内に入り、GKのチョン・ソンリョン選手はゴールラインより前に出ていた。サウジアラビアの主審の感覚だと、この程度は“範囲内”なのだろう。

 やり直しであれば、本田選手も次はきちんと得点していたに違いない。しかし、いずれにしろ、韓国としては、PKの判定そのものについて納得することはない。

 シリア戦に続き、疑問の残る2つのPKから両チームに得点が生まれた。結果的には、両チームにとって“行って来い”になったが、審判目線としてはすっきりしない。

 決勝の主審は、南アフリカW杯で開幕戦や準決勝のオランダ対ウルグアイ戦など5試合で笛を吹いたアジア最優秀レフェリーであるラフシャン・イルマトフ主審。この大会でも、日本が5-0で大勝したサウジアラビア戦を担当している。是非とも世界トップレベルの主審によって安定した審判環境が提供され、その上で日本が優勝の栄冠を勝ち取ることに期待したい。

※松崎康弘審判委員長による新著『審判目線~面白くてクセになるサッカー観戦術~』が好評発売中。本コラムを加筆・修正して掲載したほか、2010年の南アフリカW杯をめぐる審判の現状や未来などについて新たに書き下ろした作品です。前作の『サッカーを100倍楽しむための審判入門』を購入いただいた方はもちろん、本コラムでサッカーの審判に興味を持った方も是非お買い求めください。

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