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[MOM4352]JFAアカデミー福島MF山口惟博(3年)_途中出場で決勝点を叩き出したこの日の主役が見つけつつある「自分の結果」と「チームの結果」の最適解

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豪快な決勝ゴールでチームを救ったJFAアカデミー福島U-18MF山口惟博(3年=JFAアカデミー福島U-15出身)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[7.23 クラブユース選手権(U-18)GL第1節 JFAアカデミー福島U-18 3-2 湘南U-18 コーエィ前橋フットボールセンターB]

 準備はとっくにできていた。ようやくベンチから声が掛かる。スコアは2-2の同点。自分に求められている役割はわかっているが、それだけをこなすつもりは毛頭ない。あわよくば、オレが主役になってやる。

「中盤でセカンドボールを拾うことと、ファーストのところも含めて、まずは守備で頑張ってほしいと言われて投入されたので、それをやることは考えていましたけど、自分は結果が欲しかったので、『自分が点を決めてチームを勝たせよう』と思ってピッチに入りました」。

 後半20分。JFAアカデミー福島U-18(東海1)の14番を背負うMF山口惟博(3年=JFAアカデミー福島U-15出身)は、確かな野心を携えて灼熱のピッチへと駆け出していく。

 湘南ベルマーレU-18と激突した、第47回 日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会のグループステージ初戦。前半に幸先良く先制したJFAアカデミー福島は、後半に入って逆転を許したものの、すぐさまデザインされた完璧なセットプレーから同点に。勝敗の行方はまったくわからなくなっていた。

 残された時間は15分余り。チームを率いる津田恵太監督は決断する。中盤で奮闘していたMF植田陸(3年)に代えて、山口をピッチへ解き放つ。

「惟博は最初にプリンスが始まった時はスタートで出ていたんですけど、最近は控えに回っていて、途中から出る時間が多かったことで、少し結果を気にする部分があったので、『そうではなくて、何が今の自分に必要か、出た時に何ができるようになるか、ということと向き合っていたら、チャンスが来た時にしっかりと結果が出せると思うから、試合に出る出ないとか、自分がうまく行くか行かないか、だけではないよという話をしたんです」(津田監督)。

 山口もそのことはよくわかっていた。「最初はスタメンで出ていて、シーズン途中からうまく行かなくなって、ベンチになったんですけど、控えの選手だけの練習でも自分に矢印を向けて取り組んできましたし、試合に出て結果で見返してやろうと思って、練習に励んでいました。ただ、前はもっと『自分の結果が出ればいいかな』みたいな感じだったんですけど、最近はチームの勝利のために走るとか、チームの勝利のために戦う、ということは意識してプレーしています」。もちろん自分の結果は欲しい。だが、それに加えてチームのために戦うことも、以前より強く心に刻んできた。

 交代出場から5分後。中盤でこぼれたボールが、山口の目の前に現れる。「ボールが目の前に転がってきて、練習から常に『ゴールを狙え』とは言われていたので、何も考えずに思い切り打ったら良いところに行ってくれました」。ミドルレンジから右足で力強く叩いた球体は、クロスバーの下側をかすめながら、そのままゴールネットへ到達する。

「あまり実感がなくて、頭が真っ白になった感じだったんですけど、みんなが寄ってきてくれて、それで『ああ、ゴールだ!』って(笑)。メチャメチャ嬉しかったです」。そのままチームの保護者たちが陣取るネット方向へ駆け出し、ガッツポーズを決める。「親も来てくれていましたけど、人がいっぱいいてどこにいたかはわからなかったです(笑)」。きっと山口の親も“息子”の雄姿を、しっかりと目に焼き付けていたに違いない。

再逆転弾を沈めた山口(右端)にチームメイトが抱き付く


 勝負どころで山口を起用した津田監督は、ちゃんと日常を見ていたのだ。「朝練を1人で始めて、コツコツとコツコツとやってきたことが、一番良い形で、出来過ぎという形で出ましたよね(笑)」。重ねた努力は裏切らない。試合はそのまま3-2でタイムアップ。ゴラッソで決勝点を叩き込んだ14番は、渇望していた“自分の結果”でチームを勝利に導いてみせた。

 今年度で活動が終了するJFAアカデミー福島に在籍しているのは、3年生の17人だけ。もちろん試合になれば、ベンチメンバーは少なくない仕事をこなしながら、自分の出番を窺うことになる。ただ、人数がこれだけコンパクトだからこそ、醸し出せる一体感にも山口は気付いているようだ。

「他のチームは選手がたくさんいて、それぞれにいろいろ役割分担ができると思うんですけど、自分たちはたとえば試合撮影のカメラもみんなでやるんです。でも、そうやって自分たちで試行錯誤しながらいろいろやることによって、コーチたちのような大人だけに頼らなくても、自分たちでもチームを支えることができますし、そこは他のチーム以上に強みだと感じます。寮生活も楽しいですし、自立できるのも良いかなって」。

 希求してきた“自分の結果”は大事な局面で出たが、もう山口が望んでいるのはそれだけではない。「自分の立ち位置を覆したい気持ちはあるんですけど、この大会はチーム目標がベスト16なので、まずはチームのためにプレーすることを大前提に置いて、そこで自分の結果が出て来ればいいかなと思います」。

 だが、この日の主役は最後に笑顔でこう言い切った。「まだ点、獲りますよ」。チームの結果と、自分の結果がバランス良く混ざり合う“最適解”を見つけつつある18歳。鮮やかにチームを救ってみせた山口のさらなる躍動が、真夏の群馬を熱く燃やす。



(取材・文 土屋雅史)
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