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狛江は2度のリードを守り切れず。沈み掛けた堀越は延長後半AT弾で劇的逆転勝利!

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激闘を終えて堀越高狛江高、両チームが健闘を称え合う

[5.9 インターハイ東京都予選一次トーナメント1回戦 堀越高 3-2(延長) 狛江高]

 2度までも絶望の淵から這い上がり、信じられないような大逆転勝利を収めたチームに対して、佐藤実監督はかつてないような想いを抱いていた。「これだけもう追い込まれて、追い込まれて、追い込まれて、もう終わり、というシチュエーションの中で返せるって、今まで僕が携わってきた、僕が経験している堀越にはなかったですよね。こういう所でやっぱり勝ち残れるということは、チームとして少し成長してきているのかなという気がしています」。堀越は沈まず。9日、インターハイ東京都予選一次トーナメント1回戦、20年度選手権全国ベスト8の堀越高狛江高の一戦は、2度の絶望的なビハインドを跳ね返した堀越が、延長後半アディショナルタイムのラストプレーで決勝弾。次のラウンドへと勝ち上がった。

 立ち上がりからボールは堀越が圧倒的に握る。3-4-2-1の布陣を敷き、最終ラインのDF久保木舜稀(2年)、DF渡部美紗哉(3年)、DF宇田川侑潤(3年)から丁寧にビルドアップ。そこから右のMF古澤希竜(3年)、左のMF中村ルイジ(3年)のウイングバックが縦に仕掛けて、セットプレーを獲得。前半11分、15分、16分と立て続けにCKを得るなど、押し込む展開を作り出す。

 ただ、狛江もその流れは織り込み済み。「選手たちは良く準備してきていて、何とか我慢しながら、最後にどう点を獲れるのかという所でした」と長山拓郎監督が話したように、右SB柴崎春薫(3年)、キャプテンのCB伊木和也(3年)、CB東裏将吾(3年)、左SB大鷲有哉(3年)で組んだ3年生4バックが声を掛け合いながら、きっちり堀越の攻撃に対応。最後の局面では体を張って、決定的なシーンには至らせない。前半は堀越が攻勢ではあったものの、スコアレスで折り返した。

 後半も基本構図は変わらない中で、少しずつ堀越の攻撃が芯を食い始める。9分にはMF山口輝星(3年)のパスから、古澤の鋭いクロスは狛江GK佐々木晴基(3年)が果敢にセーブ。19分にもMF小林宏太(3年)を起点にMF日隠ナシュ大士(2年)のラストパスから、上がっていた渡部がゴールネットを揺らすもオフサイドの判定。21分にも中村ルイジのスルーパスに、抜け出したFW五十嵐悠(2年)のシュートはGKを破るも、戻った大鷲が懸命にクリア。狛江は懸命に凌ぎ続ける。

 ラスト10分は堀越の猛攻。30分の右CK。途中出場のMF東舘大翔(2年)のキックに、五十嵐のヘディングはわずかに枠の左へ。32分の左CK。中村ルイジのヘディングは、佐々木が丁寧にキャッチ。33分には左からこちらも途中出場の中村健太(1年)がクロスを上げると、山口のヘディングも佐々木がキャッチ。37分にもキャプテンのMF宇田川瑛琉(3年)が左クロスを入れると、中村ルイジのヘディングはクロスバーにヒット。どうしても1点を奪えない。

 40分。狛江は後半1本目のCKを手にする。途中投入されたFW毛利心駿(1年)が右から蹴り込んだキックに、中央で伊木が高い打点から頭で叩いたヘディングは、ゴールの中へ吸い込まれる。「途中から出た選手の方がボールを持てるので、彼らが出てきた時間帯で相手が焦れた所を、ウチがセットプレーとかで1個取って、逃げ切れればいいなと思っていました」と長山監督が口にしたプラン的中。ワンチャンスを決め切り、終了間際に狛江がリードを奪う。

