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[MOM1560]新潟明訓FW田辺大智(3年)_ラストチャンスで大ブレーク

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[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.3 全国高校選手権新潟県予選準決勝 新潟明訓高 4-0 北越高 新潟市陸上競技場]

 ボールを持っていても、いなくても、すさまじい迫力で相手の守備網を破壊する。技巧派集団の新潟明訓高に突如、パワフルなストライカーが誕生した。北越高を4-0で下した選手権予選の準決勝では、3戦連発となる先制弾を決めただけでなく、その後も力強い突破で相手を脅かし続けた。田中健二監督は「全国でも上のレベルで戦えるぐらいのFWだと思う」と話したが、現在の姿を想像することはできなかったという。夏まで左SBを務めていた田辺大智のFWへのコンバートは、苦肉の策から生まれたものだった。

 大ブレークのきっかけは、最後通牒だ。「こんなことは、あまりないのですが……」と指揮官は苦笑いを浮かべた。田辺は中学時代からの定位置だったサイドバックでプレーしていたが、ポジショニングなどの課題を指摘され続け、今夏の全国高校総体では登録メンバー入りも危うい状況だった。しかし、持ち味であるフィジカル能力は、捨てるには惜しい。田中監督は、1列前ならどうかと中盤のサイドで起用したが「すぐにダメだと言われた」(田辺)という状況で、起用法に悩んでいた。ポジショニングとパスワークでボールを意図的に動かし、相手の守備に生まれる隙を突いていくのが新潟明訓のスタイルだが、田辺は細かな修正が利かなかった。

 そこで、テストをされたのがFW起用だった。FWも仕事は多岐にわたるが、優先順位は明確だ。田辺は、ゴールに向かう、得点を狙うという最優先事項で違いを見せた。1対1では止まらない。2人目が来ても引きずりながら前に出る。最終ラインでも中盤でも合格点を得られず、FWでも機能しなければ、先発起用の可能性は消えるところだったが、「最後だぞ」と言われて与えられたチャンスがハマった。

 秋の茨城遠征以降、FWとしてのプレーに自信を深め、田辺は「SBでは迷って上手くいかないことも多かったけど、FWになってからは、思い切りプレーできている。上手いだけじゃ勝てない。自分は上手い選手じゃないし、荒削りかもしれないけど、背中で引っ張っていける選手になりたい」と言い切るようになった。当初は動き方が分からず、仲間から『パスをもらうときは、一度、相手から離れろ』と基礎的な指摘を繰り返されたが、今まで縁がなかったというシュート練習に力を入れて参加するなど、FWとしての勝負に力を注いだ。

 その姿勢を知る田中監督は「FWは2か月程度しかやっていないので、私は彼をまったく育てていないということになってしまうのですが……(笑)。持っているものがあるのかなと思う。チームとしても、点が取れる、強引にでも持っていける選手が欲しかった。シュートの思い切りが良いので、彼には『何本外しても良いから打て』と言っている。教えていない分、迷わせてはいけないですからね」と笑いながらも、解放され始めたポテンシャルの高さに目を見張っていた。起用を諦めかけていたのに、今では「毎試合、取材では彼のことを聞かれる」というのだから、驚きだ。

 田辺の頭角で、チームは一変した。田辺が相手の守備組織に亀裂を入れるようになり、自慢の2列目が圧倒的に優位な状況でボールを持ちやすくなった。前後に揺さぶられた状態の相手に対し、両サイドの高橋怜大関口正大がドリブルを仕掛け、シュートとパスの使い分けが巧みな中村亮太朗がトップ下の位置でコンビネーションを生み出す。後手に回った相手は、良いように振り回される。県予選はチーム全体で4試合16ゴールと得点力が際立っている。その最前線に田辺がいる。最後のチャンスで大ブレークを果たしたラストピースの威力は大きい。明訓の前線に田辺あり――全国にその名を轟かせるために、県予選決勝でも大暴れするつもりだ。

(取材・文 平野貴也)
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