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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:サックスブルーの一番うしろ(ジュビロ磐田U-18・杉本光希)

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ジュビロ磐田U-18GK杉本光希

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 タイムアップの笛が鳴った瞬間。その劇的な勝利に彩られた笑顔の桜が緑の芝生によく映える中、21番を背負ったキャプテンも自らを爆発させる。「『ウソだろ!』みたいな感じでした(笑) でも、みんな信じていたからああいうゴールが生まれたと思いますし、最後までチーム全員が諦めないで戦い続けた結果かなと思います」。サックスブルーの一番うしろ。杉本光希にとって勝負を懸けた3年の最後の1年間は、勝ち点3と共に幕を開けた。

 4月7日。セントラル開催として2日間で5試合が行われる、高円宮杯プレミアリーグEAST開幕節。その栄えあるオープニングマッチにジュビロ磐田U-18は選ばれる。相手は市立船橋高。既にこのトップリーグ在籍6年目を数えており、言わずと知れた高校サッカー界の名門だ。ただ、「実は3,4人ぐらいケガをしていて、なかなかチームとして良い状態ではなかったんです」と明かしたのはジュビロのキャプテンを託されている杉本光希。チームは小さくない不安を抱えながら、この日を迎えていた。

 ところが、立ち上がりからジュビロは冷静に攻撃の時間を増やしていく。「割と早い時間から、攻撃の時は自分たちのボールを動かしやすい立ち位置に変化させて、そこがうまくハマって、ボールもまあまあ思い描いているように動かせるシーンもありました」とは世登泰二監督。杉本も「前半は自分たちのやりたいことができていました」と手応えを語る。

 すると、先にスコアを動かしたのもジュビロ。前半26分にレフティの清田奈央弥が右からFKを蹴り込み、ニアで馬場惇也が逸らしたボールを渡邊翔耶がプッシュ。3年生の負傷欠場もあって出場機会を得た2年生ツートップの連携で、貴重な先制点を奪取してみせる。前半を終えて、スコアは1-0。「去年の開幕と比べたら、ゲーム自体は全然余裕はないですけど、頭の中や考える力に少し余裕があったので、そういう意味では去年の経験が前半に生かせたのかなと思います」と指揮官も強調したように、“2年目の余裕”が彼らの45分間を後押しする。

 後半8分。市立船橋が同点に追い付く。数少ないセットプレーを結果に繋げる試合巧者ぶりを発揮しつつ、その勢いのままにチャンスの連続。ジュビロは苦しい時間を強いられると、「『後半は市立船橋がもっと上げてくる』というのはミーティングでも言われていた」と話す杉本を襲ったさらなる危機は28分。

 U-18日本代表にも選出されている鈴木唯人が、軽やかなステップでエリア内へ侵入。決定的な位置から放ったシュートは、しかし果敢に飛び出した杉本のファインセーブに阻まれる。「体を張って止めるのは自分のストロングでもあるので自信を持っていて、あそこの1対1は『絶対止められるな』と思っていました」という杉本の言葉を、世登監督も膨らませる。「アレくらいは止めてくれるレベルです。それぐらい1対1とか強くて、出るタイミングもいつも良いですし。だから『ヤバイな』とは思ったんですけど、光希が出た瞬間に『ああ、たぶん大丈夫だな』という感覚がベンチではありました」。

“試合メンバー表”の中で一際目立つ『新潟市立山の下中学校』の文字。杉本はジュビロの登録メンバー30人の中でただ1人の中体連出身者だが、その思い出には後悔と誇りが交差している。「本当は中学校の時にアルビレックス新潟のジュニアユースに入ろうと思ったんですけど、正直メンタル的にビビッてセレクションを受けられなかったんです。それは凄く後悔していたし、『アルビに入っていたらもっと上手くなっていた』とか言われたりしたことも悔しくて、中学校の3年間は『そういう声を見返してやろう』と思っていました」。

 それでも後悔は、さらなる向上心と新たな出会いを引き寄せる。「中学の顧問は自分の恩師でもあるんですけど、サッカーのことよりも、メンタリティの所や生活の部分の大切さを繰り返していて、そういう所が良くなってくれば自ずと技術も上がってくるという考えの方でした」。特別なゴールキーパー練習はなし。時にはフィールドに混じって練習していた杉本だったが、対面パスを1時間ほど繰り返すような基礎的なトレーニングから、積み重ねることの重要さを体感していく。中学3年時には予選を勝ち上がり、全国大会にも出場。「ベスト16に入った中では唯一の公立中学で、あれは嬉しかったですね」。大会優秀選手にも選出された越後の守護神の名は、一躍多くの人へ知れ渡ることになる。

 進路を考えていた中学3年生に、オファーは届いた。届けたのはジュビロ磐田U-18。言うまでもなくプロへと直結する可能性もあるJリーグの下部組織。かつての後悔が、自身の進むべき方向への道標となって帰ってくる。「行くか行かないか迷っていたんですけど、『ダメだったらダメでいいから、一度チャレンジしてみよう』と。自分的に一皮剥けたい気持ちもありましたし、親元にいることもいいんですけど、『1回親から離れて寮生活をすることで自分を強くできるな』と思ったので」。15歳は静岡へと旅立つことを決意した。