「正直『もう終わったな』と。でも、『まだ時間があるのかな』と思って、まだホイッスルが鳴っていなかったので、行くしかないと思っていました」(古澤)。堀越は沈まず。アディショナルタイム。ペナルティエリア内に殺到した流れから、宇田川有潤が倒れると、主審はPKを指示する。キッカーに名乗り出たのは有潤の双子の兄、宇田川瑛琉。キックは左。GKは右。40+3分。土壇場で再びスコアは振り出しに引き戻された。

 延長も堀越が攻める。前半2分。中村のシュートは枠の上へ。7分。東舘が左から持ち込んで放ったシュートは、佐々木がビッグセーブ。10+1分。中村健太の左カットインシュートは枠の右へ。さらに後半1分。東舘のドリブルシュートは、狛江のMF千葉秀智(2年)が体でブロック。2分。左CKからこぼれを狙った中村ルイジのシュートは、ここも伊木が全身でブロック。狛江の執念がゴールに鍵を掛ける。

 2分。延長後半開始から投入されたアタッカーが魅せる。堀越のGKとDFの連携が乱れ、ここに全力でプレスを掛けたMF小山柚季(3年)がボールを奪うと、目の前に開けたのは無人のゴール。「あそこで奪えると思っていなかったので、ラッキーではありましたけど、小山が入ったことで前から行こうという意識になったので、それがうまく行ったのかなと思います」(伊木)。ツーチャンスで2点。2-1。狛江が再び一歩前に出る。

「だいたいここで終わっていくのがウチのパターンというか、『力はあるんだけどなあ』で終わっちゃうパターンですよね」と佐藤監督。しかし、堀越は沈まず。7分。左サイドで奪い切ったCK。「アイツは中学の時からコーナーキックを蹴っていたので、蹴れる感じは持っていた」と指揮官も語る中村健太のキックはニアに飛ぶと、混戦の中からこぼれたボールはゴールラインを越える。2-2。またも狛江のリードは霧散する。

 延長後半のアディショナルタイムは10+1分。「チームを勝たせる仕事をしないと、10番を背負っちゃいけないと思う」と言い切ったエースが輝く。右から東舘が蹴ったCKは、古澤の足元へ。1回目のシュートは佐々木が懸命に弾いたものの、「あとは押し込むだけというか、突っ込むだけだった」古澤が体で押し込んだボールは、ゴールネットへ転がり込む。3-2。直後に聞こえたタイムアップのホイッスル。「ここで負けたくないと思っていましたし、自分だけじゃなくてみんなそう思っていたはずなので、それがやっぱりこういう勝ちに繋げられたのかなと思います」という10番のサヨナラゴール。2度も沈み掛けた堀越が、劇的な逆転勝利で次のラウンドへと駒を進めた。

「前回の負けがみんな頭の中にあったと思います」と古澤が語った“前回の負け”とは、関東大会予選初戦の東海大菅生高戦。やはり押し込む時間の長い展開の中でゴールを奪えず、PK戦では1本も成功することなく敗退。全国ベスト8を経験してから初めて迎えたトーナメントは、屈辱的な形で幕を閉じた。

「たぶん全国のベスト8を経験させてもらって、『あの基準で考えよう』みたいなマジックワードがあった中で、実際は何も変わっていなくて、都大会の1回戦をしっかり積み上げていくという部分で言うと、『ちょっとオレたち、勘違いしてたよね』というのが、僕の中にも選手の中にもあったと思います」と佐藤監督。もう一度足元を見つめ直したが、それでもこの試合のように、「相手もリスペクトしてくれて、割り切った戦い方をされる」(佐藤監督)ことは起こり得る。それはある意味で、結果を出したチームの宿命でもある。

「この試合を何とか勝たなきゃいけないとかじゃなくて、プライドの中にみんなが立っていて、そういう見方もされていて、OBもみんなそれを見ていて、だからこそ『オマエらがやらなきゃダメだよね』という状況の中で、それでも結果を出すことが伝統の力の裏付けになるのであれば、ようやくそこの入口に僕らは立ってきたのかなと」。指揮官は昨年度だけではなく、この10年近くの歳月で積み重ねてきたモノの意味を、より強く感じていた。

 おそらく奇跡はそう何度も起こらない。堀越に本当の力が備わってきているのかどうかは、ここからの戦いで試されていく。

(取材・文 土屋雅史)
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