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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:真夏に咲いた桜の戴冠。日本一を手繰り寄せた3年生の努力と献身(セレッソ大阪U-18)

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日本一に輝いたセレッソ大阪U-18が歓喜のガッツポーズ!

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 日本一に輝いた試合後。チームのキャプテンを務めるDF川合陽(3年)の語った言葉が印象深い。

「トーナメント形式になって、負ければ終わりというところから、チームの団結力は芽生えてきたかなと思います。ここに来れていない3年生もいるので、その人たちの想いも背負ってきたのはもちろんですし、3年生だけじゃなくて、ケガで来れていない下級生もいる中で、『絶対優勝するしかない』というのは3年生とも話していました。僕たちはコロナもあって難しい3年間を過ごしてきたので、このタイトルは絶対獲りたい位置付けでしたし、みんなで絶対獲ろうと思っていました。良いチームになってきています」。

 日本クラブユース選手権(U-18)大会で13年ぶりに頂点に立ったセレッソ大阪U-18(関西2)。真夏に咲いた桜の戴冠には、これまで決して出場機会に恵まれてきたわけではない、3年生たちの努力と献身が間違いなく大きな要素として、チームの中心を貫いていた。

 プレミアリーグの出場は、ここまでわずかに1試合。FW緒方夏暉(3年)は苦しんでいた。同い年のチームメイトでもあるFW木下慎之輔(3年)が開幕から順調にゴールを重ねる中で、自分は試合に出ることもままならない。「シンがそれだけ得点を獲れる能力があるというのは知っていたので、『凄い活躍だなあ』と思っていたんですけど、陰で負けたくないという想いは常にありましたし、『シンを追い抜かしたいな』と思っていました」。



 迎えたクラブユース選手権。初戦のモンテディオ山形ユース(東北3)戦でスタメンに抜擢された緒方は、チームの5点目を記録。確かな結果を残してみせると、木下がブラジル留学に向けて離脱したラウンド16でも、FC東京U-18相手に2ゴールをマーク。PK戦でも1人目のキッカーとして、きっちりゴールを叩き込み、準々決勝進出に貢献してみせる。

「自分はなかなか厳しい時期をずっと過ごしていて、その中でも回ってきたチャンスを掴むためにも、ずっと準備はしてきました。今回はチャンスを与えてもらっているので、それを掴み取るのは自分次第だと思います。『シンがおらんくても大丈夫やで』というのを示したいというか、『オレがおるから安心せえよ』というところでも、自分が点を獲って、チームを勝たせていきたいです」。

 準決勝後にそう力強く話していた緒方は、ベンチスタートとなった決勝でも後半開始から登場すると、前線から果敢にプレッシャーを掛け続けながら、ひたすらゴールを狙い続ける。自身の得点は生まれなかったが、チームの決勝点に絡み、優勝の瞬間をピッチで体感することとなった30番に対して、今大会の指揮を執った相澤貴志GKコーチが向けた想いが温かく響く。

「緒方は前のポジションでという意味では、今までチャンスをもらえない選手だったんですけど、プレミアのガンバ戦で途中で入った時から、自分の持ち味だったり、無理の利くプレーが出せて、基点になっていたりもしていたので、僕も期待して起用したんです。それなりに結果も残していたので、そういう中で良い競争がまた生まれて、(金本)毅騎もアビスパ戦でゴールを決めてくれましたし、常に競争があってチームが成長していくという意味では期待に応えてくれているなと。まだ物足りない部分は正直ありますけどね(笑)」。

 積み重ねた努力は嘘をつかない。試合に出られなくても、地道に日々のトレーニングに取り組んできたストライカーの躍動が招いたさらなる競争意識が、桜のフォワード陣全体を一段階先のフェーズへと連れていったことは、語り落とせないだろう。

 本職のポジションで勝負したいけれど、託された仕事はきっちりこなさなくてはいけない。MF伊藤翼(3年)は悩んでいた。プレミアリーグの序盤戦こそボランチで起用されることが多かったが、徐々にサイドバックやサイドハーフでの起用も増え、1年生のMF木實快斗が中盤の中央で存在感を高めていく。



