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日本代表戦視察の橋本五輪担当大臣が明かす「ブラインドサッカーに秘められた力」

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スタンドから見守った橋本聖子・五輪担当相。右が北澤豪・日本障がい者サッカー連盟会長

【11.4 復興ありがとうホストタウン・ドリームマッチ ブラインドサッカー日本代表 0-1 アルゼンチン代表】(4日、福島・Jヴィレッジ)

 背中が近いようで遠かった。対戦を重ねるたびに日本の内容はよくなっていっても、世界1位は絶対に勝たせてくれない。勝負所でエースが決めるか、決められないか。アルゼンチンの世界的エースのマキシこと、マキシリアーノ・エスピニージョは決め、川村怜は決められなかった。負傷の黒田智成、母国・ブラジルで武者修行中の佐々木ロベルト泉を欠き、ベストメンバーではなく、準備期間も限られていても、主将の川村は言い訳をしなかった。

「どれだけいい戦いをしても負けは負け。攻撃の厚みに差がありました。過去の対戦よりシュートの数は多かったと思いますけど、マキシがいることによって重心が下がったというわけではないんですが、リスクを負いきれなかった」

 来年8月のパラリンピック本番に向け、ポジションひとつをとっても本番モードに入ってきた。トップの位置に入ることが多かった川村はこの日、1列下がって2列目の位置に下がった。10月のアジア選手権準決勝、中国戦でも採用されたこの布陣は、日本より格上の相手にはこの布陣になることが多くなりそうだ。高田敏志監督が明かす。

「ブラジル、アルゼンチン、中国といった圧倒的に個の力が違う相手との差をどう埋めるか、を考えたときに、相手の長所を消し、相手が一番攻めてくるルート、方向をまず自分たちが制圧する。それには怜(川村)はあのポジションかな、と。守備からリズムを作らないとコテンパにやられますから」

 ピンチになりそうなパスをカットし、攻撃につなげる。走力は世界屈指のレベルにある川村だからこそ、守備に走り、そこから攻撃に切り替え、シュートも放った。そのことによって相手のエース、マキシにも力を出させなかった。いつもより運動量が増えたのに、ベンチに下がることなく、ずっとピッチに立ち続けたため、後半途中から、川村の呼吸は明らかに荒くなっていた。

「守備の時間、相手とコンタクトする時間が多い。そこで筋量を使って消耗します。無酸素的な動きがある中で、もう一度ダッシュしてシュートするようなイメージ。より高いレベルのところのチャレンジになりますけど、僕自身、そういう(タフさで勝負する)プレーヤーだと思っています」(川村)

 前に向く時間やスペースが多くなった分、ドリブルで突破する場面も増えた。この日は意図的にシュートを打つ位置を遠目にしていたが、ゴールの確率をあげるには、突破するところ、シュートを打ちに行くところの判断の精度もあげる必要がある。

 敗れはしたが、会場となったJヴィレッジがある福島出身の加藤健人が球際の競り合いで互角以上の戦いを演じ、寺西一や16歳の園部優月、日本代表復帰をめざす日向賢など、レギュラーを目指す選手の出場時間も増える収穫もあった。東日本大震災の被災地、福島で行われたこの試合を視察した橋本聖子・五輪担当大臣はこう明かした。

「(被災して)ものすごくつらい思いをしてきたことによって、いろいろな夢を実現できないのではないかと戸惑っている子供たちもいらっしゃるんじゃないかと思います。それを乗り越えるために、しっかりとした自分づくりをしていくことが必要ですが、(ブラインドサッカーの体験会などを通して)もっと自分の中にやれることがあるんじゃないか、と気づいてくれる一瞬があったのではないかと思う。体験を通じて、自らを切り開いていく力に変えていくことができたらありがたいと思います(福島が復興の途上にある現実を見て)まだまだ五輪、パラリンピックどころではない、というご意見もいただいています。そのことを『やってよかった』と思えるように変えていくために、それぞれの課題に取り組んでいきたい」

 日本代表の選手がブラインドサッカーを通じて人々の希望をともすことを目指すのであれば、世界13位からメダルをとる、という快進撃が一番わかりやすい。その前哨戦となる12月8日のモロッコ戦、来年3月のワールドグランプリでのぞむ結果を出すためには、勝つことによって社会も動かしたいという使命感を持ち続けることが求められる。


(取材・文 林健太郎)

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