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【THIS IS MY CLUB】選手権制覇、苦いデビュー戦…鹿島で奮闘するMF松村優太「僕たちはまだ種の段階」

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鹿島アントラーズMF松村優太

 鹿島アントラーズのMF松村優太にとって、2020年の上半期は誰よりも濃密なものだった。年明けには静岡学園高の10番として全国高校選手権の頂点に立ち、すぐさま常勝軍団・鹿島のキャンプに合流。2月下旬にはルヴァンカップでプロ初出場を果たし、Jデビュー戦で一発退場という苦くも得がたい経験をした。

 そして、新型コロナウイルスによる公式戦の中断——。待ちに待った4か月ぶりのシーズン再開を前に、感覚と理性を併せ持つ19歳は何を思うのか。「DAZN Jリーグ推進委員会」の共同企画「THIS IS MY CLUB -FOR RESTART WITH LOVE-」に向けて、現在の心境を語ってもらった。

——昨年度の全国高校選手権では大きな注目を浴びました。あれからの半年間はどうでしたか?
 まずは選手権で高校サッカーを良い形で終えることができて、プロデビューも早いうちにできました。デビュー戦ではああいう退場もありましたが、そこから新型コロナウイルスの影響で公式戦がずっと中断して、やっと再開するということで、1年目にしてはすごくいろいろな経験ができているんじゃないかと思っています。

高校選手権で頂点に立った

——選手権はすごく大きな注目が集まる大会です。あの反響を経て、鹿島に入った時はどんな変化がありましたか?
 大会前から「鹿島アントラーズ内定」ということで多少なりとも注目は感じていましたが、そこで優勝という形で終わることができて、より注目度は上がったと思います。大会前は同期の染野(唯月/尚志高出身)、荒木(遼太郎/東福岡高出身)のほうが知名度は高かったので、選手権で僕もそれなりに注目されたと思います。ただ、大会前も大会後もプロに行くことが間近にあったので、大会を良い形で終えることを第一に考えつつも、プロに行くにあたってのビジョンは明確に持っていました。大会後はキャンプに行ったんですが、切り替えてすんなり入れたと思っています。

——キャンプへの切り替えは時間がなく、大変じゃなかったですか?
 選手権で優勝した日や翌日は、いろんなところを訪問したり、テレビの出演もあったりと、なかなか経験できないようなことをしました。みんなで過ごして、とても楽しい時間でもありました。ただ、もちろん優勝に浸ったりもしましたが、次の日からはキャンプだったので、自覚を持ってやらないといけないとつくづく思っていました。18歳でも一人の社会人といいますか、プロサッカー選手は給料も発生するので、切り替えが難しい部分もありつつも、自分としては早めに切り替えられたと思います。

——さきほど言っていたように今年は高体連から同期3人が入団しました。2人とも知名度のある選手ですが、そこにプレッシャーは感じましたか?
 一昨年の選手権で染野がすごく注目されましたし、荒木は世代別代表の世界予選で戦っていたので、すごい選手たちに割って入るためには自分自身もっとやっていかないといけないなとはずっと思っていました。そこに割って入っていく過程では、選手権大会というのが一つの大きなターニングポイントになったと思います。優勝して注目度も上がりましたし、自分はそれまで全国大会に出てもいなかったので、その2人と切磋琢磨していく上でも自分の名を知ってもらう良い大会になったと思います。

優勝にゆっくり浸る間もなく、鹿島に合流した

——その後、鹿島でプレシーズンに入りましたが、先に荒木選手が得点などでアピールしていましたよね。ライバル意識はありましたか?
 選手権で痛めていた箇所もあったので、キャンプの最初は練習に出られず、その中で荒木が練習試合で点を決めていました。ユースから昇格した山田(大樹)も含めて同期4人は仲間ですが、全員が一緒に試合に出られるとは思っていないし、誰か一人が今年からバンバン出て、代表クラスになることもあり得る選手たちだと思っています。染野も、荒木も、山田も、切磋琢磨しながらもライバル意識は持っていかないといけないなと思っています。

——注目の高卒4人が加入したことで、黄金世代(小笠原満男、本山雅志、中田浩二、曽ヶ端準ら1998年加入組)にたとえる声もあります。その点は周囲からも言われていますか?
ちらほらそういった声も聞こえてきてはいたんですが、まだまだそこには及んでいないですし、全然追いついてもいないし、そんなに簡単に追い越せる存在ではないと思っています。ただ、期待の声をどうするかは自分たち次第だと思っています。4人ともその世代だけを目標にしているわけではないんですが、そういった声をいただいているのであればそれ以上の期待をしてもらえるような存在にそれぞれなっていかないといけないと思います。

