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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』: オトコ!オトコ!ミドリカワ!(昌平高・緑川光希)

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昌平高GK緑川光希

「アレを止めたら本当のヒーローだったな」と指揮官が笑いながら声を掛ける。去年のキャプテンからは試合直後にもかかわらず、「この後、遊ぶから来いよ」という“集合”が掛かった。「学校の友達だったり、地元の友達だったり、LINEも100件近くバンバン来て、全然返せなかったんですけど、本当に応援されているなと感じました」。昌平高のゴールマウスを3年間守り続けた緑川光希は、最後まで緑川光希らしく、明るく爽やかに高校サッカーの舞台を去って行った。

「本当に監督には感謝ですね。監督が拾ってくれていなかったら、僕は行く所がなかったので」と話す緑川に、藤島崇之監督は1年生から昌平のゴールマウスを託してきた。「1年の時は先輩にくっついているだけだったので、自分ががむしゃらにただ止めるだけでしたけど、メチャメチャシュートが来るんですよ(笑)」と振り返ったリーグ戦の舞台はプリンス関東。結果は最下位での降格を突き付けられたが、個人として得るものは小さくなかった。

 チームに1つの転機が訪れたのは、昌平にとって初出場となった昨年度の全国総体。大会3連覇を狙う東福岡高を2回戦で沈めると、前橋商高、静岡学園高と名門を相次いで下し、ベスト4まで躍進。最後は優勝した市立船橋高に惜敗したものの、「本当に夢みたいな感じでしたね。目の前に全国優勝が近付いてきて、『優勝できるぞ』と思いながら過ごす1週間は本当に楽しかったですし、基準がそこになったので、僕たちはそこを超えなきゃいけないなと思って、目指す所が変わったなと思います」と緑川は語る。それまでも目標として日本一を掲げてはいたものの、あの夏を経験したことで頂上への距離感が明確になったことが、今シーズンのチームを立ち上げる時に、大きなモノサシになり得たのは間違いない。

 緑川も3年間で一番の思い出に、自身も大会優秀選手に選出された昨年度の全国総体を挙げる。「本当に広島のホテルからの景色も良かったんですよ」と笑わせながら、「僕は先輩たちが好きだったので、先輩と過ごした時間も本当に楽しかったんです」と1年前を思い出す。いわゆる“愛されキャラ”。「オトコ!オトコ!ミドリカワ!」という耳に残るチャントは、1年時から歌われているという。「あのチャントは本当にモチベーションが上がるんですよ。試合の一番最初に流れるじゃないですか。『始まった!』という感じで、あそこでスイッチが入る感じですね。確かにいろいろな人に『アレいいよね』って言われます」。まったくの部外者でも思わず口ずさみたくなるメロディにも、チーム内での立ち位置が透けて見える。

 2017年シーズンがスタートすると、「この年代は厳しい年かなと思っていた」という指揮官の予想を覆すかのように、チームは新人戦、関東大会予選、関東大会、総体予選と立ち上げから4大会続けての優勝を記録する。ただ、前年以上の結果が期待された全国総体では、初戦で日大藤沢高に逆転負け。試合後に緑川は「少し気負い過ぎたのかなとは思いますし、日本一という大きな目標を見過ぎて、一歩一歩という部分を少し守れていないのかなと感じました」と珍しく肩を落としていたが、この敗戦はチームの在り方を改めて見直すキッカケともなった。

 冬の全国は未経験だった3年生にとって、最後の選手権予選がやってくる。緑川も「練習に取り組む姿勢はインターハイが終わってから良くなったと思いますし、緊張感もきっちり持って取り組めていると思います、あの夏の悔しさは誰も忘れていないと思うので」と話していた通り、意識の部分で自ら変化を加えていった昌平は、着実に1つずつ勝利を重ね、過去2年は共に敗れていた“準決勝”という鬼門も、武南高に5-0と快勝を収めることで突破。決勝でも浦和西を2-1で退け、3年ぶりの全国切符を獲得した。「『3年目にしてやっとあの舞台に立てるんだな』という実感が湧いています」と口にしたのはキャプテンの石井優輝。日本一への再挑戦を掲げ、昌平は2度目となる冬の全国へ歩みを進める。

 タイムアップの笛を聞くと、黄色いユニフォームを纏った守護神は仰向けになったまま、しばらく立ち上がることができなかった。「『ああ、終わった』って感じでした。応援してくれたスタンドの仲間や、同じように応援してくれた親のことを考えたりして、『本当に申し訳ないな』という、その気持ちしかなかったですね」。初戦は広島皆実高にPK戦で競り勝ち、年が明けて臨んだ2回戦の神村学園高戦。前半9分に背負った1点のビハインドを跳ね返すことができず、昌平の選手権は浦和駒場スタジアムで幕を閉じることとなった。

 試合が終わって1時間ほどが経過した頃。緑川がロッカールームから姿を現す。最初に試合の感想を尋ねると、「14番の注目選手に点を取られちゃったのは自分としても悔しいですし、注目選手を抑えたら自分も注目されるだろうなというのはちょっと思っていたので(笑)、その相手にやられてしまったのは悔しいです」という答えが返ってきた。強い悔しさを滲ませながらも、早くも会話にユーモアを挟み込んでくるあたりが彼らしい。

