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インターハイ準優勝の米子北を飲み込んだ3年生の一体感。桐生一は今年最後の90分間にプレミア昇格を懸ける

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桐生一高は3発快勝でインターハイ準優勝の米子北高を撃破!!

[12.10 プレミアリーグプレーオフ1回戦 米子北高 1-3 桐生一高 エディオンスタジアム広島]

 もちろん選手権には出たかったけれど、逆に覚悟は定まった。このメンバーと一緒にサッカーができるのは、あとわずかに2試合。それならば180分間を全力で戦って、笑顔で終わりたい。

「ウチらは選手権に出られないからね。これが最後だから、やっぱりやり切ってあげたいなというのはありますよね。今日もメンバーに入れない3年生を全員広島まで連れてきていて、そのまとまりの勝利かなと。ここまで来たらチーム戦ですよ」(桐生一・田野豪一監督)。

 まずは90分間の“1試合目”を堂々とクリア。10日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2021 プレーオフ(広島)1回戦、インターハイ準優勝の米子北高(中国/鳥取)と桐生一高(関東3/群馬)が激突した一戦は、前半のうちにFW吉田遥汰(3年)とDF丸山琉空(3年)のゴールで2点を先行した桐生一が、後半にも追加点を挙げて3-1で快勝。初のプレミアリーグ昇格まであと1勝に迫っている。

 スコアは早々に動く。前半9分。やや長いボールで押し込まれていた桐生一のカウンターが発動。左サイドを運んだMF関根大就(3年)が中央へラストパスを送ると、吉田は躊躇なく左足一閃。米子北のGK山田陽介(3年)も必死に反応したものの、弾き切れずにボールはゴールネットを揺らす。実は吉田と山田は、中学時代に前橋FCで3年間を過ごした“元チームメイト”。「アイツには『ゴールを絶対獲るからな』と言っていたので、そこは有言実行で獲れて良かったです」と笑った吉田の先制弾。桐生一が1点をリードする。

 畳み掛けた青い稲妻。22分はセットプレー。右サイドで獲得したCK。レフティの左SB倉上忍(3年)が蹴り込んだキックに、ニアで丸山がきっちり当てたボールは、山田がここも触ってはいたものの、ゴールネットへ到達する。「『しばらくコーナーで点が獲れていないな』という話をしていたら(笑)。セットプレーはちゃんと用意していますし、メッチャ自信があります。良い形で入りましたね」とは田野監督。2-0。リードが広がった。

「最近の試合でも入りの失点は課題で、そこがなかなか修正できなくて、チーム全体でシュンとなってしまう部分もあったと思います」と山田も話した米子北は、それでもすぐさま反撃のファイティングポーズを。28分には岡山内定のMF佐野航大(3年)のシュートが右ポストを叩くと、32分には佐野がクイックで蹴り込んだFKから、右サイドで受けたMF渡部颯斗(3年)がカットインしながら左足で打ち切ったシュートが、ゴールを貫く。やり合う両者。2-1。インターハイのファイナリストも譲らない。
 
 ゲームリズムが変わる。米子北が攻める。だが、ここで桐生一の守護神が立ちはだかる。38分。佐野のスルーパスにFW福田秀人(2年)が巧みに抜け出し、GKとの1対1を迎えるも、「アレはもう距離的にあそこからファーに打たれることはないと思ったので、ニアを消しながら体を広げて当てた感じです」と振り返る桐生一のGK竹川慶士(3年)がビッグセーブ。さらに39分にも再び福田のボレーが枠を襲うも、竹川がファインセーブで掻き出す。今シーズンの正守護神を務めてきたGK竹田大希(3年)の負傷を受け、スタメン起用された竹川が好守連発。失点を許さない。

 後半に入っても、桐生一守備陣の集中力は途切れない。7分に米子北は右から渡部がクロスを上げ切り、中央で福田がフリーになったものの、CB椋野真登(3年)が決死のスライディングで回避。「相手は全部前に蹴ってきて、自分のボールを拾う仕事は相当キツかったですね」と話すMF浅田陽太(3年)とキャプテンのMF金沢康太(3年)のドイスボランチもセカンド回収に奔走。必死にコンパクトなラインを保ち続ける。

 セットプレー、再び。24分。左サイドで手にしたCK。テクニカルエリアの指揮官から指示を得たキッカーの金沢が、ニアに蹴り込んだ軌道を吉田が頭で変えると、ボールはゴールラインを超える。公式記録は倉上の得点となり、「アレも一応自分のゴールなんですよ。ヘディングですらして、相手が触ったんです」と主張したのは吉田だが、ゴールには変わりなし。大きな、大きな3点目を桐生一が後半のファーストシュートで強奪する。

 結局、ファイナルスコアは3-1。「前半の終わりぐらいに引っ繰り返しておかないといけなかったかなと。あそこでシュートを決め切れなかったから。後半は相手も完全に足は止まっていたけど、そこで仕留めきれなかったし、何か煮え切らない感じはありましたね」とは米子北の中村真吾監督。効率よくセットプレーで加点し、ディフェンス陣も奮闘した桐生一が粘り強く勝利を手繰り寄せ、プレミアリーグ昇格へ王手を懸けている。

 高校選手権では群馬県予選の決勝で前橋育英高に0-1で惜敗し、全国出場への夢が断たれた桐生一は、もうその4日後にプリンスリーグ関東の帝京高(東京)戦が控えていた。前節の勝利で3位に浮上していた彼らにとって、プレミアリーグプレーオフ進出の懸かった大事な一戦に、コーチングスタッフは決勝から半分近くスタメンを入れ替えて臨む決断を下す。

「代わりに出た3年生が身体を張ったプレーをして、前半は0-1だったけど『コイツらが頑張ったんだからな』と言って、後半はメンバーを選手権のスタメンだったヤツらに代えたんですよ」(田野監督)。その後半にエースのFW寶船月斗(3年)が2ゴールを奪って逆転勝利。この節でプレーオフ進出を決めたチームは、翌週のリーグ戦でそれまで出場機会の少なかった選手たちを起用し、試合には敗れたとはいえ、主力の休養とサブ組のモチベーションアップを同時に図ることに成功している。

「なかなか試合に出られなかったアイツらが全力でやってくれていたので、『自分たちもやらなきゃな』という想いになりましたし、その熱が伝わっているので、チームとして良い雰囲気でやれているのかなと思います」と浅田が話せば、「凄いと思います。選手権の負けからよく立ち直ったなって。でも、たぶん立ち直らせてくれたのは、それまでサブだった子たちの頑張りだったんですよね」と田野監督。ここに来てチームの一体感は、今まで以上に高まっている。

 泣いても、笑っても、残されたのは、あと1試合。「ここまで来たら失うものはないので、絶対に勝って、後輩たちに来年のプレミアという舞台を与えられたらなと思います」と力強く語ったのは、ここまでベンチから試合を見つめることの多かった竹川。プレミアに上がれるか、上がれないか。次の90分間が終わると、そのどちらか一方が手元に残る。もちろん望む結果は、言うまでもない。桐生一は大事な仲間との3年間で積み上げてきたすべての想いを結集させて、帝京長岡高(新潟)との決戦に挑む。

(取材・文 土屋雅史)
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