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秋田人であり、究極のサッカー人。秋田U-18を率いる熊林親吾だからこそ、故郷にできること

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熊林親吾監督とブラウブリッツ秋田U-18の選手たち

[7.26 日本クラブユース選手権U-18大会グループステージ 長崎U-18 1-0 秋田U-18 ロ
ード宮城総合運動場陸上競技場]

 指揮官は試合が終わったばかりのピッチを見つめながら、はっきりと自らの想いを口にする。「これからの秋田をサッカーで絶対に盛り上げないといけないと。というか、僕にはそれしかできないから(笑)。他のことはできないし、僕はそれ以外いらないと思っているので。コーチも凄く一生懸命やってくれていますし、それが一番なんじゃないですか」。熊林親吾。40歳。ブラウブリッツ秋田U-18の監督は、秋田のために、ブラウブリッツのために、自分の持っている情熱をすべて注ぎ込んでいる。

 結果から言うと、悔しい2連敗を突き付けられた。グループステージ1日目は、ヴィッセル神戸U-18に0-2で敗戦。この日のV・ファーレン長崎U-18戦は、後半にPKを決められ、0-1で惜敗。「自分のマネジメント不足もありますね。トップチームの強度を“基準”にやってきていて、その球際のところで勝てた所も、ファウルもあったと思いますけど、それが選手のストレスになってしまったかなと。でも、やってきたことをほぼ全部出せたので、そこは良かったと思います」。課題を自身に向けつつ、確かな収穫も手にしていた。

 トップチームのサポートコーチも務めている熊林だからこそ、彼らが“基準”をアカデミーの選手たちへ示してくれることの重要性も、より強く感じている。

「U-18のみんなが、トップの選手をライバルだと思って、超えていきたいと。それは本当に良いことだと思いますね。トップチームが“基準”を設けて、J2で頑張っていることで、一気にレベルが上がったなって。だから、僕らスタッフにも使命感があって、『“秋田のために”ってこういうことなんだな』『吉田監督が言う“秋田一体”ってこういうことなんだな』って。トップチームが頑張れば、アカデミーの子たちもそれを見て、いろいろな基準が変わってくるんです。その中で大学に行くヤツもいますし、自分に合った環境を探しながら、そこには“基準”があるので。本当にいい状況ですよね」。

 今年でU-18の監督も6年目。環境の変化を問うと、笑顔で言葉を紡ぐ。「人がいる(笑)。最初に自分がU-18に入った時は、3年生が12人、2年生が4人、1年生が1人。3年生が抜けた瞬間、冬はランニング。その中でやっと3年目ぐらいからは、人がいます(笑)。最初の3年間は紅白戦もできなかったので。そこが一番変わりました。それはクラブが協力してくれて、良い意味で本当にゼロからみんなで積み上げてきて、『じゃあまだ練習場がないね』とか、そういうことを本気で話し合えているので、今日もこの子たちが本当に力を示してくれて、それを社長も見に来てくれて、そういうところはいいですよね」。

 その上でU-18の選手たちに求めていることは、『頑張る』ことだという。「見ている人たちに、『本当に頑張っているな』と思ってもらえることが大事なんです。たとえば親御さんに『ああ、自分の息子はこんなに頑張っていて、ブラウブリッツ秋田に入ってくれて本当に良かったな』って思ってもらえるかどうか。見ている人たちが本当に応援したいと思ってくれるか。それはトップチームも一緒なんですけど、僕が選手の時もずっとそれを考えていました」。

「プロ選手でも後悔しないかどうかって、結局自分が頑張ったかどうかでしかなくて、結果も大事ですけど、本気で取り組んできて、試合で頑張った、と。それってサッカー選手として本当に大事なことで、高校生らしさ、プロらしさ、若手らしさ、ベテランらしさ、そういうものはもっとどんどん出していっていいのになと。システムにハメて、感情を出させないようなやり方ではなくて。僕はウチの子たちは“らしさ”は出してくれたと思いますよ」。

 18歳で生まれ育った秋田を飛び出し、Jリーグの世界へ身を投じた。16年間に渡ってプロサッカー選手としてのキャリアを積み上げ、今は故郷の“後輩”たちとサッカーに向き合う時間を過ごしていることが、いかに幸せなことかを日々噛み締めている。

「僕の選手時代を知っている人は、もっと上手いサッカーを、もっといろいろなことをやるんじゃないかと。でも、それは僕の“プレー”であって、僕は秋田人としてこの子たちと向き合った時に、まだ本当に上手くないけど、その上手くない子に上手いサッカーを教えるわけじゃなくて、1ミリでもプロになる可能性を上げたいと。そこだけなんです。でも、それは僕にしかできないんですよ。システムだとか、止めて蹴ることだとか、それも大事だけど、それに窮屈感を与えるよりも、今できることをやった方がいいんです。ジュニアユースの時も勘違いして、ちょっと上手いとか、東北でもできるとか、そういう感じだったものを、僕が取っ払って、『いや、違う』と。考えているのは『プロになるにはどうしたらいいか』というところだけなので、そこは本当に使命感がある中でやらせてもらっています」。

「本当にありがたいですし、幸せですよ。自分たちが一生懸命やった分だけ、ちゃんと跳ね返ってきて。そこに答えはないんです。でも、間違っちゃいけないことはある。選手がつまらなそうにしている、サッカーをやらされている、と。そこだけはさせていないという自信はあります」。

 秋田人であり、究極の“サッカー人”。熊林だからこそ、秋田のために、ブラウブリッツのためにやれることは、きっとまだまだ限りなくその目の前に現れてくるはずだ。

(取材・文 土屋雅史)
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