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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:発表会(東京ヴェルディユース)

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東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 それは試合が終わって1時間近くも続いていただろうか。「毎年ユースは終わった後の写真撮影が長いんですよ。親たちもたぶん最後だからという気持ちがあって、結構時間が掛かりましたね(笑)」。笑いながらその時間を振り返るのは松橋優安。チームメートにも、コーチングスタッフにも、保護者の方々にも、サポーターにも、笑顔の花が咲き誇る。「最後に自分たちのサッカーができたので、そういう意味では本当に良い発表会で終わったのかなという気がします」。藤田譲瑠チマの言葉を思い出す。いったんのお別れ。ランドでの“発表会”は彼らにとって、新たな道へと歩み出すための“卒業式”でもあった。

 12月8日。ヴェルディグラウンド、通称“ランド”には少なくない人が集まっていた。高円宮杯プリンスリーグ関東第18節。既にプレミアリーグプレーオフ進出を逃していたため、東京ヴェルディユースは桐生一高と対峙するこの一戦が、シーズンの最終戦。ジュニアやジュニアユースから長い時間を共有してきた彼らが、ヴェルディアカデミーの選手として試合に臨むのは、この日が最後になる。

 馬場晴也は茨城からランドへ向かっていた。秋口に膝を負傷し、リハビリのために入院していたが、「最後の日だけはどうしても行きたくて」早朝に起床し、茨城の病院から東京へと駆け付ける。「緊張とかはなかったです。みんな一緒に6年間やってきたヤツらに、まあ三枝(新汰)は3年間ですけど(笑)、今までで一番良い試合をして欲しいなと思っていました」。

 松橋優安は感謝の念を噛み締めていた。馬場同様に負傷離脱の時期が長く続いており、この日も「ケガ的にも結構厳しい、出れるかわからないような状況」だったが、トレーナーの献身的なサポートもあって、何とかベンチ入りを果たす。「ケガが多くて、全然試合に出れなくて、10番を背負っているのに本当に悔しかった」1年の締め括り。辛い時期に励ましてくれたチームメイトやスタッフ、家族のために、少しでもプレーする姿を見せられるよう、身体と心を丁寧に整える。

 スタメンに8人。ベンチに4人。応援に2人。会場に来ることは叶わず、自らのユニフォームに想いを託した小林優斗。15人の3年生にとってのラストゲームは、13時ジャストにキックオフされた。

 いつも通りきっちりとボールを動かしていくチームの中で、センターバックのポジションに一際大きな“45番”を見つける。「今日は後ろでしたけど、前回は真ん中だったし、その前は右のサイドバックだったし、空いている所や足りていない所をやっている感じです。助っ人なので(笑)」と笑わせるのは山本理仁。同級生より一足先に昇格を果たし、ルーキーイヤーからJ2でも22試合に出場。ユースを率いていた永井秀樹がトップチームの監督に就任した7月以降、主力としてプロのピッチで躍動した17歳は、リーグ戦の終わったタイミングでユースに合流していた。

「ずっと『帰ってこいよ』みたいな感じでは言っていたんです。で、残り3節になった横浜FC(ユース)戦の前日に理仁が来るって決まって、そこからは全部出たんですけど、やっぱりやりやすかったなって思います」とはセンターバックでコンビを組んだ藤田。山本自身も「何年も一緒にやってきたヤツらなので、だいたい誰がどういうプレーをしたいかとか、そういうのもわかり切っている中でやれるのは、またトップとは違うし、素直に楽しいですよね」と高校生らしい笑顔を覗かせる。

 試合は前半25分に動く。チームで積み上げてきたビルドアップを起点に、右サイドでボールを受けた石浦大雅が相手を浮き球でかわす“シャペウ”を披露。中央への折り返しをきっちり収めた2年生の家坂葉光は、右スミのゴールネットへ豪快にグサリ。先制弾にランドの一角で緑の歓喜が弾ける。

 31分にも決定的なチャンス。遠藤海斗が鋭いアーリークロスを送り届け、飛び込んだ山下柊飛のボレーはGKの正面を突いたが、スムーズなサイドアタックで惜しいシーンを創り出す。山下も遠藤もレギュラーを張り続けてきたメインキャスト。左サイドバックのクロスに、右サイドバックがシュートで応えるあたりに、このチームが築いてきた圧倒的な攻撃性が垣間見える。

