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「3度目の正直」には一歩届かず。桐生一MF金沢康太はそれでもさらなる恩返しの“4試合”へ向かう

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桐生一高を束ねるキャプテン、MF金沢康太

[11.23 選手権群馬県予選決勝 前橋育英高 1-0 桐生一高]

 3年目でようやく辿り着いたファイナルのピッチ。あと1勝まで迫った憧れの舞台には、届かなかった。

「自分にとっては3回目の選手権で、今までは2年連続準決勝で終わっていましたし、初めてのファイナルで、いろいろな想いがあってこの一戦に臨んで、もちろん優勝を第一に考えていたんですけど、このチームで全国に行くとずっと言ってきたことを叶えられなくて、本当に悔しいという言葉しか出てこないです」。

 桐生一高を引っ張ってきた絶対的なキャプテン。MF金沢康太(3年=FELEZA FC出身)は3年分の悔しさを押し殺し、必死に前を向いていた。

 前橋育英高と激突した群馬ファイナル。今シーズン4度目の対戦となる県内最大のライバルとの一戦は、いつでも特別だ。1年時からレギュラーを掴んできた金沢にとっても、3度目となる選手権予選での対峙。1度目は準決勝で0-1と敗れ、2度目は3回戦で3-2と勝利。1勝1敗で迎えた今回は、本当の意味で決着を付ける一戦だった。

「1年の時から先輩とプレーする機会が多くて、若月大和選手の存在も自分の中で本当に良い刺激になっていましたし、本当に良い先輩ばかりだったので、良い所ばかりを吸収できて、そういうことが自分にプラスに働いてくれたのかなと思います」。先輩たちの想いも背負って、決戦のグラウンドへと歩みを進めていく。

 前半から押し込まれる時間が続く。「本当に細かい部分ですけど、パス1つだったり、守備の一歩、攻撃の一歩、そういう部分はまだまだだったと思います」。それでも懸命に食らい付く。最後の局面では身体を張り、ゴールは許さない。

「少し足首を痛めてしまって、そこでチームの雰囲気を自分が落としてしまった責任は感じていますし、そこでチーム全体がカバーしてくれたのは嬉しかったです」。金沢は試合中の接触で、足首を痛めていた。だが、この大事な決勝のピッチを去るわけにはいかない。気持ちを奮い立たせ、目の前のプレーに集中する。

 0-1。スコアボードには、2年前と同じ数字が浮かび上がっていた。後半に奪われた1点を返せず、タイムアップのホイッスルを聞く。「自分たちにもチャンスがあって、育英にもチャンスがあって、その1本で決め切れるのが育英だったということで、そこは勝敗を分けた差なのかなと思います。育英に勝って全国に行くために桐一に来たと言ってもいいので、本当に悔しいです」。“3度目の正直”は、果たせなかった。

 田野豪一監督も「今年のチームには相当自信があったので、これを打ち砕く育英は凄いと思います」と話したように、自分たちの実力には確かな手応えがあった。昨年度の選手権予選で前橋育英撃破をピッチで味わった選手が8人も残り、チームの完成度は例年以上を誇っていたと言っていい。

「まずはプリンスリーグに向けてやってきた中で、開幕からうまく勝ちも獲れていましたし、試合を重ねていくうちに自分たちが良くなっている実感もありました。その次はインターハイに向けても100パーセントでやってこれていて、次は選手権という部分でやり切れたところはあったんですけど、まだ何か足りなかったのかなと思います」。キャプテンはシーズンをそう振り返りながら、続けて仲間への感謝を口にする。

「最初は去年から試合に絡んでいたメンバーとそうじゃないメンバーで合わない部分があって、上手く同じ方向を向けずに苦労した時期もあったんですけど、そういう時は去年を経験しているメンバーが、プレーでも声でも引っ張ってくれていたので、ここまで来られたのは本当に自分だけの力じゃなくて、みんなの力だったのかなと思います」。

 ほとんどの選手が涙に暮れていた桐生一。最大の目標は潰えたものの、彼らにはまだもう1つの目標が残されている。現在3位に付けているプリンスリーグ関東。残された2試合にいずれも勝てば、12月のプレミアリーグプレーオフへの進出権を獲得できるのだ。

 金沢の視線は、もう次のターゲットへと切り替わっていた。「今はプレミアプレーオフ圏内の3位にいるということで、難しいことはわかっていますけど、まずはあと2つ勝って、プレーオフでプレミアリーグに上がって、中村先生やスタッフの皆さんにも恩返しできたらなと思います」。

 かけがえのない3年間を過ごした最高のチームに、最高の置き土産を。まずは2勝。そして、さらに2勝。新たな歴史を刻むために、100パーセントの力を出し尽くす。もう後悔だけはしたくない。金沢の覚悟は、決まっている。

(取材・文 土屋雅史)

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