「自分の中ではボランチが一番やりたいという想いがありますし、快斗も上手いんですけど、そこは自分の方が学年も上なので、『負けてられないな』って。でも、悔しさというよりは、『やってやろう』という想いの方が大きかったです」。任されれば仕事をする自信は、ずっと携えてきた。

 今大会では基本的にボランチのファーストチョイスとして、ピッチのど真ん中で攻守に気の利くプレーを披露し続ける。加えてとにかく明るい性格の伊藤には、任されている大事な役割があった。「僕がアップ前の円陣の掛け声担当なので、気合を入れて、盛り上げて、『みんな行くぞ!』というのをやっているんです(笑)」。

 そんな自分も含めた“元気印”たちの影響が、今年のチームの雰囲気を作ってきていることも、伊藤は敏感に察知している。「去年はこんなんじゃなかったんですけど(笑)、今年は最高学年としてみんなが引っ張っていく感じが出てきて、声も出るようになってきましたね。チームの雰囲気も変わって、練習から声も出るようになってきたと思います」。

 日本一を勝ち獲り、最高の仲間と写真撮影をする時も、表彰式でカップを掲げる時も、とにかく16番ははしゃいでいた。「アレは自然ですね(笑)。無理してないです。バリ嬉しかったです!」。この男の漂わせる空気感は、きっとこれからもチームの苦境を幾度となく救っていくことだろう。

 やっと、この場所に戻ってきたんだ。DF長野太亮(3年)は周囲への感謝の中で、サッカーのできる喜びを噛み締めていた。ヒザの大ケガを負って手術したのはちょうど1年前のこと。それから今年の5月まではリハビリに励む毎日を送り、ボールを蹴ることもままならない時間を強いられる。



「正直、焦りはありました。去年の初めの方は試合に出させてもらっていたんですけど、その時はずっと負けていて、チームが9月以降ぐらいに勝ち出した時には僕もちょうどサッカーができていなかったので、『このままだったらヤバいな』というのは自分の中でもありましたけど、『今できることをしっかりやろう』とも思っていました」。

 苦しい日々の中で、気付いたことがあった。家族、チームメイト、チームスタッフ、ドクター。今までこんなにも多くの人に支えられて、サッカーをしていたんだと。それからは、戦線復帰が自分だけのものではないことを悟る。「自分が復帰した時には今まで以上のプレーをできるようにすることと、いろいろな方に携わってもらってきた中で、その人たちへの感謝を自分のプレーで表わせるようにと思っていました」。

 日本一の懸かった決勝。1点をリードした延長後半から、長野はピッチへ送り込まれる。「太亮に関しては守備に信頼感がある選手なので、迷わずに使いました」(相澤GKコーチ)。終盤にエリア内から放たれたシュートに、2番が全身を投げ出して飛び込んでいく。「勝っている中で出たので、失点だけはしないように、最後のところは身体を張るとか、そういうことは意識していました」。自分にできることを、真摯に、全力で。

 優勝を告げるホイッスルが鳴った時、頭の中には支えてくれた多くの人たちの顔が次々に浮かんできたという。「親とトレーナーさん、病院の先生、自分に携わってきてくれた人たちへの想いがあふれ出て、感極まって、ここに来れただけでも良かったのに、みんなのおかげで優勝までできて、本当に良かったです」。みんな彼の想いはわかっている。最高の笑顔の花が咲くチームメイトの輪の中に、2番もまるで弾むような軽やかさで吸い込まれていった。

 タイムアップの瞬間。一番最後に投入された男は、ピッチ上の誰よりも大きな声で勝利の雄叫びを上げる。MF若野来成(3年)は満面の笑みを湛えていた。自他ともに認めるチーム屈指のムードメーカー。長野が「来成と翼がメチャクチャ盛り上げてくれるので、僕もそんなに喋る性格ではないんですけど、あの2人のおかげで気持ちも昂りました(笑)」と明かすのも頷けるような、個性的なキャラクターが微笑ましい。