 追加点は3年生が奪う。42分。石浦が縦にスイッチを入れ、1年生の根本鼓太郎、家坂と回ったボールを、左利きの遠藤は右足でシュート。GKの弾いたボールにいち早く反応した天満恭平が確実にゴールネットを揺らす。“フリーマン”の位置で戦術的なカギを握り続けてきた7番は、そのまま仲間の元へ一目散。ベンチ外だった馬場と小原諒万もしっかりと歓喜の輪に加わった。

 天満のゴールを誰よりも喜びつつ、複雑な気持ちを覚えていたのは石浦だった。「オレらの代では2人が最初にヴェルディに入って、10年間一緒にやってきたので、2人で一緒にトップに上がれれば一番良かったんですけど、そんなうまくはいかなくて、“天ちゃん”と離れるのはかなり悲しかったです」。2-0とリードして前半が終わる。残された時間は45分。みんなと一緒にプレーできるのも、あと45分。

 後半2分。次のゴールも3年生が記録する。遠藤の完璧なサイドチェンジから、右の“ワイドストライカー”に入った三枝新汰が抜け出すと、そのままGKの股下を破る完璧なフィニッシュ。馬場の言葉を引用したように、三枝は中学までヴェルディの準支部に当たるFCヴァーデュア三島でプレーしていたため、3年生の中で唯一ユースからの加入。右サイドを主戦場に緑の血をたぎらせてきた男の今シーズン公式戦初ゴールが飛び出し、点差は3点に広がった。

 5分。チームを牽引してきたレフティが魅せる。左サイドで獲得したFK。遠藤のキックが中央でこぼれ、石浦のシュートはDFにブロックされたものの、すぐさまボールを拾った石川拓磨は左足一閃。綺麗な軌道が左スミのゴールネットへ吸い込まれていく。「特にこのユースでの3年間はサッカーだけじゃなくて、キャプテンもやらせてもらって、人としても大きく成長できたと思っています」と言い切るリーダーのゴラッソ。ピッチもスタンドも大いに盛り上がる。

 アップエリアでこのゴールを見つめていた松橋は、石川への想いをこう語る。「拓磨がキャプテンじゃなかったら、たぶん僕らはまとまっていなかったし、常にチームが一番良い方向に行くために働いてくれていたので、あのゴールは自分が点を取った時のように嬉しかったです。最後に持ってましたね(笑)」。

 17分に負傷明けの坂巻日向が投入されると、天満のパスを受けていきなり惜しいシュート。9番を背負ったストライカーはゴールへの高い意欲を前面に打ち出していく。28分には松井陽斗もピッチへ登場。2番を付けた右の“ワイドストライカー”は、縦への意欲を隠さない。ただ、一方的に押し込む展開の中で5点目が遠い。

「ヴェルディはあまり大差で勝つ試合がないイメージなので、そういう所がまだまだウチのアカデミー全体としての課題なのかなと。毎試合、毎試合、課題ばっかりで嫌になりますけど(笑)」(山本)「みんながシュートラッシュになっている中で、外したりしているのを見て、『ああ、やっぱり自分たちらしいな』って(笑)」(藤田)。

 42分。タッチラインの外側にGKの佐藤篤輝と並び、松橋が姿を現す。ようやくその時を迎えた10番は、やはりチームメートへの感謝を抑え切れなかった。「試合前に中後さんが『勝っていたら優安は出れるぞ』と言ってくれていて、その中であんなにも自分たちのサッカーをして、自分のために点を取ってくれて、最後の数分でも試合に出させてくれたのは本当に感謝しかないです」。

 松橋の投入も含めて、この90分間にはトップチームへ移った永井と保坂信之コーチの後を引き継ぎ、ユースの指揮を任された中後雅喜コーチの人間性がよく現れていたように思う。「優安の試合に出たいという気持ちも強かったですけど、トップ昇格を控えていて、やっぱり強度が高い中で長い時間プレーさせるのは避けないといけないと。その中で『彼と一緒にやれるのはそういう状況だよ』とは伝えて、その通りに自分たちでその舞台を整えたので、素晴らしかったなと思います。最後はもう彼らに任せると決めていて、普通にやってくれれば結果は付いてくるという信頼もあったし、あの状況で最高のメンバーだったと自分自身では思っているので、特別なことはないですけどね。優しさとかではないですよ(笑)」。ゴールマウスに付いた佐藤も含め、これでこの日のメンバーに入った3年生は全員がピッチに立った。