 次に緑川が触れたのはチームメイトの存在。「越前谷は本当に尽くすというか、凄いサポートをしてくれるんですよ。絶対出れなくて悔しいはずなのに、宿舎でもマッサージとか率先してやってくれるんです。本当にいいヤツでずっと一緒にいたので、アイツのためにも勝ちたかったですね」。同じゴールキーパーとして、3年間に渡って切磋琢磨してきた越前谷一真への想いが口を衝く。
 
 指揮官も「控えのキーパーも緑川がいる中で、切れずにブラさずやってくれたので、そういう総力が最終的なトレーニングレベルを上げたと思いますし、そういった所が今年のチームの良さだったのかなと思います」と明言する。「1年生の頃から親友としてずっと隣でやっていたので、アイツがいなかったら自分もないかなと思いますし、それぐらいのヤツだったので、もう一緒にサッカーできないと思うと悲しいですし、本当に感謝したいですね」と緑川。ゴールキーパーという特殊なポジションだからこそ、3年間で築いた絆には揺るがないものがあった。

 彼と話し始めてしばらく経った頃。通路を通り掛かった藤島監督が笑顔で近付いてくる。「アレを止めたら本当のヒーローだったな」。嬉しそうに繰り出した指揮官の言葉に、「キビしいですね」と笑顔が漏れる。「アレはなあ、でも難しいかな(笑)」。そう言い残した背中を見ながら、緑川はこう話した。「監督には感謝しかないですね。1回戦ではPKを止めたことも、ロスタイムに止めたシーンも、『緑川が止めるというのはわかっていたから』ぐらいのことを言ってくれて、いつもそういうことを言ってくれるのでモチベーションにもなりますし、僕は褒められて伸びるタイプなので(笑)、本当に良い3年間を見てくれた指導者だと思います」。藤島監督はことあるごとに緑川の安定感に言及し続けてきた。この信頼関係も、今シーズンのチームが成し遂げてきた県内五冠や夏と冬の全国出場を語る上で、欠かせない要素であることは記しておきたい。

 ゴールキーパーを続ける中で、常に緑川へつきまとってきたものが1つある。それは“身長”。メンバー表に記載されている174センチは、決して大きいとは言えない数字だ。ただ、以前から「自分は『身長が低い』とずっと言われるんですけど、それはしょうがないことなので、逆に小柄な選手だと注目されるとも思いますし、プラスに捉えています」と口にしてきた彼に改めてそのことを問うと、今まで以上に言葉へ力がこもった。

「正直小さいから試合でやれないかと言ったら、自分としては『評価されている選手よりゼッテー自分の方が上手いだろ』と思う時もあるんですよ。だから、評価するのは他人なので、『ちっちゃくてもやれるね』という評価を与えてもらえるように、そこはたぶんこれからサッカーをやっていく上で引っかかってくる部分だと思うんですけど、そういう評価を覆せるぐらいの能力を身に付けられるようにしたいですね」。

 昌平での3年間で手応えと自信を掴んだのも、また確かなことだ。「身長による周りの評価を覆してきた手応えは本当にありますけど、自分としてはまだ全然足りないなと。まだまだやれると思いますし、この3年間でやれる自信と共に、もっと上のステージでやりたいという欲は大きくなったので、諦めないでポジティブにやっていきたいです。ちょっとずつちょっとずつ自分なりに進んでいければいいと思います」。憧れは京都サンガF.C.の菅野孝憲。その入れ込み具合はインスタも逐一チェックするほど。彼と同じピッチで対戦することは、おそらくこれからの大きな目標になるはずだ。

 人気者エピソードにも事欠かない。「今回は学校の友達だったり、地元の友達だったり、LINEも100件近くバンバン来て、全然返せなかったんですけど、本当に応援されているなと感じました」。その中には、去年のキャプテンから試合直後に来たものもあった。「さっきもLINEを見たら、去年のキャプテンの新垣(理生)選手から、『この後、キーパーの廣木(零)の家で遊ぶから来いよ』みたいなメッセージが来ていて(笑)、そこで先輩からもそうやって応援されているなと感じたので、『かわいがってくれてたな』と思います」。その人間性はこれからの人生でも、緑川をきっといろいろな局面で救ってくれることだろう。

「去年のインターハイみたいに今回もなりたかったですけどね」と口にしたように、大会優秀選手も狙っていたという。「可能性はゼロじゃないんじゃない?」と水を向けると、「ゼロじゃないですけど可能性は低いですよね」と答えた後、こう言葉を続けた。「欲を言えばドイツも行きたかったと、正直思うんですけどね(笑)」。最後まで明るく爽やかだった昌平の守護神は、光り輝く希望を胸に、きっと次のステージでも彼らしく躍動するに違いない。「オトコ!オトコ!ミドリカワ!」。あの耳に残るフレーズを、またどこかで聞く日が来ることを願っている。


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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史

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