——鹿島はそうした先輩の伝統も含め、クラブ全体の雰囲気で選手を育てると言われることがあると思います。そのあたりはすでに実感していますか?
 昔から伝統のあるクラブなので重みはありますし、それは僕たちだけじゃなく先輩方も思っていると思います。先輩方が築いてくださったものを継承しつつ、それ以上のものを見せていかないといけないのが僕たち若手でもあります。先輩方の素晴らしい結果に少しでも近づいていけるよう、昨年はチームがノンタイトルだったので、今年こそタイトルを目指していかないといけないと思います。

——そんなクラブの中で、1年目の序盤戦でデビューできたことをどう捉えていますか?おそらく違うシナリオも想像していたとは思いますが。
 新型コロナウイルスの影響で中断期間に入りましたが、一回デビューして過ごすか、デビューせずに過ごすかは大きな差だったと思います。あの試合は負けている状態で入って、勝つために投入されたので、ああいう形になってしまって申し訳ないという気持ちはありますが、あそこで経験したことをしっかり自分の力にしていきたいと思います。あそこで経験したことを踏まえて4か月間の中断期間を過ごせたので、デビューできたことは大きかったと思います。

——高校選手権から松村選手を見ていて、ああいった積極性や気持ちの面も含めた推進力が強みだと感じました。それでも、デビュー戦ではいつもと違う高揚感や重圧があったと推測しています。少し時間が経ってみて、あの試合をどのように位置づけていますか?
 デビュー戦まではプロの試合に出たこともないわけですし、負けている状況でラスト10〜15分で出たということは、自分のプレースタイル的にもアグレッシブに行って得点に絡む、得点を取るということが求められていたと思います。負けたくない、やってやるというフレッシュさを出したい気持ちがありました。ただそこは諸刃の剣でもありました。その気持ちも大切だと思うんですが、少し空回りしてああいう形になってしまいました。これからは過密日程で必ずチャンスが来ると思いますが、次の出番では点を取りに行くという気持ちを忘れないようにしつつ、試合を分析して周りの状況も判断しながら、あそこで経験できたことを踏まえて次はしっかりプレーできるんじゃないかなと思っています。

退場後にはMF土居聖真に励まされながらピッチを去った

——松村選手のこれまでのインタビューを振り返ると、ロジカルな言葉を発するパーソナリティも印象的です。そのあたりで意識していることはありますか?
 自分は長男なんですが、もともとそういったメリハリは大事にしているほうです。もちろん、鹿島に来てからはいじられたり、一発芸をしたりするキャラクターにもなっているので、そういう一面もあります。中学とか高校のときも、みんなとワイワイしながら遊びに行ったりはしていました。ただ、ずっとそれだけじゃダメだという気持ちは自分の中にありました。たとえば簡単なことで言えば、学校生活で提出物を出さないことは全くなかったですし、そういうところは気になってしまうんです。遅れてでも必ず出すようにしていました。やるべきことはちゃんとやろうと思っていて、メリハリを大事にしようとしています。でも記者さんからも「意外にしっかりしているほうだよね」とは言われますね。

——スピード系の選手は「感覚系」という見られ方をしますが、そういったイメージとは少し違いますよね。
 もちろん感覚でプレーをすることはあります。ただ、感覚に加えて周りが見えたらもっと強いだろうと思っています。それは誰しもができることじゃないので、強みにしていけるんじゃないかと思います。

——先日ゲキサカのインタビューで、静岡学園高の後輩に松村選手の凄さについて語ってもらいました。その記事(https://web.gekisaka.jp/news/detail/?302756-302756-fl)はご存知ですか?
 読みました。加納と田邊と野知の記事ですよね。

——あの記事の中で、松村選手は自主練習をすごく長い時間やっていたというエピソードがありました。実際のところどうでしたか?
 やっていましたね。高校2年生くらいから代表にも初めて呼ばれて、意識のギアが一つ上がりました。もとから自主練はやってはいたんですが、そこで「プロになりたい」ではなく「プロになる」と決めたので、自分がいまやるべきことを理解しながら、監督やコーチに言われたことを頭に入れつついろいろとやっていました。もちろん毎日2〜3時間やっていたわけではなく、身体が疲れている時はさっと帰って整骨院や治療に行った時もありました。ただ、多くやる時には2時間くらいやっていたこともありましたので、そこもメリハリですね。