 少しずつ、少しずつ、終わりの瞬間が近付いてくる。「点を取ろうというのも意識したんですけど、あのメンバーでできるのは本当に最後だったので、やっぱり一番は純粋にサッカーを楽しもうと思ってピッチに立ちました。結構疲れたんですけど、それ以上に楽しさがあって、みんなとサッカーできて最高でした」(松橋)「全員がピッチに揃うことはなかったけど、自分は長い人で6年間一緒にやっていたので、そういう人たちとのプレーは本当に楽しかったです」(藤田)「“大学に行く組”が点を決めてくれて、内容も結果も良かったので、マジで嬉しかったです」(石浦)「永井さんと保坂さんも今日は見にきていて、理仁も戻ってきて、本当に良いサッカーを見せられたかなと思っています」(石川)。タイムアップの笛がランドのよく冷えた空気を切り裂く。こうしてヴェルディユースの最終戦は、勝利という形でフィナーレを迎えることとなった。

 それは試合が終わって1時間近くも続いていただろうか。「毎年ユースは終わった後の写真撮影が長いんですよ。親たちもたぶん最後だからという気持ちがあって、結構時間が掛かりましたね(笑)」。笑いながらその時間を振り返るのは松橋。チームメイトにも、コーチングスタッフにも、保護者の方々にも、サポーターにも、笑顔の花が咲き誇る。みんなその場を去りたくない。「本当にこの仲間が大好きで、サッカーをやっていても毎日楽しかったので、淋しい想いはあります」。石川が全員の心情を代弁する。最後の写真撮影はいつまでも、いつまでも、終わる気配がなかった。

「試合に出ていなかったからかわからないですけど、『これで終わりなのか』という実感はなかったですね」と話す馬場はチーム屈指のムードメーカー。試合後もチームメートからは彼へ言及する言葉が相次いだ。「馬場はサポートの所だったり、チームを盛り上げる所で、アイツらしい味を出しながら今日1日やっていましたよ」(山本)「馬場がなんかバカやって、それをみんなで笑ったりしているというか、本当に仲の良い学年だったのかなって思います」(藤田)「ケガで出れないのは本当にツラかったと思うんですけど、チームをいつも盛り上げてくれて、笑わせてくれるキャラなので、最後もそういう人間性が現れたのかなと思います」(松橋)。

 馬場は入院先から参戦した理由をこう説明する。「みんなを盛り上げたい気持ちもあったんですけど、『オレのことも覚えておいてくれよ』と。『オレも戦ってたぞ』ということをちょっと思い出して欲しかったんですよね」。そんな仲間の想いも背負って、この春からはプロサッカー選手としての人生を歩み出す。「ユースは毎日の練習が楽しみ過ぎて、学校も『早く終わんねえかな』って思っていて、本当に安心するというか、何なら家族というか、それぐらいの場所でした。特にこれから大学に行くヤツらには『オレも活躍しているんだから、オマエらも大学で活躍して、早く戻って来いよ』という気持ちをプレーで表現できればいいなと思います」。

 大学へと進学する石川へ、プロへと進む仲間への想いを尋ねると、穏やかな笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。「もちろん頑張って欲しいですけど、自分は大学に行って、彼らの活躍を見て刺激を受けると思うので、4年後に自分がアイツらよりももっと上手くなって、ヴェルディでプレーしたり、J1のチームで対戦できたらいいなと思います。対戦することになったら、もちろん勝ちたいですね」。目指すべき基準はハッキリしている。4年後。彼が選ぶのは古巣の緑か、はたまた他の色か。楽しみは尽きない。

 1人だけトップチームのロッカーから着替えて出てきた“45番”は、両手にいっぱいの荷物を持っていた。「いったん片付けなきゃいけなくて」と笑う姿は、やはり高校生そのものだ。「今年の1年は全員が揃うことはなかなか難しかったと思うんですけど、今日は全員でランドでやる最後の試合だったので、今までで一番素晴らしいゲームをしたい気持ちはみんなにあったし、最後に優安もマッキー(坂巻)も試合に出て、素晴らしい内容と結果で勝てたのは本当に意味があると思います」。仲間への想いに付け加え、山本が最後にそっと教えてくれた。「昨日、僕、トップの方でトレーニングマッチに60分出てるんですよ。正直今日はメチャクチャキツかったです(笑)」。

