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大津を追い詰めた伏兵・大分、主将&10番MF山口が語った“中高一貫6年間の成果”

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チーム最多4本のシュートを放った大分高MF山口卓己(3年)

[1.2 選手権2回戦 大津高2-2(PK4-2)大分高 等々力]

 対戦相手は隣県のライバルであり、優勝候補の一角と目される強豪校。「誰もが大津高のほうが強いと思っていた。でも、引くことはしないで、前から行こうと話していたし、ゴールを目指してプレーできた」。大分高MF山口卓己(3年)は悔しそうな表情を浮かべつつも、やり切った充実感を語った。

 先制点を奪われてもしぶとく追い付き、引き離されても果敢に追いすがった。シュート数は相手の13に対して11。そして、80分間を終えたスコアは2-2。1回戦の優勝候補対決を5-0で突破してきた大津に対し、2年ぶりの全国出場となった大分は、がっぷり四つの戦いを繰り広げた。

 しかし、3回戦の挑戦権を手にしたのは大津だった。PK戦で4人で4本を沈めた大津に対し、大分は4人目までに2人が失敗。「PK戦は運なので2分の1。それより逆転のチャンスがあったので決められなかったところ」(小野正和監督)。指揮官の言葉からも、本気で勝利に手が届きそうにあったことを感じさせた。

「余裕を持ってパス回しができる場面はあったので、チームとして良い感じにゴールに向かってプレーできた。大津のディフェンスは固かったけど、自分たちがやってきたことを間違っていなかった。優勝候補を相手に、6年間やってきた自分たちのサッカーが通用することが分かった」。

 キャプテンで10番、攻撃と守備の両面で大きくチームを牽引してきた山口も前向きに振り返る。“6年間”というのは附属の大分中から過ごしてきた年数。長崎県で生まれ、鹿児島県で育ち、中学入学時に母親とともに大分県へやってきた18歳にとって、“三つ目の故郷”での思い出の全てがこの6年間だった。

「初めて大分中のサッカーを見た時のことが忘れられないというか、こんなサッカーをしたいという思いが芽生えた」(山口)。2011年度には堅守速攻で全国4強入りを果たした大分高だが、現在のスタイルはショートパスを多用したポゼッションスタイル。これは8年ほど前から本格強化を始め、中学年代から技術を叩き込もうとしてきた大分中での財産が大きい。

 トレーニングは三角形、ひし形の陣形を保ち、そのユニットでつなぐポゼッション練習が主体。選手たちは一様に「むしろ、それしかやっていなかったくらい」と懐かしそうに振り返る。なかでもMF柴崎岳(現ヘタフェ)に憧れているという山口にとって、この積み重ねが現在のチームに大きく活きていると感じている。

「6年間やっていれば、この形だったら誰がどこにいるのか分かるし、どこにパスを出してほしいかが分かる。なかには高校3年間だけの人もいるけど、6年間やってきたスタイルの中では、どうやって試合を進めばいいかが分かるし、アイコンタクトだけでプレーできる」と語り始めれば止まらない。

 一方で「全国で通用する武器を感じたけど、改善点も見つけられた」と語ったように、勝てなかったことに自身の力不足も感じた。「一番は1対1で負けないところ。戦術よりも前に1対1で戦えないと話にならない。そこにプライドを持ってプレーしていきたい」。次のステージに向けて、そう意気込んでいる。

 卒業後は鹿児島県の鹿屋体育大に進学する予定。力強いサッカーを志向する一方、近年は湘南ベルマーレ所属のMF松田天馬などテクニシャンも過ごした大学で、さらに心技体を磨く構えだ。「毎年プロの選手を輩出しているし、全国からレベルの高い選手が集まるけど、1年目から試合に関わりたい」と力を込めた。

 また、大分高では再び全国への挑戦が始まる。小野監督は「大分県から外に出る選手が多い中、大分に残ってもこういったサッカーをできることを示すことができた」と手応え。「1〜2年生が半分くらいいるので、ベンチの選手、セカンドのメンバーを組み込めれば面白いチームになる」と期待を寄せた。

 この日の先制ゴールを決め、最後のPKをストップされたMF永松恭聖(2年)は試合後、涙ながらに「3年生に連れてきてもらったのに申し訳ない。来年ここに戻ってきて、今日より上の結果を残して、優勝を目指したい」と語った。永松もまた3歳上の兄・涼介とともに大分中の出身者。こうして歴史は受け継がれ、次のステージに向けた足場が積み重なっていく。

(取材・文 竹内達也)

●【特設】高校選手権2018

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