「もうとにかく嬉しかったです。それしかなかったです。叫んだのは覚えています(笑)」と日本一を喜んだ若野だが、1年前は今後の身の振り方を真剣に考えていた。「去年の夏はホンマにこのチームで続けるのかどうか考えていて、お母さんや家族やチームメイトとも話をしていました。でも、『やっぱり自分はここで上手くなろう』と思って今があるので、あの時にやめていたらこんな景色も見えなかったですし、今より上手くなっていることはないかなと思います。3年生のみんなに救われました」。

 気の置けない仲間と切磋琢磨する時間を継続する選択が間違いではなかったと、今なら振り返ることができる。「チームは“通生”と“寮生”で分かれているんですけど、そんなの関係なく、今までのユースで一番仲がいいんじゃないかぐらい、ホンマに仲が良いですし、今回の大会でもっと距離が縮まったなと思います」。その雰囲気を醸成するのに、この34番の存在が大きな影響を及ぼしていることは、容易に想像できる。

 ただ、もちろん現状に満足する様子は微塵もない。「もちろん優勝は嬉しいんですけど、自分は出場時間が短かったので、悔しさもあります」と素直な気持ちも口にした若野は続けて、決して長くはなくなりつつあるこのチームで過ごす時間に対して、決意をきっぱりと語っている。

「日本一にはなりましたけど、ミーティングでは『目指しているところはここじゃない』とも言われていて、それも自分たちでわかっていますし、『世界に行くための通過点や』と考えていたので、僕自身もみんなも優勝では満足していないと思います。自分もプレミアの試合には全然出られていなくて、苦しんでいるんですけど、ここからは自分が試合に出て、プレミアでもチームを勝たせて、最後に優勝したいです」。最強のムードメーカーが試合で活躍することが、そしてチームがその力を得てさらなる爆発力を手にする日が、今から楽しみだ。

 残念ながら時間に限りがあり、話を聞くことの叶わなかった3年生の奮闘も書き記しておきたい。

 この日は前半で交代したものの、相澤GKコーチの発言にもあったように、グループステージの福岡戦で劇的な決勝弾を沈めたFW金本毅騎(3年)は、今大会での収穫と課題を胸に、まずは後半戦で今季のプレミア初ゴールを目指す。決勝の後半途中から左サイドバックに入り、集中した守備でゴールに鍵を掛けたMF児島亜流(3年)は、攻守にアグレッシブなプレーが際立った。こちらはプレミアでのスタメンを手にするべく、この夏からさらにトレーニングにアクセルを踏み込むに違いない。

 決勝は出場機会こそ訪れなかったものの、DF木村誠之輔(3年)はプレミアでもスタメン起用を経験している。今大会ではベンチスタートが多く、おそらく優勝の嬉しさと悔しさを同時に味わった長身DFの巻き返しが、チームの選手層に厚みを加えていく。最終盤の延長後半9分に投入され、ピッチで日本一のホイッスルを聞いたFW櫻本拓夢(3年)は、まだプレミアでのスタメンとゴールがない。「スピードや前での献身的な動きが必要になると思ったので、迷いなく入れました」と決勝での起用理由を明かしたのは相澤GKコーチ。持ち前の献身性を生かし、得点という結果でチームに歓喜をもたらすために、ここからさらなる成長を期している。

 経験豊富な島岡健太監督が笑顔で紡いだ言葉は、すべての選手へ平等に向けられたメッセージだ。「こういうことを続けていけば、こういうふうになっていくんだという自信は、みんな持ててきています。ただ、足りないところにどれだけ目を向けられるか、どれだけ自分を磨き続けられるかというのは、ここからもっとハードルが上がってくると思います。そこに挑めるかどうかが我々の試されるところであり、これからも楽しみなところですね。今日はちょっと笑ってますけど、明日はダメ出しばっかりしますよ(笑)」

 真夏に咲き誇った若き桜は、それでもまだ満開ではない。今日より、明日。明日より、明後日。もっともっと鮮やかに、もっともっと美しく。やってくるかもしれないチャンスを信じ、セレッソ大阪U-18の3年生たちは、それぞれの個性豊かな色を纏った蕾を開かせるべく、これからも最高の仲間が待ついつものグラウンドで、自分自身と向き合っていくはずだ。



■執筆者紹介:
土屋雅史
「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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