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優勝、MVP、最多得点の3冠。ブラサカ女子日本代表の17歳、菊島が見せた「大人の駆け引き」

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試合後、仲間に胴上げされる菊島宙(写真:松本力)

[7.7 アクサブレイブカップ決勝 埼玉T.Wings 7-1 free bird mejirodai]

 クラブ日本一決定戦はお互いに初優勝をかけた一戦となったが、埼玉T.Wingsがfree bird mejirodaiを7-1で下した。決勝を迎えるまでに5試合で22ゴールあげていた17歳の女子日本代表、菊島宙が決勝でもチームの全7ゴールを奪い、チームを初の栄冠に導いた。

「優勝してさらに得点王、MVPの3冠を取れたのはうれしいです。他のチームのレベルの向上を感じます。少し前までは、私がすごく気持ちよく動けた時期もあって、その時はおそらく自分への特別な対策はなかったなって思いますけど、今は攻守に対策を打たれて(動きづらくなっていて、周りの人が)うまくなっていると感じます」

菊島(中央)は日本代表経験のある鳥居(右)のマンツーマンのマークも後半は振り切った(写真:松本力)

 菊島は、日本代表合宿に参加経験のあるGK泉健也やディフェンス陣との駆け引きで上回り、勝利を引き寄せた。2-1で迎えた後半10分、右サイドの主将、加藤健人から左サイドにいた菊島にパスが渡る。パスを受ける前から足を止めずに動いていた菊島はボールを足元におさめると左フェンス際に縦に走って、2人のディフェンスを追走させて切り返す。その後、ぴたっとボールを止めるとボールの中の鈴の音がならなくなり、相手の守備陣の足も一瞬止まる。すると、菊島とゴールを結ぶ直線に、シュートコースがきれいに空いた。すかさず右足でトゥーキック。シュートを止めようとして構えたGK泉の股の下をボールがくぐりぬけた。菊島が振り返る。

「泉さんと以前に対戦した時も、股の下でギリギリ入りました。そこに弱点があるのかなと思っていました。高いシュートやインステップのシュートは大体、止められてしまう。だからあの場面は下を狙ったんです」

 チームの監督をつとめる父・充さんが解説を加える。

「ゴールの前でうろうろさせるのは普段はやらせないんですが、今回は秘策の一つでした。宙と泉選手は合宿などで一緒に練習したこともあるので、よく知られている。それでもどうしたらゴールを奪えるかを考えたとき、彼に指示を出させない方法を考えました。ブラインドサッカーのGKは、たとえばマークしている選手が左サイドで立ち止まっていれば「左にいるぞ」と指示を出せますが、常に左に右に動いている選手を見ると、守備陣に『どこにいるぞ』という指示を出せなくなる。そこを利用して、宙は常にフラフラさせました」

(写真:松本力)

 相手のGKを幻惑し、相手に守備陣にピッタリマークさせないために、菊島は足を止めなかった。ただ、頭ではわかっていてもそれを試合を通してやり続けるのは至難の業。菊島はそれをやり切る覚悟を決め、体重が簡単に増えないように好物の肉を食べることを極力控えていた。6月下旬、所沢で室内での練習を終えた後、飲食店で夕食をとったときも監督の充さんが肉野菜定食を食べる隣で、菊島は迷った挙句、つけ麺だけで済ませた。普段はアニメのアラレちゃんを見ることが大好きなどこにでもいる高校生も、日本一がかかる決戦を前に、アスリートとして譲れない矜持をのぞかせた。菊島が言う。
 
「優勝したので、来年以降もこの座を守り抜きたい。自信ですか? あまりないですね。へへへ」

 そう笑った菊島には世界の舞台での活躍が期待される。国際視覚障がい者スポーツ連盟は、早ければ来年2020年に5~6チームを集めての国際大会の開催を検討しており、これが実現すれば第1回ワールドカップになる。そこで世界一をめざすことが菊島にとって、胸に秘めた目標だ。世界を本気で目指す戦いを前に、少なくともここ数日は、菊島が大好きな焼き肉に舌鼓を打っても、きっと誰も怒らないだろう。

(取材・文 林健太郎)

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