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No Referee,No Football

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今季2度目の"トリックPK"は競技規則違反か
[ACL第6節 広島vs浦項]

 後半36分、サンフレッチェ広島の決勝点は再びトリッキーなペナルティーキックから生まれた。ペナルティーマークに立ったのは佐藤寿人選手だったが、佐藤選手はシュートではなく、軽くボールを前方に蹴るだけ。そこにペナルティーエリア外から走り込んだ槙野智章選手が右足でシュートを決めた。

 広島はJリーグ開幕戦でも“トリックPK”で得点した。しかし、このときは「ペナルティーキックを行う競技者は特定されなければならない」としている競技規則に対する明確な違反で、本来なら得点は認められるべきではなかった(詳細は本コラムの第1回を参照)。

 今回のケースは、キッカーとして「特定された」佐藤選手が最初にボールを蹴っており、ボールも前方に転がった。「ペナルティーキックを行う競技者は、ボールを前方に蹴る」との競技規則にも違反していない。ペナルティーキックのキッカーが前方に“パス”をして、ペナルティーエリア外から別の選手が走り込んでシュートを決めるというのは、過去に海外でもあったプレーで、狙い自体は何の問題ない。

 もっとも、このシーンでは、佐藤選手がボールを蹴る前に槙野選手がペナルティーエリア内に侵入してしまっていた。これは「侵入の違反」に当たり、得点は認められない。この場面、槙野選手とともに浦項のファン・ジェウォン選手も、佐藤選手のキック前にペナルティーエリア内に侵入していたので、両チームの選手が「侵入の違反」を犯しており、本来ならばペナルティーキックはやり直しにならなければならなかった。

 なお、浦項の選手が佐藤選手のキックの前にペナルティーエリア内に入っておらず、侵入の違反を犯したのが槙野選手だけだったとしたら、キックのやり直しではなく、槙野選手が侵入した地点から浦項の間接フリーキックとなる。

 競技規則の付属書である「競技規則の精神と審判員のためのガイドライン」には、ペナルティーキック時の「侵入の違反」について下記のように明記されている。

<キックの結果がゴールの場合>
侵入の違反を犯したのが、
・攻撃側競技者の場合、ペナルティーキックを再び行う
・守備側競技者の場合、ゴール
・両チームの競技者の場合、ペナルティーキックを再び行う

<キックの結果がノーゴールの場合>
侵入の違反を犯したのが、
・攻撃側競技者の場合、守備側チームの間接フリーキック
・守備側競技者の場合、ペナルティーキックを再び行う
・両チームの競技者の場合、ペナルティーキックを再び行う

 今回のケースで誤解されやすいのは、広島のペナルティーキックの結果は「ノーゴール」と判断されるという点だ。ペナルティーキックを行ったのは、シュートを決めた槙野選手ではなく、最初にキックした佐藤選手。佐藤選手のキックはゴールに入っていない。だから、最終的にゴールは決まったものの、ペナルティーキック自体の結果はノーゴールとなる。つまり、今回のプレーは「キックの結果がノーゴールの場合」に当たり、両チームの競技者が侵入の違反を犯したので、ペナルティーキックを再び行うことになるのだ。

 ペナルティーキックの規則は非常に難しい。なかなかファンにも、もしかしたら選手にも、完全には理解されていないのかもしれない。加えて、審判にも100%理解されていない場合もあり、正しくない判定が正しいものだとまかり通っている可能性がある。

 ペナルティーキックをGKが弾き、ボールがゴールラインを割ることもあるが、このとき攻撃側の選手が侵入の違反を犯していれば、コーナーキックではなく、守備側の間接フリーキックとなる。

 シュートがゴールの枠を外れたり、GKがキャッチした場合も、攻撃側に侵入の違反があれば、アドバンテージを適用してそのままプレーを続ける場合を除き、本来は間接フリーキック。実際にはゴールキックにしたり、アドバンテージとは無関係にプレーを流したりすることもあるのだが、競技規則を正しく適用すれば、どちらの場合も、侵入の違反が起きた地点から守備側の間接フリーキックとしなければならない。これは05年の競技規則改正での変更点なので、まだあまり知られていない。
 
 ところで、4月29日に行われたJ2第9節の全9試合のうち、5試合でペナルティーキックがあった。そのうち得点になったのは3点。さらに愛媛FCアビスパ福岡横浜FC大分トリニータの試合では、ペナルティーキックがやり直しとなった。

 前者は、愛媛の福田健二選手がボールを蹴る前に福岡の選手がペナルティーエリア内に侵入し、福岡のGK神山竜一がセーブしたもの。後者は、ボールはゴールインしたものの、大分のチェ・ジョンハン選手がボールを蹴る前に両チームの選手がペナルティーエリア内に侵入していたからである。

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