選手権準決勝では終了間際の決勝PKを沈める強心臓っぷりも見せた

——「やるべきことを理解しながら」ということですが、自主練習から課題や強みを踏まえてやっていたんですね。
 静学に入ったことで、スピードを保ちながらもドリブルがある程度できるようになってきていたので、そこからゴールにつなげられるようにと意識していました。シュートの精度やクロスの精度を上げていかないと、上ではプレーできないと思っていたので、そこはこっちでもやっているんですが、継続してやってきました。

——そうして一歩一歩、成長してきたことと思いますが、プロに入ってからさらに成長したという部分はありますか?
 動き出しとボールのもらい方ですかね。静学ではサイドに開いてボールをもらってしかけるとか、中でボールをもらってもしかけるとか、止まって受けることが多かったんです。だから最初はすごく戸惑っていたんですが、プロになってからは止まっていたらつぶされるので、周りを見ながら受けるか受けられないかが大事になると思います。そこは監督からも言われますし、周りの選手からも自分の特長が理解され始めているので、スピードを生かすための裏への抜け出しを前よりも意識できているんじゃないかと思っています。

——周りの先輩からも助言をもらっているんですね。
 僕は右サイドでやっているので、右サイドバックの選手、ボランチの選手にアドバイスをもらっています。抜け出しの部分では「お前は速いし、ヨーイドンでは絶対に負けないんだから、抜け出せば絶対に行ける」と言われました。

——鹿島の右サイドバックとボランチは内田篤人選手を筆頭に経験のある選手が多いですが、言葉に響くものはありますか?
 言葉に重みがありますし、すごく説得力があります。内田選手だったり、三竿(健斗)選手だったり、すごくいろんな経験をされている方々ばかりなので、いままでの自分になかったような経験でもありますし、積極的にコミュニケーションを取って吸収していけば自分自身の成長につながると考えています。

——プロで成功するために「やってやるぞ」という気持ちと「ここは通用するだろうか」という気持ちがあると思いますが、実際に練習に入ってみてどのように感じていますか?
 高校ではボールを取られない自信もあったので、そこは強みにしていきたいと思っていました。実際にプレシーズンマッチでも何回か突破ができたり、ルヴァン杯の名古屋戦でも退場の前のプレーは自分で抜いていくことができました。そこではタッチが大きくなってしまったんですが、そういった部分は自分の大きな強みであったので、通用したというかさらに通用させていくべきだと思います。ただ、まだまだ身体も小さいし、他の選手に比べたらか細い体型でもあるので、つぶされることも多いです。そこでも武器をしっかり出していかないと自分の良さがなくなってしまうと思うので、欲を出してやっていこうと思っています。

プレシーズンマッチでは切れ味鋭いドリブルを披露

——フィジカルの話で言えば、高校レベルでは体幹が強いという印象がありました。プロでは全然違いますか?
 昔から芯はしっかりしてるねとか、倒れないねとは言われますし、いまでも生きている部分はあると思います。ただ、いままで対戦したことがなかったブラジル人の選手であったり、体格が大きな選手、日本代表クラスの選手と対峙するとなると、向こうにも得意な間合いがあって、高校レベルの間合いだとボールを取られます。ずっと小学校、中学校、高校と周りと同じ段階で上がってきたのが、一気に18歳で周りが上のほうまで行ってしまったので、そこのギャップもあると思います。そこはもっともっと感じて掴んでいかないといけないと思います。

——ここからはクラブの話をしたいと思います。まず鹿島というクラブをどのように感じていますか?
 やはり伝統のある重みのあるクラブだと思いますし、常勝軍団と言われるように勝利にこだわるチームだと思います。そこは練習からすごく感じますし、お互いに厳しいことも言われたりします。練習からすごく激しく「やっぱりこういうチームなんだな」と想像どおりの感じでした。

——想像していたものと、想像を超えていた部分もあるかと思います。具体的にどういった厳しさを感じましたか?
 高校の時にやっていなかった練習も多いですし、たとえば僕はドリブラーなので取られた後の切り替えは強く言われます。キャンプの最初は遅れて行ったので、昨年の鹿島ですごく多くの試合に出ていた方々と合流して練習したんですが、全然レベルが違いました。「話が違う」というくらい何もできなかったので、いろんな人から「もっとやれよ」と言われました。高校でも常日頃から「練習から120%出せないと、試合で100%出せない」とは言われていたんですが、高校でやっていた120%がプロだと50%くらいだと感じますし、キャンプの一発目で強度のレベル差を感じました。

——時間が経つことで適応できましたか?
 隣にいる人がライバルだという意識でみんなやっているので、自分も一人の選手として、練習からその中に入っていかないといけないと思っています。まだ全然足りないですし、ダメな部分もありますし、まだまだ言われることもあります。ただ、ここ最近はそれなりにできることも増えたと思います。