 彼らの“ラストゲーム”を見届けに行ったのは、ある理由があった。夏のクラブユース選手権。チームが日本一を明確に目指していた大会直前のタイミングで、永井はトップチームの監督へ就任する。「『永井さんがトップに行くな』というのは薄々感じていたんですけど、『さすがにクラブユースは出るだろう』ってみんなで考えていました」と藤田が振り返った通り、チームに激震が走ったものの、選手たちは石川を中心に「良いサッカーをして、結果を出して、良い報告をできるように」と決意する。

 そんな状況の中、グループステージを戦う群馬の地で2人に聞いたフレーズが耳に残っていた。「これは自分たちが今まで創ってきたサッカーで勝つための“発表会”って感じですね。しっかり結果も残さないとみんなに響かないと思うので、内容よりも結果で勝負したいです」(石浦)「永井さんがずっと言っていたんですけど、この全国大会は自分たちのサッカーの“発表会”で、決勝まで行って、ちゃんと勝って、自分たちのサッカーが正しいことをみんなで証明したいと思います」(藤田)。

 西が丘で開催される準決勝から帰京し、永井の前で優勝カップを掲げることが最大の目標だったが、彼らは東京へと帰還する直前で“終演”を突き付けられる。準々決勝で結果的に優勝をさらう名古屋グランパスU-18に完敗。内容と結果両面で日本一を獲るという彼らの願いは実現を見なかった。だからこそ、あの夏の日に叶わなかった“発表会”の結末を、最後の試合で披露してくれるのではないかという期待を抱いて、この日のランドに足を向けたのだ。

 長かった写真撮影も終わり、90分間を見届けた永井に“発表会”のことを問うと、笑顔を交えながら語り出す。「試合前に『もう最後だし、今まで積み上げたものを全部出し切れ』って一言だけ声を掛けさせてもらったんですけど、『3年やればこのくらいはできるんだな』とは自分自身も凄く思いました。もちろんこっちも理想が高いから、イライラする時間はあったんですけど(笑)、最後としては凄く良い“発表会”を見させてもらいましたね」。

 藤田にも同じ質問を投げ掛ける。「この感じの出来の試合がずっとできていれば、結構良い所まで行っていたと思うし、それができないから難しいというのもあって、やっぱり惜しかったなとは思いますけど、最後に自分たちのサッカーができたので、そういう意味では本当に良い“発表会”で終わったのかなという気がします」。このスタイルで結果を出し切れなかった悔しさも滲ませつつ、手応えについても話してくれた。

“発表会”を知るキッカケになった石浦にも、やはり同じ質問をぶつける。「最後は良い“発表会”ができたのかな?」。少し間があり、「正直に言っていいですか?」と口にした彼は、まさに正直な言葉を吐き出した。

「『結局ランドで“発表”しても』という気持ちはあります。日本のできるだけ多くの考え方を変えるには、これが一番みんながやりたがるようなサッカーだって証明するには、やっぱり日本一という結果が大事だったと思うし、今までも良いサッカーをした日はあるけど、結果は残せていないので、自分たちはこれから永井さんの下、トップチームで良いサッカーをして、まずしっかりJ1に戻ることと、天皇杯を獲りに行くことでそれを証明したいと思うし、1個下とか2個下の子たちにはクラブユースやJユースで、自分たちのサッカーで結果を残して、多くの人を感動させて、このサッカーを証明して欲しいです」。

 石浦らしい、ヴェルディらしい、まっすぐな言葉が確かな熱を帯びる。優しい藤田も実際はそう思っていたに違いない。きっと緑の血を知ってしまった者は、このような本音を少なからず抱えて、サッカーの世界で生きていくことになるのだろう。あるいはプロで、あるいは大学で、あるいは別のステージで。自らの未来を彼らは彼らのやり方で切り拓いていく必要がある。決して簡単なことではないが、それは彼らに課された使命とも言い換えられよう。

 ヴェルディアカデミーを卒業する15人の3年生のこれからを想う。彼らが見せてくれる“発表会”の最終公演は、まだまだずっと先のことになりそうだ。



■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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