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五輪のために8㎏減。スーダン出身の41歳、アブディンがブラインドサッカー日本代表入りを諦めない理由

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PK練習でシュートを放ったアブディンはゴールを決めた

 8月25日開幕の東京五輪パラリンピックに初出場でメダル獲得を目指すブラインドサッカー日本代表が26日、千葉市内で行われた代表合宿を打ち上げた。パラリンピック本番で出場する8か国中6カ国が出場する「Santen IBSA ブラインドサッカーワールドグランプリ 2020」(3月16-21日、品川区天王洲公園、以下WGP)のメンバー発表後、初めての強化合宿。プレパラリンピックと位置付けられるWGPでメンバー入りを目指すアブディンモハメドはプレーに執念が込められていた。

 この日の午後は代表チームを2つに分けての紅白戦を3本。最後の試合の終了間際、アブディンは左CKを起点に、中に切れ込んだ瞬間に強引に右足を振った。強烈なミドルシュートはGK高橋太郎の鋭い反応に阻まれ、ゴールはならず、合宿を通してゴールは奪えなかった。でも日本代表の他の選手だったらほぼ打つことが出来ない遠目の位置からの強引なシュートこそ、アブディンの持ち味だった。

「僕の得意なシュートのひとつ。今までずっと右サイドをやるように言われていたんだけど、今日初めて『左(サイド)をやらせてほしい』と懇願したんだ。入らなかったけど、あのシュートをいてるようになったことはよかった。今まではお腹の肉がじゃまして体が回転できずに打てなかった。今日、打てるようになったことでかすかな光が見えた。僕は点をとることを求められているから、冷静に考えて今のままではメンバーに入れないし、可能性は少ないことはわかっている。でも自分でやると決めているから、自分からやめるつもりはないね」

 スーダンで生まれたが、12歳の時に視力を失い、1998年1月、19歳の時に鍼灸を学ぶ目的で来日。その後、スーダンではなかなか学べない国際平和を学ぶために東京外語大に入学し、日本でブラインドサッカーをはじめた。当時所属した東京都内に拠点を置くたまハッサーズで日本人離れしたシュートの迫力で、日本選手権3度の優勝にも貢献した。現在は茨城県つくば市に拠点を移し、2017年から学習院大で国際政治などを教える特別客員教授の肩書を持つ。仕事で海外に行くこともあり、多忙を極めるが、日本代表の高田敏志監督は、シュートの迫力や日本人選手には真似できないシュートレンジを取り戻すことができれば、出場時間は短くても五輪本番で貴重なインパクトプレーヤーとして戦力になると考え、2018年秋、その2年前に帰化したばかりのアブディンをこう説得したという。

「(選ばれる)可能性は低いかもしれない。でも昔の動きの半分でもできれば可能性はある。そこに賭ける気持ちありますか? もし(代表候補に)選んでおいて、最終的にメンバーに入らなかったら、『その間の2年間、遊んでいたほうがよかった』と思うかもしれないし、監督である私を恨むかもしれない。でも自分が人生の中で国籍をかえて、このタイミングでたまたま東京でパラリンピックがあるという巡り合わせも考えると、日本代表でやる意義はオレはあると思う。アスリートとしてそこに賭ける気持ちがあれば、一緒にやってほしい」

 パラリンピックに選ばれる日本代表は10人。うちGKは2人いるため、アブディンらフィールドプレーヤー(FP)は8人だ。主将の川村怜を筆頭に、黒田智成、佐々木ロベルト泉、田中章仁が主力で、ユーティリティプレーヤーの輝きが戻ってきた加藤健人、昨年、国際大会で5ゴールをあげた佐々木康裕、守備の職人として経験を積んだ寺西一がサブに入ることが有力。残り1枠を、成長著しい16歳の園部優月と競わないといけない。家族と相談してチャレンジを決め、今年42歳になるアブディンが、それでも『東京五輪に出たい』と願う深い理由がある。

