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No Referee,No Football

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広島のゴールパフォーマンスは過度な喜びか
[J1第28節・横浜FMvs広島、ナビスコ杯決勝・磐田vs広島]

 10月31日に行われたJ1第28節の横浜F・マリノスサンフレッチェ広島。前半24分に広島の高萩洋次郎選手が先制点を決めると、チームメイトが駆け寄り、抱き合って喜んだあと、槙野智章選手が輪を離れ、ピッチにひざを付いて、恒例となったゴールパフォーマンスを始めようとした。すると、廣瀬格主審が走り寄り、パフォーマンスを止めさせ、早く自分たちのハーフに戻るように促した。

 広島のゴールパフォーマンスは、賛否両論だ。得点はサッカーにおける最大の喜びである。それをさまざまな方法で表現することは認められる。競技規則の付属書である「競技規則の解釈と審判員のためのガイドライン」(以下、「競技規則の解釈」)には「競技者が得点をしたときに喜びを表すことは認められる」と書かれている。

 しかし、過度な喜びの表現は、広島のサポーターは楽しくても、相手チームのサポーターにとってみれば気分の良いものではない。また、喜びを単純に表現するのではなく、あたかもショーのように行うことはサッカーの一部ではないという意見もある。「魚釣り」や「ダルマさんが転んだ」の動きを真似たパフォーマンスなど、少し度が過ぎている感はある。

 確かに「競技規則の解釈」には「その表現は過度になってはならない。適度な喜びの表現は許されるが、喜びを振付けられた踊りで表し過度に時間をかけてしまうものは勧められない」とも書かれている。
 
 ゴールパフォーマンスが「適度」なのか、「過度」なのか。喜びの表現方法はさまざまだが、相手選手、相手ベンチ、あるいは相手サポーターを挑発するような行為、周囲のフェンスによじ登ったりするような行為、ジャージーを脱ぐ、ジャージーを頭に被る、あるいはマスクや同様のものを顔や頭に被る行為は警告の対象だ。

 さらに、過度に時間をかけることは遅延行為に当たるし、そのパフォーマンスによって「相手を挑発する、嘲笑する、また相手の感情を刺激する」と主審が判断すれば、やはり警告が示される。

 もっとも、今回のケースは多少、状況が異なる。槙野選手はパフォーマンスをやり始めようとしたが、実際にはパフォーマンスをやっていない。やる前に廣瀬主審に止められている。

 「競技規則の解釈」には「主審、副審および第4の審判員は、そのような(選手が過度に喜びを表現している)状況に対して介入するよう求められる」、さらには「主審、副審および第4の審判員は予防的に対応するとともにコモンセンスを用いることが求められる」と書かれている。

 今回の廣瀬主審の対応が「介入」「予防的」だったとは思えない。選手が集まって喜び続けている状況に対し、「早く戻りましょう」と声をかけ、時間がかかり過ぎないようにするのが「介入」であり、試合前のマッチコーディネイションミーティングやピッチ入場の際に、両チームの監督やキャプテンに対してゴール後のパフォーマンスに時間をかけ過ぎないよう事前に伝えておくことが「予防的」な対応だ。

 試合前、ラフプレーの多い選手に「今日は熱くならないで冷静にやってね」と言うのと同じように、広島の選手に「ゴールパフォーマンスをあまり過度にやると、相手のサポーターも気分が良くないし、考えてね」と言っておけばよかった。そうした予防措置を取っていたにもかかわらず、ゴールパフォーマンスが過度だと判断すれば、その時点で止めさせるなり、警告を出せばいい。

 パフォーマンスを始める前に止めさせるのは「予防」ではなく、「制止」だ。過度かどうか、時間をかけ過ぎか、相手を挑発していないか。やってみないと分からない。選手が喜んでいるところに廣瀬主審が水を差したのは確かだ。

 そんなこともあり、広島とジュビロ磐田が対戦した11月3日のナビスコ杯決勝で主審がどのように対応するのか随分気になっていた。

 槙野選手が試合前日にゴールパフォーマンスを行うと宣言していた通り、0-1の前半43分に李忠成選手が同点ゴールを決めると、ゴールキーパーの西川周作選手も参加してのパフォーマンスが行われた。しかし、これまでとは随分違っていた。その時間も短く、高山啓義主審がすぐ近くで見守り、パフォーマンスが終わると、すぐに自分のハーフに早く戻るよう促していた。広島の選手も、高山主審も、横浜FM戦のことが頭にあったのか、多少ぎこちなかったが、それでもパフォーマンスとして認められる範囲でゴールを喜んでいたと思った。

 逆に前半48分に山岸智選手が勝ち越しとなるゴールを決めた場面。どんなものが見られるのかと思ったら、特にパフォーマンスはなく、ゴール後ろの広告板を飛び越え、サポーターの目の前で選手同士で抱き合い、サポーターに向かって得点をアピールしていた。高山主審と山口博司副審は得点につながるプレーがオフサイドかどうかを確認していたため、対応が遅くなってしまったが、この喜び表現こそ過度で、警告されても致し方ないかなと思われた。

 日本では、喜びのために広告板を越えるだけでは警告しないとしている(03年までは警告の対象だった)。しかし、日本のサッカーの多くは陸上競技場で行われており、ゴール裏からサポーター席までは相当の距離がある。広告板を越えるのは良いが、そこからさらにサポーター席の目の前まで行き、時間をかけて得点を喜べば、それは過度と判断されても仕方ないのだ。

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