 それから2年。レギュラーとして迎えた年代最高峰の舞台で、しかも開幕戦で堂々たるファインセーブを披露した杉本は、気合のガッツポーズにも冷静な意図を滲ませる。「最初は『ああいうのはやめようかな』と思っていたんですけど、やっぱりチームが緩くなっていたので、1回大きい声を出すことで、チームの士気が高まればいいなと思ったんです」。押し込まれる状況下でのビッグプレーが再び仲間の表情に活気を取り戻させると、その時はアディショナルタイムのラストプレーでやってくる。

 中盤でボールを奪った流れから、右サイドを運んだ途中出場の池端今汰がクロスを上げると、ファーサイドに飛び込んだのも途中出場の野中悠翔。左足で合わせたボールは、右スミのゴールネットへ鮮やかに吸い込まれる。勝ち越しゴールを告げるホイッスルと、ジュビロの勝利を告げるホイッスルが、ほとんど間髪入れずにAGFフィールドの青空へ続けて吸い込まれる。

「『ウソだろ!』みたいな感じでした(笑) でも、みんな信じていたからああいうゴールが生まれたと思いますし、最後までチーム全員が諦めないで戦い続けた結果かなと思います」と胸を張ったのは杉本。スタンドのざわめきもなかなか収まらない。2-1。「僕だけじゃなくて、クラブの関係者の皆さんもホッとしているとは思うんですけどね」と笑ったのは世登監督。開幕戦をドラマチックに制して、2019年のジュビロは好発進を飾った。

 背負った“21”の数字には、ある2人の姿を自身へ重ねている。1人は2つ上の先輩。「自分が1年の時に、3年生のキーパーだった牧野恋音くん(現・産業能率大)がプレミア参入戦でPKを2本止めて勝ったんですけど、身長も似ていて、やっぱりああいう光景を見た時に、自分がなるべき姿というか、『ああやってチームを救えるようになりたいな』って感じたんです」。

 もう1人はトップチームの守護神。「高2の時も背番号21を着けていたんですけど、やっぱりトップのスタメンは21番のカミンスキー選手じゃないですか。だから、『オレも21番でスタメンを狙う』という自分の意気込みを籠めたんです」。2種登録されている杉本は、トップの練習に参加して再確認したことがあった。

「1つのキャッチにしても、1本のパスにしても全部が正確で、トップのキーパーコーチの大神(友明)さんには、『足元の技術も大事だけど、やっぱりキーパーという職業は“セーブ”でチームを救えるようになって欲しい』と言われましたし、『トップチームの選手があんなに意識してやっているんだったら、自分はもっとそういう意識でやらないと、トップには絶対に近付けないな』と。それから練習のキャッチの1本目や、試合のファーストプレーを凄く意識していて、ノーミスは無理ですけど、ノーミスに近付けるように、練習から意識してやっています」。ゴールキーパーの原点を改めて教えてくれたプロの世界は今や、以前よりずっと身近な距離に広がっている。

 杉本に対して世登監督も確かな信頼を口にする。「今年は最上級生になったので、背格好はそんなに変わっていないですけど、ゴールに入った時のオーラというか、ゴールが去年に比べたら一回り僕らも小さく見えるぐらい、振る舞いとかも含めて堂々とキャプテンシーを発揮してくれているので、ありがたいですね。心強いキャプテンです」。そんな主将はチームメイトにある“お土産”を誓っていた。

「寮の同部屋が今はケガしている三木(直土)なんですよ。2人でいる時間が長いですし、いなくなったら寂しいじゃないですけど、オレにとっては必要な存在で、やっぱり試合中にアイツがピッチにいたり、寮生活で隣にいたりすると、なんか落ち着いたりして楽しいですし、サッカーでも『アイツがなんかやってくれる』という信頼は強いんです。一番苦しいのはアイツだと思うので、勝利をお土産にできて良かったなと思います。」

 サッカー王国で過ごす3年目は、自身のこれからを考える上でも、杉本にとっておそらく今までで最も大事な1年になることに疑いの余地はない。かつての後悔をエネルギーに変え、前へ前へと地道に歩み続けてきた彼は、こう言って表情を引き締める。「試合の中でスーパープレーって絶対に必要で、みんなもあんなに走ったり体を張ったりして、自分も何回も助けられているので、いつも『次は自分が絶対に助けてやろう!』と思っていて、自分がスーパープレーをしたら、みんなも『ああ、コイツもこれだけやっているから、自分ももっとやらなきゃ』ってなるかなと思うんですよね」。

 そう言い終わり、少しだけ笑った顔はあどけない17歳。それでも数か月後には、未来の自分を左右するような夏の陽射しが待っている。サックスブルーの一番うしろ。杉本光希にとって勝負を懸けた3年の最後の1年間は、勝ち点3と共に幕を開けた。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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