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知的障がい者サッカーの元高校王者を全国舞台に導いた永福学園・平野の「人生初のハットトリック」

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平野祐樹(中央)は積極果敢にゴールを狙った

[12.16 関東B代表決定戦 都立永福学園 8-0 水戸高等特別支援学校]

 ドンピシャのタイミングで右足を投げ出した。前半5分、右CKから出されたライナー性のボールに、平野祐樹が無意識に向かっていく。クリーンヒットしたボールはネットに鋭く突き刺さる。前半8分、後半10分にも、鉛色の空に平野の雄たけびが響き渡った。

「何となく(ボールに)近づいていったら入っていた、という感じでした。決まったのは偶然です。ハットトリックも、小学1年生でサッカーをはじめて以来、初めてだと思います」

 この試合がこの日2試合目だった永福学園は部員が17人。しかし負傷者続出により、元気な選手は11人ぴったりだった。早い時間帯での平野の先制ゴールはチームに気持ちの余裕をもたらす意味でも値千金だった。

 発達障害を抱える平野は、永福学園を選んだ理由をこう明かす。

「僕の出身中学の先輩も永福学園に通っていて、中学の先生から薦められました。僕自身、(高校卒業後の)仕事に興味があって、永福学園はその就職率が90%をはるかに超える割合でした。僕は、言われたことをきちんとできないことがあり、もちろん改善しなければいけませんが、そういう要素があったとしても、社会に羽ばたける人間になりたかったんです」

 永福学園の就業技術科は、おもに事務・情報処理、ロジスティクス、ビルクリーニング、食品、福祉の5分野のコースが存在し、第1学年ではその基礎を全生徒が学ぶ。進級に従って生徒の希望や適性等にあわせて学習分野を絞り込み、実地訓練も交えながら社会に適応するための基礎を習得するカリキュラムが組まれている。2007(平成19)年に創立後、9年間の企業就労率は95%、企業就労者の91%が就労を継続しているなど、定着率も高い。

 2月16日開幕の全国大会に備える永福学園は、大会1週間前まで高校2年生に実習があるため、平野ら2年生8人が大事な時期に練習に参加できない。それでも末松龍元監督は前を向く。

「前回優勝の志村学園とは11月18日に東京都大会で対戦し、0-2で負けました。でも全国大会で戦えるチャンスがあれば、そこで勝ちたい。勝たなければ優勝はないと思いますから」

 2大会前に全国制覇をした元王者は、静かに王座奪回を狙っている。

(取材・文 林健太郎)

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