——具体的にどのような指示をされていますか?
 僕の高校では守備を重点的にはやっていなかったので、まず一番大きいのは守備の部分です。僕もそうですし、他の高卒組も言われていました。あとは最後のシュートの場面ですね。キーパーのレベルも段違いで、最初はなかなか入らなかったんですが、他の人はバンバン決まるので、決定力という意味で「決め切れ!」と言われます。またすべてにおいて言えるのは、一つのプレーに責任を持つことですね。シュートの精度も、一本のパスも、クロスも、トラップも、軽いプレーをしたら全員が戻らないといけなくなってスタミナロスにつながるので、一つひとつのプレーに対して強く要求をされています。

1年目からチャンスをうかがう

——練習から高いレベルに挑んでいく難しさはあると思いますが、すぐに試合に出られそうなチームもある中、Jクラブで最も競争が激しいと言われる鹿島に入ったことで成長につながっているという手応えはありますか?
 なんと表現すればいいですかね。植物にたとえてみると、種の段階で植えて、最初から一気に花が咲くわけではないですよね。まずは茎が伸びてきて、葉っぱが生えてきて、最後に花が咲きます。僕は高校に入った時も、1年生チームでもすぐに試合に出ていたわけではないですし、もともと期待されて入ったわけではありません。高校で新しい環境で揉まれて、最後に3年生の集大成でようやく花を咲かせることができたと思っています。もちろん、最初から試合に出られるようなチームに行くこともやり方としてはあると思うんですが、そこで試合に出て活躍したから終わりではないと思っています。最後は海外でやりたいとか日本代表でやりたいというビジョンを持っていますが、まだ僕たちは種の段階なので、早い段階からトップレベルのチームでやることで、他の経験ある選手たちから言われたことを水や日光のようにどんどん吸収し、最後に花を咲かせられるようにしていきたいと思っています。

——いまの比喩はずっと考えていたことですか?
 いま思いつきました(笑)。

——とても明快で驚きました。今後のキャリアビジョンにも関わってくることだと思いますが、短期・中期・長期的な目線でどのように花を開かせていこうと考えていますか?
 こういった状況になったので、一年目から出番が回ってくると思いますし、まずは一つひとつの結果をしっかりと積み上げていくことが大事だと思っています。この1年目で経験したことを2年目、3年目をつなげていって、来年や再来年からは欲を出していかないといけないと思います。もちろん、今年も1年目とか19歳とか関係ないと思っているので、すぐにスタメンを狙っていく気持ちでいます。ただ、いまの自分の実力を考えた時に簡単な世界ではないので、まずは鹿島でしっかりと結果を出して、誰もが認めるような信頼のおける選手になりたいです。そうすることによって海外のクラブの目に留まったり、代表の目にも留まると思うので、ここ鹿島で得られるものをしっかりと得たいです。タイトルを獲ることもそうですし、自分自身の技術や実力を上げていって、まずは鹿島で結果を出すことが一番近い目標だと思います。そのあとは海外でやりたいという気持ちがありますが、まずは足元をしっかり見ています。そのことが結果的に海外でプレーすることにもつながっていくと思います。


——その先にさらなる目標はありますか?それとも一個一個のハードルを乗り越えていくタイプですか?
 どちらかというと一個一個クリアしていきたい派ですが、海外のことは事前に考えておかないといけないし、いきなり行ってもきちんとプレーできないと思います。その点に関しては考えてはいます。それでも僕は一つひとつステップアップしていきたいです。このクラブで試合に出て活躍することがまず難しいことですし、その勝負に勝ってから、海外に行っていずれはチャンピオンズリーグに出られるようなチームで活躍したいと思っています。

——つまり「まず鹿島で」という心持ちだと思いますが、鹿島はタイトルが求められるチームだと思います。今シーズン、タイトルを奪還するために松村選手ができることはなんだと思いますか?
 最後の選手権大会では優勝という形で終わって、タイトルの重みをすごく知りました。タイトルを取ることで、これまで関わってきたすごくいろんな人が喜んでくれましたし、タイトルというものは重みがあるものなんだなとあらためて感じました。鹿島というチームはタイトルを求められる場所だと思うので、僕のプレースタイル的には後半途中から入って流れを変えるとか、そういう場面も増えてくると思いますが、まずはそこでしっかり期待に応えることです。得点やアシストという自分のスピードを生かして活躍することが求められると思うので、まずは結果を残していくことがタイトルにつながりますし、それが何より自分のためにもなるんじゃないかと思っています。


(インタビュー・文 竹内達也)
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