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No Referee,No Football

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2010年Jリーグのレフェリングを振り返る
[J1第34節 京都vsF東京]

 2010年のJリーグも12月4日の最終節で閉幕した。この日行われたJ1第34節、J2第38節の計18試合で唯一、退場者が出たのが、J1の京都サンガF.C.FC東京の試合だった。

 後半42分、F東京のリカルジーニョ選手が左サイドのタッチライン際でボールをキープしていると、後方から京都の西野泰正選手がスライディングタックルで飛び込んだ。左足の裏を見せ、ボールをパスしたリカルジーニョ選手の足を挟み込むようなタックルだった。吉田寿光主審は、迷わずレッドカードを提示した。西野選手は一発退場。負傷につながらなくて良かった。しかし、非常に危険なプレーだった。吉田主審は真横から見ており、レッドカードは妥当な判断だ。

 今季のJ1は退場数が多かった。西野選手の退場は47件目。昨季の42件から5件増えた。「1試合2枚の警告」による退場は年々、減少傾向にある。07年が52件、08年が36件、09年が32件、そして今季は24件。これは試合中に警告を受けた選手が2枚目をもらわないように注意してプレーしているということだし、1枚目の警告のときに主審がきちんと選手に対し「それは警告に値するプレーです。次は気をつけなければなりません」というメッセージを伝えていることの証だと思う。

 ところが、「著しく不正なプレー」による退場は昨季の2件から9件、「乱暴な行為」も4件から6件に増えた。「著しく不正なプレー」とは、最終節の西野選手のように足の裏を見せたタックルや相手の足を挟み込むようなタックル、あるいは後方からの危険なタックルなどだ。こうした相手選手の安全を損なうプレーは、サッカーから排除されるべきだ。是非とも改善していかなければならない。

 審判が正しく判定できるようにするのもそうだが、各クラブに対してもしっかり説明し、選手がまずはフェアにプレーする環境を整えていきたい。選手が安全にプレーできること。これは、サッカーの競技規則の精神の大きな柱のひとつである。選手は、サッカーにおける資本。選手がいなければサッカーは成り立たない。そこに味方、相手というのは関係ない。

 今季のJ1の警告数は966枚。昨季の1009枚から43枚減った。理由別に見ると、「反スポーツ的行為」「ラフプレー」「遅延行為」が昨季から減った一方、「異議」による警告が50枚から67枚、「繰り返しの違反」による警告も20枚から49枚に増えた。

 繰り返しの違反に関しては、レフェリングの重要なテーマとして審判委員会でもJリーグ担当審判に対して強く言ってきた。繰り返しの違反に対する審判の意識が甘いと、小さいファウルが続いても選手にきちんと対応せず、結果的に大きなファウルを招くことになる。だから、選手とコミュニケーションを取りながらしっかり注意して、危険なファウルを抑止するように指導してきた。

 必要に応じて選手に注意を行うと、どの選手に何度注意したかも自然と主審の頭に残る。ゲームコントロール上、大切なことだ。競技規則(第12条)にも、「繰り返し競技規則に違反する」ことは警告となる7項目のひとつであると明記されている。

 結果、繰り返しの違反による警告が増えたのだろう。一方で、こうした対応をすることで選手も気を付けるようになる。果たして、反スポーツ的行為やラフプレーによる警告数が減少し、1試合2枚の警告による退場数も減ったのである。

 これらは選手と積極的にコミュニケーションを取ることで生まれた良い面だ。しかし、残念ながら悪い面も出てしまった。そのひとつが、異議による警告数の増加だろう。選手とコミュニケーションを取れば、選手も審判に対して話しやすい関係になる。そうすると、文句や異議も出やすくなってしまう。もちろん、さらに良いコミュニュケーションの取り方ができるようになれば、これも減少していくと思われる。

 年々、増加傾向にあったアクチュアルプレーイングタイム(90分間のうちアウトオブプレーなどで試合進行が止まっている時間を除いた時間。実際にピッチ上でプレーされていた時間)も今季J1の1試合平均は54.5分で、昨季の55.9分から1分以上短かった(資料提供:Stats Stadium)。これも、選手とコミュニケーションを取ることによって、逆にプレーが止まる時間が長くなってしまったためと言えるだろう。

 今季のレフェリングの一番の柱として「手のファウル」をきっちり取ることを掲げたのも、アクチュアルプレーイングタイムが伸び切らなかった要因だ。コーナーキック時などにゴール前のポジション取りで選手に注意するシーンも増えた。

 「手のファウル」に関しては、シーズン当初、審判も選手も混乱した。フリーキック数(直接、間接、PK)が急増してしまった。一体どうなるのかと心配された。それでも、シーズンが進むにつれて徐々に落ち着き、最終的な1試合平均のフリーキック数は33.5と、昨季の33.9から減少した。

 「日本の審判は笛を吹き過ぎる」とよく言われた。確かに、Jリーグが開幕した93年のフリーキック数は1試合平均で46。02年ごろまでは44前後をうろうろしていた。しかし、その後、大きく減少する。決して、レフェリングの向上だけではない。選手の戦う姿勢などもあるだろう。

 現在の約34という1試合平均のフリーキック数。海外の試合のフリーキック数を調べたことがあるが、イングランドのプレミアリーグは24と非常に少なく、遠く及ばない。しかし、06年のドイツW杯の41.5、07-08年の欧州CLの36.8より少なく、決して悪くない数字である。

 アクチュアルプレーイングタイムが昨季から伸びなかったとはいえ、08年の1試合平均54.2分よりは若干伸びている。昨季はアクチュアルプレーイングタイムを最重要テーマとしたことで、前年から大幅に伸びた。今季は手のファウルという新たな課題に取り組んだため、その“悪い面”も出てしまったが、いっぺんにすべてが飛躍的に良くなるわけではない。ひとつずつ段階を踏んで改善していくしかない。

 来季に向けては、選手とのコミュニケーションは良くなってきており、そこをもっともっと進めていきたい。さらに手のファウルに関しても見直していきたい。シーズンが進むにつれて落ち着いてきたが、終盤に入ってまた少し甘くなってしまった部分もあった。もう一度整理し直し、すべての面でより良いレフェリングを提供できるようにしていきたいと思っている。

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