「2015年に交通事故にあった後、僕のひざにはいろんなものが入っています。最初の3カ月は車椅子でしたし、最初は歩くことすら満足にできなかった。そこからサッカーを少しづつやれるようになって、東京で行われるパラリンピックでこれまでやってきたことを出し切るチャンスだなと思ったし、その姿を子供たちにも見せたいなと思ったんです。ロベルト(佐々木)や怜くん(川村)も『アブディン、頑張れば元の姿に戻りますよ』と言ってくれるし、トレーナーの人を含めてみんなが支えてくれています。(自分が代表になって)日本代表には出自が違う人が複数いることも示して『日本は多様性に富んだ国になった』ということも感じてもらいたいんです」
 
9歳、7歳の娘さんと5歳の息子さんに、自分が日本代表に選ばれて君が代を歌う姿を見せたい。そんな思いを抱きながら、仕事の合間にトレーニングを積んできた。学習院大の研究室でひとり腕立て伏せをして、論文を書く合間にトイレに行ったら、スクワットをしてから戻ってきたりする。夜遅くに食事をとることをやめ、そのかわり、近くに住む佐々木ロベルト泉と一緒にフットサルコートを借りて、トレーニングを積み、アドバイスも受けてきた。愚直で、地道な努力の甲斐あって、日本代表の強化指定選手に選ばれたこの1年ほどで8㎏のダイエットに成功した。

「体重を落とせば落とすほど、膝への負担がかかるから状態はよくなる。これまで仕事する時間とか、子供たちと遊ぶ時間とかを全部犠牲にしてきているからね。今の状態ではまだまだだけど、これまで選ばなかったことを後悔してもらうぐらい、もっとパフォーマンスをあげたいですね」

 日本を救うスーパーサブになって、メダルを獲る。愛する奥さんと子供にとってヒーローになることが、きっと日本の社会を変えることにもつながると信じている。


2018年、日本代表の強化指定選手にに選ばれる前のアブディン

【Santen IBSAブラインドサッカーワールドグランプリ2020大会概要】
▼出場国:8カ国
(グループA) 
アルゼンチン①、中国③、日本⑬、ドイツ⑳
(グループB) 
ブラジル②、スペイン⑤、フランス⑪、タイ⑮
※丸数字は世界ランキング

▼スケジュール
▶3月16日
11:00(B)ブラジル―スペイン
13:30(B)フランス―タイ
16:45(A)アルゼンチン―中国
19:15(A)日本―ドイツ
▶3月17日
11:00(B)スペイン―タイ
13:30(A)フランス―ブラジル
16:45(A)中国―ドイツ
19:15(A)日本―アルゼンチン
▶3月18日
11:00(B)タイ―ブラジル
13:30(B)スペイン―フランス
16:45(A)ドイツ―アルゼンチン
19:15(A)中国―日本

▶3月19日予備日 

▶3月20日
10:00下位トーナメント
12:30準決勝①
15:30下位トーナメント
18:00準決勝
▶3月21日10:00 7位決定戦
12:30 5位決定戦
15:30 3位決定戦
18:00 決 勝

▼チケット販売
1月23日より一般販売開始
チケット購入サイトはこちらから

▼2020年度 日本代表強化指定選手
GK佐藤大介(たまハッサーズ)
GK高橋太郎(ラッキーストライカーズ福岡)
GK佐々木智昭(コルジャ仙台ブラインドサッカークラブ)
GK泉健也(free bird mejirodai)
FP川村怜(パペレシアル品川)
FP黒田智成(たまハッサーズ)
FP田中章仁(たまハッサーズ)
FP日向賢(たまハッサーズ)
FP加藤健人(埼玉T.Wings)
FP佐々木ロベルト泉(パペレシアル品川)
FP寺西一(パペレシアル品川)
FP佐々木康裕(ファンタス千葉SSC松戸ウォーリアーズ)
FPアブディンモハメド(Avanzareつくば)
FP丹羽海斗(free bird mejirodai)
FP園部優月(free bird mejirodai)

(取材・文 林健太郎)

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