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「本当にマジメにコツコツやってくれる」3年生が示した基準。北海は全国で勝てるチームへの進化を期す

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先制点を喜ぶ北海高の選手たち。戦う気概は十分に見せた(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[12.29 選手権1回戦 北海高 1-2 長崎総合科学大附高 駒沢]

 押し込まれることは想定済み。予選からそういう展開の試合を我慢強く戦い、何度も勝利を手繰り寄せてきた。この日も終盤までは懸命に耐えてきたものの、最後は後半終盤のセットプレーで力尽きた。だが、チームを率いてきた島谷征勝監督は胸を張って、教え子たちの奮闘を称える。

「本当に北海道予選からしっかり我慢強くサッカーをしながらも、少ないチャンスをモノにしてここまで来たので、今日もプラン通りの最初の15分をしっかり戦ってくれて、先取点も獲れて、勝負の時間帯のところで失点してしまったのは残念ですけど、子供たちはこちらの指示も含めて、自分たちで決めたことをしっかりやってくれたので、本当に感謝しています」。

 黄色い一体感を纏い、タイムアップの瞬間まで諦めずに戦い抜いた北海高(北海道)の気概は、確かに駒沢のスタンドに詰め掛けた観衆の心へ届いたはずだ。

 立ち上がりは狙い通りだった。「最初の15分が長崎の方がかなり押し込むサッカーをやるので、そこに巻き込まれないようにしようとして、子供たちには『15分は逆に攻めよう』と話しました」(島谷監督)。

 前半2分にFW笹森洸成(3年)の仕掛けから、MF佐々木魁士(3年)がファーストシュート。7分にもMF西椋弥(3年)の右CKから、DF大友孝介(3年)がヘディングで相手ゴールを脅かす。以降はややペースを明け渡したものの、31分にはここも笹森が左サイドで見せたドリブル突破を起点に、西が先制ゴール。プランとしては完璧に近い形で1点をリードしてみせる。

 だが、結果的に奪われた2つのゴールは、いずれも前半終盤と後半終盤のセットプレーから。「セットプレーを与えないようにしようというのが今回の課題だったんですけど、前半の残り5分、後半の残り5分というサッカーの醍醐味の時間帯で、セットプレーから決められたということは力の差かなと思っています」と島谷監督が話せば、「セットプレーが大事だというのは前から言われていて、それでもセットプレーでやられてしまうというのは、自分たちの弱さも分かりましたし、全国レベルのセットプレーの強さを改めて感じた試合でした」とキャプテンのGK伊藤麗生(3年)。わずかではあったが、その差を痛感するような2失点で、勝利はその手の中からスルリと逃げて行った。

 チームで掲げていた目標がある。それは『啓史を全国に』。選手権予選を目前に控えたタイミングで、チームの精神的支柱を担っていたMF川崎啓史(3年)が左足首の骨折という重傷で戦線離脱。予選を突破して、全国の舞台でエースと一緒に再びサッカーがしたい。1つの大きな目標を抱いた選手たちは、粘り強く勝利を積み重ね、北海道制覇を達成。約束の舞台への挑戦権をもぎ取った。

 後半14分。7番を背負った川崎が、ピッチサイドに現れる。「啓史もコンディションを戻すために一生懸命努力を続けましたし、スタートで練習試合も試してきたんですけど、正直コンディションが良い形まで戻ってこなかったので、時間は限られているなという感じでした」とは島谷監督。スタメン復帰には至らなかったが、仲間の想いに応え、リハビリを重ねてここまで辿り着いた川崎は、20分に機転の利いたスローインでチャンスを作り出すと、23分にも丁寧なクロスで佐々木魁士のフィニッシュを演出。与えられた時間の中で確かな存在感を発揮した。

 伊藤の言葉はそのままチームの声を代弁している。「啓史とこういう大きな舞台で一緒にプレーすることができて嬉しかったんですけど、やっぱり勝って一緒に喜ぶというのが目標だったので、そこは凄く悔しいです」。彼らが改めて共有していた目標は、『啓史と全国で勝利を』に変わっていた。そこに届かなかった悔しさは残ったはずだが、それでも新たな目標を再設定できる状況を作り出したのも彼ら自身。そのことは大いに誇っていいだろう。

「高校サッカーを通して、サッカー面というより人間性の部分で凄く成長できたところがあったと思うので、それぞれ大学に行ったり、就職するメンバーがいますけど、それぞれの場所で学んだことを生かしていきたいなと思います」。この経験を今後にどう生かしていきたいかと問われた伊藤は、きっぱりとこう語りながら、後輩たちにもエールを送った。

「ピッチに出ていた1,2年生や、メンバーに入っていた1,2年生は、どういう“基準”でやらないと全国で勝てないのかということをしっかり新チームになって落とし込んでいって、次は全国で勝つチーム作りをしていってもらいたいなと思っています」。

 島谷監督が伊藤と同様の感想を抱いていることも興味深い。「今回の大会を通して、全国を戦うための“基準”というものが1年生、2年生は分かったと思うので、北海道のレベルではなくて、『全国で本当に勝つんだ』という気持ちで、この“基準”を持ち返って、練習に取り組んでいきたいと思います」。

「本当にマジメにコツコツやってくれる選手たち」と指揮官も評する3年生が示してくれた“基準”を刻み込み、北海の選手たちはこれからも粘り強く、真摯に、サッカーと向き合っていくに違いない。

(取材・文 土屋雅史)

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